第21話 修羅場は必須イベントだったようだ
「あっ先輩! ここですよー!!」
「わかってるわかってる。お待たせ」
「いえいえ別に待ってませんので。じゃあ行きましょうか」
ららとの待ち合わせ場所に着いて、すぐに学校へ向かう。
今日のららはなんだか気分がよさそうで、さっきからニコニコしている。さっきなんて人目を気にせずわりと大きな声で、大きく手を振りながら存在アピールしてたからな。
きっと何かいいことでもあったんだろうなと思う。
「あっそう言えば先輩。どの私が一番か決めました?」
小悪魔的な笑みを浮かべて俺にそう聞く。
「いやもう傷心デート行くこと決まってんのね?」
「いやそこは先輩から頼んできてもおかしくないくらいに光栄なことなんですからね? ちなみに私、初デートなので。これはもう付加価値つきまくりですよ。先輩の人生全部もらってやっとトントン……」
「いやどんだけだよ! 俺の人生が安すぎんだろそれ! でも、ららほどの美少女だったらデートの誘いくらいあっただろうに、初めてとは意外だな」
「まぁ確かに誘われることはありましたけど、私、軽い気持ちでデートとかしたくないんで。大切な人と、デートしたいんです」
まるで恋する乙女のような表情でそう言うららを見て、ドキドキしたのは男として当然のこと。
何これ告白なんですかね? それともいつものからかい? もうこればっかりは分からんぞ俺は!
俺はオドオドしていると、ららはさらに追い打ちをかける。
「つまり、先輩は私の初デートを奪えるほどの存在ってことですね?」
「……それは本気か?」
「……さぁ、先輩のご判断に任せますっ」
ららはそう言って不敵な笑みを浮かべた。あっ今ちょっと小悪魔の存在が匂ったぞ。
小悪魔的後輩一級鑑定士の俺なら分かる。これは完全なるからかい。俺が本気にしたところを「にひひー! 先輩本気にしてやんのーぷすくすくすー!」と小ばかにするに違いない。
あっぶねぇ。危うく俺のこと好きなんじゃね? で確定するところだったよ。
男子高校生というもの、常に「こいつ俺のこと好きなんじゃね?」と、特に理由がなくても理由もこじつけては勘違いをするという生き物だ。その性質を利用した悪質な行為。
これはもう全男子高校生の代わりとして俺が踏みとどまってやったぞ! よくやった俺。
「で、傷心デートなんだが……正直俺もデートしたことないんだ」
「そ、そんなのわかってますよ。見るからにそうですもん」
「おいそれは失礼だぞこら!!」
「すみませーん」
ハイこいつ絶対思ってません。
あざとく舌なんか出してる時点でもうこれは戦犯確定。おまわりさーん。世の中の男子をたぶらかしてるやつはこういうやつですよー早く捕まえてくださーい。
「じゃあしょうがないので、私が勝手に決めちゃってもいいですか?」
「おう。頼んだ」
「じゃあ詳細は後程伝えますねー」
「んー」
それにしても、まさかららとデートをすることになるとは……出会ったころからは想像もできなかった。
ただ、お互いに恋愛的な意味での好意があってのものじゃなくて、まぁ普通に楽しむって意味でのデートなんだが……というか、そんなデートあるのか?
いやでもこいつがデートって言ってるだけで、傷心ってついてるしなぁ。こいつのことだからからかいの意味も含まれてるだろうし……まぁ、深く考えないでおくか。
俺はその結論にいたり、もうとりあえず楽しんじゃおうという気持ちになっておいた。
隣で歩くららは、スマホの画面を見ながら「ここにしよっかなー。んーでもここだと先輩をからかえないしなぁ」とか呟きながら傷心デート仮のプランについて考え中。
やっぱり、からかう気満々なんですね! い、胃薬とか持っていこうかな。それか前夜に可愛い猫の動画でも見て……。
そんなことを考えていると、背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「律ーおはよー」
その何気ない挨拶のように聞こえるその言葉……ではなく声、つまり発した人間に俺は驚いた。
だって……だってそれは……。
「あっこちらは律の後輩さんですか。どうもどうも、律の『幼馴染!!』の紅葉加恋です」
朝、俺が一緒に登校できないと断った幼馴染だったから。
「も、紅葉さん?! ……ってか幼馴染ってところを強調しすぎじゃ……」
加恋の存在に驚きつつも、若干引き気味のらら。
俺も、驚きすぎて声が出ませんハイ。
そんな俺たちに反して、びっくりするくらいに笑顔の幼馴染、加恋。
いつも外面で見せている完璧な笑顔だ。
でも、髪はぼさぼさだし、なんかすごい息が切れている。
まるで急いで家を出たみたいな……。
あっ、そういうことか。
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