第49話 小学三年ちぇい

「行ってきまーす」


「行ってきます」


「はい、若いお二人さん、いってらっしゃい♡」


 今日もこのラブコメの最高位、メインヒロインである光さんに見送られて家を出る。

 こんなに気持ちいい朝があるだろうか。

 今じゃあ主張の激しい朝の太陽光も受け入れることができる。


 今日も頑張って僕らを照らしたまえ。


「何悟り開いたように手広げて空見上げてるのよ」


「神に感謝……かな?」


「……キモっ」


 最高に蔑んだ視線を向けられ、我に返る。

 確かに俺、キメェわ。


「で、今日のプランはどんな感じなんですかね」


 実は今日、水着を買いに行くとだけしか言われていない。

 その他のプランは当日のお楽しみらしいのだ。


「そうね。まず初めにカフェでお茶がしたいわ」


「……何その優雅な朝」


「私は朝カフェに行くのが好きなのよ」


「そうだっけ?」


「そ、そうよ? だって私、大人な女性だもの」


「……ぷっ」


「何笑ってるの?」


 ドスの利いた声でそう言う加恋。

 

「別に、笑ってないけど」


「見苦しい嘘ね」


 あらやだすっごい睨まれてる……。

 そんなに加恋は大人の女性になりたかったのか。


 ここは幼馴染として、フォローしておこう。


「お前も大人の女性を志すようになったんだな。幼馴染嬉しい」


「……あぁ?」


「何でもないっすすみません」


 どうやら逆効果だったようだ。

 俺はすぐさま謝罪をした。


「ふんっ。ひとまず、駅前のカフェに行くわよ。異論反論抗議口答え一切受け付けないわ」


「……ふぁい」


 ――それ、いつもじゃん。

 

 そうツッコもうとしたが、ツッコんだらブチギレられると思ったので、そっと心の中にしまっておいた。




   ***




 到着したのは有名なカフェ、太陽マルクカフェ。

 名前のダサさは否めないが、いつもたくさんの人で賑わっている。


「わぁ~!」


 そして俺たちの机の上にあるものに目を輝かせる加恋。

 こんなにも純粋無垢な表情を浮かべる加恋は珍しい。

 これ、本人には絶対言えないけど。


「お前さっき朝ごはん食ったろ」


「これは別腹なの! それにしても、ほんとに美味しそう……」


 加恋が注文したのは、フレンチトーストキャラメルとタピオカドリンク。

 さっきから写真を撮ってはじかに見てを繰り返しており、実に女子高校生らしい。


 それとは対照的に、俺が頼んだのはホットコーヒーのみ。

 だって朝からこんなの食べたら、胃がもたれそう……。


「それにしてもお前……なかなか高カロリーだけど大丈夫なのか?」


「えっ? 大丈夫って?」

 

 今の加恋は小学三年ちぇいモード。

 なんだこれ……可愛いっ!


 もしかして俺はロリコンなのか……?


 そんなバカげた仮説が脳裏を過るほど、俺はロリモードの加恋に魅了されていた。


「そりゃ……太る、とか?」


 そう言った瞬間、加恋高校生モードに切り替わった。

 いつもの尖った殺傷能力の高そうな視線が俺に向けられている。


 加恋、おかえり。


「……ちょっと食べて」


「やだ」


「食べて」


「やだ」


「食べなさい!」


「んっ!」


 フレンチトーストを口に突っ込まれる。

 加恋は怒ったように顔を真っ赤にさせて、頬を膨らませて俺のことを見ていた。

 

 これは完全にNGワード言ったな。

 後悔しながら、フレンチトーストを咀嚼する。


「うめぇ……」


「当たり前よ」


 なぜか加恋がドヤ顔をしていたので、ツッコみを入れたらグーパンチされた。



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