第40話 天使と悪魔のファーストコンタクト

 昼食を食べ終えた後、ダラダラとドリンクバーを楽しんでいた。

 白幡さんの興奮は冷め切らず、依然としてテンションマックス。

 

「神之木さん神之木さん! ドリンクバーって何種類も混ぜてカクテルみたいにできるって知ってました⁈」


「知ってるよ」


「でもそれっていたずらとか罰ゲームの用途で利用されるらしいんですよ! それが、女子高校生のドリンクバーのたしなみ方らしいです!」


「うんうん」


 白幡さんの熱がすごい……。

 この調子だと初恋がドリンクバーになってしまうような気がする。まさに熱狂的な愛。


 まぁドリンクバーが初恋の相手になったら、もう俺では一般の道に戻してあげることはできなくなる気がするけど。

 でも白幡さん楽しそうだし、とりあえず今はいいか。


「ってことで、私にいたずらしてください!」


「えっ?」


「ドリンクバーでいたずらしてください!」


「……それって普通サプライズみたいにやるもんじゃない? というか、頼むことじゃなくない?」


「えぇー……」


 すっごい落ち込んでるやばいやらかした。

 白幡さんにおいてドリンクバーは命だ。そして一般的な女子高校生を感じることができる希望でもある。


 どうしてもいたずらしてほしかったのか……。

 しょうがないな。


「まぁとりあえず今からドリンクバー取りに行くから、白幡さんの分も取ってきてやるよ」


「えっ、私も一緒に行きますよ?」


「ドリンクバーでパシらせるのも、女子高校生のたしなみだと思うぞ?」


「……なるほど!」


 ちょろい。

 半端なくちょろすぎて簡単に釣れちゃう。


 俺は白幡さんのグラスと俺のグラスをもって、ドリンクバーに向かった。

 ちなみに白幡さんからのオーダーは特になかったので、何を入れるかは俺に一任されている。


「(……計画通り)」


 俺の知っているドリンクバーいたずらの定石は、パシらせといてとんでもなくまずい飲み物を作るというもの。

  

 白幡さんにこれを仕掛けてあげようという魂胆だ。


「(とびきりまずいものを作ってやろう……)」


 白幡さんから望んできたので、もはや容赦という言葉が今存在しない。

 ここまでに正当化されたドリンクバーいたずらは初めてだ。


 まぁとりあえず、自分のメロンソーダと、一応お口直しとしてオレンジジュースを入れておく。

 そしていたずら用は……野菜ジュースとトマトジュース。コーラに緑茶でどうだろうか。

 まぁ大概野菜ジュース入ってれば不味いだろう。

 

 結果、色が悪魔を表現したみたいなものができた。


 やりすぎた……とは思わない。女子高校生の世界は楽しいことばかりではないということを伝える意味でも、これはこれでいいだろう。


 まぁ、女子高校生の世界なんて一切知らないけど。


 グラスを何とか三つ持って、机に運ぶ。


 ずっとドリンクバーの方を見ていたのか、キラキラと目を輝かせている白幡さんと目が合った。


「神之木さん! それは……」


 白幡さんの視線の先には、化け物と化したドリンク。

 そんなに嬉しいかよ……少し引いてるぞ俺。


「まぁあれだ、作品名、『女子高校生の世界』ってところかな」


「女子高校生……! すごくおいしそうです!」


「そ、そうか……」


 どんだけ女子高校生に憧れてるんだか。

 まぁ飲んで後悔するだろうけどな。


「ほい。あと一応オレンジジュース」


 化け物の隣にお口直しも置いておく。


「すごい……神之木さん! 写真撮ってくれますか?」


「写真⁈」


「はい! 女子高校生になった記念です!」


「女子高校生の基準がもうわからない……」


 ものはドリンクバーだが、あるものに目をキラキラと輝かせて熱中してる時点で十分女子高校生らしいと思うけどな……いや、そもそも女子高校生なんだけどな。


 特に断る理由もないので、スマホを受け取って化け物を片手にピースする白幡さんをパシャリ。

 なんか……天使と悪魔の共演みたいな感じだな。


「ほい撮れたぞ」


「ありがとうございます! では、いただきます!」


 そう言って、一気に化け物ドリンクに立ち向かう白幡さん。 

 彼女は勇敢だ。だが、幻想を見すぎている。


 さぁ白幡さん。現実を知るがいい……(お前誰だよ)。


「……おいしい。すっごいおいしいです!」


「えっ? マジ?」


「はい! もう女子高校生の味がして格別です!」


 その発言大丈夫?

 別の意味にとれちゃったら大変なことになるんだけど?


 というかおいしいってマジかよ……。


「神之木さんも飲んでみてください!」


「お、おう」


 もしかしたら奇跡の味ができているのかもしれないなと思い、グラスを受け取って一口飲む。


「……不味い……」


 すぐにメロンソーダでヒール。

 白幡さんの舌バグってるな。


「えぇーそうですかね。私はすごくおいしかったですけど」


 そう言って、白幡さんは平然とまた一口飲んだ。


「まぁ白幡さんがおいしいって言うならいいけどさ」


 白幡さんからすれば、女子高校生の世界は甘々ということなのだろう。

 

「(……ん? あれ? 俺なんかおかしいことしたっけな……)」


 どこか胸の中に違和感がある。

 しかしその正体は考えてもよくわからなかったので、気にしないでおくことにした。



 

 二時間後、ようやく『ドリンクバーと触れ合おう(昼食だよね?)』の会は幕を閉じた。



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