第17話 幼馴染初のデレ一歩手前快挙
神之木律、高校二年生。四月に誕生日を迎え、もう17歳。
さらに言えばこの世の中がどれだけ発達しているのかも知っており、もちろんスマートフォンを持っている。どこでも話せる便利なスマホ。
もう誰でも使っているスマホという存在を知っていながら、それに頼ることなく会話をしている花の高校生が二人。
伝統文化を体験しているような気分になっていた。
まぁでも幼い頃はスマホなんて持っていなかったから、よくこうして糸電話で会話したものだ。
……なんで俺は成長してしまったのだろう……。
今この瞬間、時間が進むことが憎いと感じた。
「それで、話ってなんだ?」
「……今日、白幡さんと何話してたのよ?」
なるほどそういうことか。
確かに加恋は俺が誘われる現場にいたし、気になるのも当然のこと。
しかし、これは色々と言葉を選んで話さなければいけない。なぜなら、白幡さんは天使系美少女として知られているから。
それに、俺は白幡さんにシンパシーを感じていた。
だからこそ、どこか白幡さんを守ってあげたいような気分なのだ。
俺が知っている事実を口にしてしまえば、そのイメージを当然崩れ去る。というか百八十度変わるよね。
だからここは、秘技、『うまいことかわす』
「いや別にそんな大した話じゃねーよ。なんかさ、白幡さんが屋上の鍵をたまたま拾ったらしくて、でも屋上に入るのとかちょっと罪悪感あるじゃん? そこで、『赤信号、みんなで渡れば怖くない』理論よ」
ちなみに、屋上の鍵を拾ったというのは事実。ラッキーガール。
「……律ってさ、うまいことかわすの昔から下手よね。しかもそれを自分の中では完璧だと思ってる辺り、すごいイタイわ」
「やめて! 今律を労わろうキャンペーン開催中だから労わって!」
「い、いやよそんなの!」
「そんなのとか言わないでぇ! 俺たち幼馴染だよな? 色々あったとしても幼馴染だよな!!」
「……だとしたら、隠し事しないでよ……」
そ、それとこれとは別ではなかろうか……。
「いやほんとに大したことないんだよ。加恋が聞いても何も面白いもんはないって」
「……じゃあ私の質問に答えてくれない?」
「お、おう……」
ここで俺が「否!」と言ってしまえば後々大変なことになる未来が見えたので、俺は素直にうなずいておく。
幼馴染の行動を予測することに関しては、未来予知の域である。ただ、大抵恐ろしいことに限るんだけどね。すんごくいらない能力。
しばらくの沈黙の後、かすかな声が聞こえてきた。
「白幡さんに、告白された?」
俺はその言葉に「うっ」ってなる。
事実、俺は白幡さんに色々な告白をされた。
未成年の主張(過激頭狂ったバージョン)を一度にたくさんされた。
もはやオーディエンスも「なーにー?」って聞いてこない。
ただ、俺はそれを言えない。
さらにこれは好都合なことに糸電話。全く表情が相手に分からないので、俺のクソポーカーフェイスも何とかなる。
後は俺が変にボロを出さなければいいだけ。
「告白なんてされてないよ」
「……ふーん。まぁ、もし告白されてたら付き合ってるだろうし、今バカテンション高いはずだもんね。私相手でも」
「……あ、あはは……」
ヤバイ糸電話越しでこの威圧とか俺の幼馴染軍事兵器として利用できるんじゃないの?
そして各国が総出で加恋を取り合って……ついにこのラブコメも崩壊……。(そんな未来ありません)
「でさ、その……本題に移るんだけど……」
「本題じゃなかったんですね……」
前菜にしてはなかなかのヘビーさで胃もたれしちゃうぞ。
「それで、こないだの『ヤクソク』に関する話なんだけど……」
「……あぁ」
そういえば、と思い出す。
ほんと今日で色々なことがありすぎて、いつの間にか大切な疑問を脳の隅に追いやってしまっていたらしい。しかし、今の言葉で先頭へ。
「その……ね。こないだはその……急に怒ってごめん……」
「…………」
えっ嘘だろ?
あの加恋が……ツンデレキャラとか言っときながら今の今までツンしかなかった加恋が……デレの一歩手前くらいまで来てる……だと?!
とりあえず、沈黙はあれなので返しておく。
「いや全然いいよ。気にしてないから」
「そ、そう……それでね、私が言ってた『ヤクソク』のことなんだけど、忘れて欲しいの!! というか、忘れろ!!」
やっぱり加恋さんだぁぁぁ!!
しかし、どこか安心感を抱いてしまったあたり、俺は毒されているのだなと思う。
「わ、分かった……」
「それで、その……大変言いづらいことなんですが……」
「な、何でしょう……」
大変言いづらいこととはなんだ?
と考えを巡らせていると、俺が予想をつける前に、加恋が答えを言った。
「私の幼馴染に戻って欲しいの!!」
ヨクワカラナイヨ……
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