第26話 少女漫画じゃないからそれ!
ファミレスでしばらくの間ドリンクバーを楽しんだ後、俺たちは駅前の書店に向かった。
その理由はもちろん、恋愛の教科書である「少女漫画」を買うためである。
俺の持論ではあるが、女子が恋愛に興味を持つのが男子よりも早いのは、精神的に成長するのが早いという面も存在するのだが、恋愛に関する本を読むからではないかと思う。代表例で言えば、少女漫画。
実際、光さんが半ば強制的に開催した加恋ルームツアーの時、加恋の部屋には少女漫画がたくさんあった。
それに、物語から得るものもあるだろうという推測。
「白幡さんは恋愛系の物語は読んだりするの?」
「私ミステリーが好きなの恋愛系は読んだことがないですね。テレビもあまり見ないので」
「なるほどね。まぁ登竜門的な感じだと思うから、それで学ぼうじゃないか」
「はい!」
ほんと素直すぎんだよなぁ白幡さんは。それにこの純粋無垢な、真っすぐな笑顔を向けてくるもんだから、こちとら色々心を動かされるわけで。
ほんと、慣れません……。
ファミレスから少し歩いたところにある、大きな書店に到着。
とりあえず少女漫画コーナーがどこにあるかわからないが、「まぁピンクっぽいところだろ」というアバウトな感じで書店内を散策。
すると、ふと参考書コーナーが目に入った。
「そういえばもう七月だもんなぁ……大学受験も迫ってるのか」
「そうですね。もう高校二年生ですもんね。ちなみに神之木さんは志望校とか決めました?」
「いやもう全然。何したいのかも全く決めてないから、進路希望調査票にはとりあえず近くの国公立を志望校にしておいた。でも俺、学年で平均的な成績だからぁ」
俺の成績は学年でも中の上くらい。ほんと、ちょびっと平均から出たくらい。平均的と言っても全く問題ないが、そこは若干見えを張りたくなった。
何気に俺の通っている高校は進学校であるため、もうこの時期から受験勉強を始める奴も多く、これから順位が落ちるんじゃないかと心配なところ。
「ちなみに白幡さんはどこにするか決めてるの?」
「私は東〇大学を志望してます。目指すところはやはりてっぺんです」
「さ、さすがだな学年トップは……」
「まぁ、私はずっと二位なんですけどね……」
少ししょんぼりとそう言う白幡さん。
俺にとっては二位なんて取った日には夜一人でフラダンス踊るぞ。ただ、こういうところが負けず嫌いなんだなと思う。俺からしたら、負けず嫌いは美徳だ。俺は諦めてるからな。
おっと安〇先生。僕に言葉をかけようとするのはやめましょう。なんだこの一人茶番は。
「そういえば、七月の初めに中間テストあるじゃんか」
「そうです! なのでそこで私は紅葉さんを下します!! 今度こそ負けられません!!」
ふんす! とやる気がみなぎっている様子。
でも、あなた今から少女漫画買うんですよね? 俺が言うのもあれなんですけど、テスト近いのに少女漫画買うの自爆行為じゃないですかね。
「だったら今少女漫画買ったらまずいんじゃ……」
「いえ大丈夫です! 私の持論として、国語が各教科に通じているように、恋愛という教科も又各教科に通じていると思うんです! つまり、これで私に足りなかった恋愛を学び、完全に紅葉さんに勝てるというわけです!」
「それ絶対違うから!! ひねくれた奴が母親に言い訳するときみたいになってるから!」
でもなぜだろう。白幡さんが言うと信憑性があるように思えてくる。
いや、そもそも恋愛が各教科に通じていないという証明ができないんだけどね。じゃあ俺否定できないな。でも、否定したい。わがまま律爆誕。
「まぁでも大丈夫です! 私知りたいと思ったらとにかく知りたいので!」
「そうか……じゃあ探すか」
「はい!」
こうしてまた書店内を散策する。するとその一角がピンク色に色づいていたところを発見。
こういうのって男は入りづらい雰囲気あるんだよなぁ。なんか悪いことしてるみたいで。でも今回は白幡さんがいるので俺を正当化。
何俺、前から入りたかったのかな。
新しい自分を発見した気がした。
「ここが少女漫画コーナーですか! なんかすごいです……女子高校生って感じがします」
「白幡さん女子高校生に憧れすぎじゃない?! 普通に女子高校生でしょ!」
そんな俺のツッコミをスルーして、その一角をぶらつく。
ツッコミをスルーされたことが若干……ほんと若干気になりつつも、白幡さんについていく。
「おすすめのものとかあるんですか?」
「うーん……ぶっちゃけ俺そこまで少女漫画読んだことないから、売れてるやつでいいと思う。帯に『アニメ化』と書いてあれば間違い。たぶん」
「なるほど……あっ! これ『アニメ化』って書いてあります!」
そう言って白幡さんは平積みされているものを一冊手に取った。
「えっとー……『男と男のパラダイス』……これが少女漫画ですか!」
「……いや違うわそれ! この漫画の表紙男しかいないし、そもそも題名少女いないじゃねぇか! 少女感ゼロだぞ!」
おそらく……これは『BL本』というやつだろう。
お初にお目にかかったわけだが、これはあかんやつ。
俺は白幡さんからある意味危険な本をとりあげ、元に戻す。
今の白幡さんがこの本を基本としてしまえば、一般的なものと少し違った恋愛観が生まれてしまう。別に同性愛を否定するつもりはないのだが、白幡さんは一般的な恋愛観を知りたいと言っていた。
だとしたら、この本を少し違うだろう。たぶん、恋愛ものであることに間違いはないが。
その後、何とか少女漫画を見つけることができ、その本を白幡さんは何冊か購入。
「なんかわくわくしてきました! 帰ったら読みますね! そして、メール送りますね! 神之木さんも読んでくださいよ?」
「おう。もちろんだ」
実は俺もちゃっかり同じものを購入。
俺もまぁ、一応勉強をしないとな?(恋愛)
「では、今日の夜にでも!」
「わかった。気をつけて帰れよー」
「はい! 今日はありがとうございました! 楽しかったです! ではまた!」
そう言って白幡さんは少女漫画が入った袋を抱いて帰っていった。
「俺も帰るか」
一応少女漫画を買ったと知り合いにでもばれたら恥ずかしいので、俺はカバンに入れておく。
なんか、危険物を持っている気分だ……
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