第20話 ダブルブッキングの修羅場回避?

「いやぁ律君が朝の食卓にいるのなんて何日ぶりかしら。そこまで経ってないはずなのに、なんだか懐かしいわぁ! ほんと、よく私のもとに帰ってきてくれたわね!」


「は、はぁそうですね……」


「ちょっとヤダ男子高校生! もっとシャキッとしな!」


「は、はい……」


 俺は幼馴染、加恋の家にて朝ご飯をいただいていた。

 ちなみにこのとんでもなく朝からハイテンションな人は、加恋の母親である光さん。加恋が高校生なのだから結構年を重ねているはずなのだが……それを全く感じさせないほどに若々しく、そして美しい。


 ぶっちゃけ、この物語のメインヒロイン説があるほどだ。(違います)


 加恋の父親はもうすでに会社へ。つまり今は光さんの独壇場である。


「はいコーヒー。私の愛情をたっぷり込めたわ!」


「そ、そうですか……ありがとうございます、光さん」


「もぉー律君ったら、お母さんでしょお母さん!」


「そ、そうですね……光さん」


「もぉー悪い子はお仕置きですよ??」


 光さんはそう言いながら、「私はそろそろ仕事に行ってきまーす」と言ってリビングを出ていった。

 ほんと、いつも忙しない人だなと思う。ただ、とんでもなく美しいことには間違いなく、もはやお母さんではなくお姉さんである。ほんと、もしかしたら初恋の人になっていたかもしれないな。


 俺はそんなことを考えながら、出されたコーヒーを一口。うん、朝のコーヒーは格別だ。


 と、そんな風に落ち着いている場合じゃないことを思い出す。

 そういえば俺はダブルブッキングしてしまっていたのだ。それをどうするかなのだが……


「まぁ、先に誘ってくれたのはららだし、加恋には断っておくのが最適だよなぁ」


 一晩悩んで出した結論がこれ。まぁこれが一番妥当だと思う。早い者勝ち……と言えばなんだか二人が俺を取り合っているみたいになるのでおかしいが、まぁ先約はらら。

 ここはららを優先すべきという結論に至った。


 本来なら加恋も一緒でいいんじゃね? と思ったのだが、正直なところ下心があるわけではないのだが、学校を代表する美少女二人を連れて朝登校するというのも視線が痛く、小心者で凡人な俺には荷が重い。

 だからこそ、この結論だ。


「ふぁー。おはよー律ー」


 加恋があくびをしながらリビングに入ってきた。

 それも中学校のジャージで。

 ……それ、寝間着にしてるんですね。まぁ中学校のジャージってたくさんあるし、何度も言うが使い勝手がいいので日常的に着ることは分かるのだが……あなた一応女子高校生だよね?


 もっとファンシーな部屋着とか着るんじゃないんですかね。もこもこのやつ。

 ただ、そんなのはただの男子高校生の妄想にすぎず、現実はこうだ。


 朝から現実見るとかきちぃぜ。

 現実から目を背けるために朝プ〇キュアやってるっていうのによ。


「おはよ。お前起きるの遅いぞ」


「しょうがないじゃない。最近寝つきが悪いのよ」


「……なんか悩み事でもあるんすか?」


「……あんたに言われたくないわ! そこは乙女の領域だから踏み込まないことね!」


「なるほど……」


 なるほどとか言っておきながら、全然なるほどしてない自分がいる。

 ただ人間反射的にこういうことを言ってしまう。それは致し方ないのだ。


 俺は再びコーヒーに口をつけ、しようとしていた話を切り出す。


「あのさ、加恋。今日登校することについてなんだけど……」


「あぁーそうね。いつもの時間でいい? 今七時三十分だから……八時くらいにこの家を出ましょ」


 加恋は俺の真正面に座り、トーストにかじりつく。

 寝癖が飛びまくっているのがすごく気になったのだが、そんなことは今おいておいて話さねばならんのだ、と決意。


「いやそれがさ、実は後輩と朝登校する約束を前からしていてだな……」


「なるほどそうね、じゃあ少し早めに……えっ? 今なんて?」


 トーストを口にくわえながら「ほえっ?」と言いたげな顔をしている加恋。というか言っちゃってますこれ。

 俺は「とりあえずそのトーストを一回食え」と言いながら、もう一度言う。


「いや実は後輩と登校する約束をしてて……その、一緒に登校はできない。すまん!」


「……それって、女子?」


「……女子、です。はい」


「…………」


 やばい何この険悪ムード。今にも正面にいる前世恐らくボクサーのチャンピオンこと加恋が、破滅の連続パンチをお見舞いしてきそうな雰囲気だ。


 何今すぐ魔界のゲートでも開いて魔物登場してくるの? そんな雰囲気漂ってんだけど?!


 俺は「ひぃぃ……!!」といかにモブ感を出しながら恐れていると、その雰囲気は引っ込み、加恋は何かを抑え込んで、至って現実的な朝の光景に戻した。


「そ、そう。先約がいるなら仕方がないわね。いいわ」


「……あ、ありがとうございます……」


 やけに素直だな……。

 ただ、昨日で前とは違うということを理解しているので、ひどく驚くことはなかった。むしろ感謝。



 その後、特に何か特筆することもなく朝の時間は流れていき……


「じゃあ、先に行ってきまーす」


「行ってらー」


 と、未だに中学校ジャージで寝癖が立ちまくりな加恋に見送られて、ららとの待ち合わせ場所に向かったのだった。

 


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