第32話 白幡さんの新鮮な夏休み

 夏休みが始まった。


 私にとって夏休みとは、いつもよりも勉強する時間が増えて、いつもよりもたくさん寝られるという意味でしかない。

 でも、私には友達ができた。

 それも、私のことを受け止めてくれるような友達が。


「……今年の夏休みは、楽しくなりそう」


 天井にぽつりとつぶやく。

 

 いつもは大抵図書館に行って一日を過ごすのだけど、今年はどうだろう。


 神之木さんとドリンクバーを楽しみたい。だからずっと図書館に籠るということはないかもしれない。


 ドリンクバーってほんとにすごいと思う。

 あんなに手ごろに女子高校生できるものはなかなかない。

 私の中では、そこら辺の遊園地よりもずっと楽しい。


 でも、実際は神之木さんがいるからで、友達と一緒に時間を過ごすだけでこんなにも楽しいのかと思う。

 きっと、私一人だけでドリンクバーを楽しんだところで、ここまで楽しくなかったと思う。


「でも、これは恋心じゃないのかな……」


 机の上に置かれた少女漫画に視線を向ける。


 この少女漫画での主人公は、好きな人といるとすごく楽しいと言っていた。

 好きな人と一緒にいるシーンはキラキラと輝いているし、その物語にいない私でもドキドキして、どこか楽しい。


 でも、友達と過ごす時間も楽しそうなのだ。


 だから異性の友達と、恋人の違いがまだ分からない。


 もしかしたら、私は神之木さんに恋をしているかもしれないのだ。

 でも、その答えをまだ出せそうにない。


「とりあえず……もっと参考書を買わないとダメだよね……」


 まだ私は恋の教科書と言われる少女漫画を、一作しか読んでいない。まだまだ私には、知識も経験も足りない。


 だから、今は神之木さんとの関係を『トモダチ』としか表せない。だから友達。


 でもそれは同時に、好きな人になる可能性もあって……最近はそのことばかり悩んでいる。ただ、やはり答えは出せそうにない。


 思考がこんがらがってきたので、追加の参考書を買おうと思って神之木さんにメールを送った。


『少女漫画をさらに買いたいのですが、一緒に買いに行きませんか?』


 すると、数分後に返信が来た。


『いいよ。いつにする?』


『私はいつでも空いていますので、神之木さんの空いてる日に合わせますよ』


『そうか。じゃあ三日後なんてどうだ?』


『はい。空いてます』


『わかった。じゃあその日に。本を買いに行くだけか?』


『じゃあ昼食をあのファミレスで食べたいです!』


『白幡さんほんと好きだな(笑)』


『もちろんです! あそこには夢と希望と女子高校生が詰まっています‼』


『白幡ズアイならそうなんだろうな。じゃあ、昼前の十一時くらいに駅前でどう?』


『はい! それでお願いします! 楽しみにしてますね!』


『おう』


 あっという間にメールは終わった。

 でも、ただこうしてメールを交わしただけで、こんなにも胸が充実感で満たされる。


 やはり私の夏休みは、今までとは一味違うものになりそうだ。


「でも、ちゃんと勉強もしないと」


 そう思って私は夏休みへの期待を胸に、机に座り参考書を開いた。

 


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