第15話 青春を間違えた二人のシンパシー
「きゅ、急に叫んで……一体どうしたんですか?」
「いやあのな、こんなバカげたヒロインを目の前にしたら誰でも叫びたい衝動に駆られるわけよ」
「そ、そうなんですか……」
白幡さんは若干引き気味に受け入れた。
引きたいのはこっちなんですけど。というか、願望とか以前にそもそも引いてました。
とりあえず、ここは男として……そしてとんでもない告白をいくつもされた身として、白幡さんと集中的に話し合う必要がある。
会議、スタート。
「俺が言うのもあれだけどさ、白幡さんの恋愛観はちょーっとおかしな方向に曲がっちゃってると思うんだ」
「えっそうなんですか?」
「じ、自覚症状はないのね……」
まぁ逆に自覚してこれやってんならそれはそれでもうラブコメってジャンル崩壊して、ただの頭のおかしいヒロインたちを物語という檻の中に放った物語になっちゃうからな。
まぁもうすでにとんでもないラブコメであることは間違いないんだけど……。
「じゃあ質問するけど、俺と手を繋ぎたいなとか思う?」
「いえ、繋ぎたいと思いません」
「……そこまできっぱりと言われるとさすがの俺も割と傷つく……でもまぁいい。恋人になるのって、確かにメリットがあるからってのもあるんだけど、そのメリットはそんな愛のないものじゃなくて、手を繋ぎたいとか、そういう気持ちを素直に受け入れてくれる存在ができるってことなんだ」
「そ、そうなんですか……」
なんかすごい今俺、あとで振り返ればクソ恥ずかしい! みたいなこと言ってるけど今はそんなこと考えずにいよう。そう、今の黒歴史は未来の自分に丸投げである。
白幡さんは今まで自分が持っていた恋愛観と、俺が今教えている一般的な恋愛観が脳内でバトっているようで「うーん」と唸っている。
俺は一般的な恋愛観が勝てるように、支援物資(言葉)を送る。
「だから、ただただ利用するみたいに告白しちゃダメだと思う。ちゃんと告白するなら、好きな人に告白するべきだよ」
「……なるほど……。私、全然恋愛ってものを理解してませんでした。ご迷惑かけてすみません。私、律さんのことを好きでもないのに……」
あの最後の言葉いります? 俺を無自覚に傷つけるのだけはやめましょうね?
俺、今なかなかにいい仕事をしたと思うのに、最後の言葉は悪い意味でグサッと来ました……二日は寝込みたい。
ただ、白幡さんはまっすぐすぎるので、これも白幡さんの性格上致し方ないことかと受け入れる。人間、受け入れること大切。やばい俺悟り開けそう。
「まぁ気にしないでくれ。それで、一番大事なことを話したいんだけど……」
「大事なこと……ですか?」
全く見当がつかないといった感じできょとんとした表情を浮かべている。
まぁ今までの自分の言動がおかしなことだらけなことに気づいていないのだろう。
ただ、俺はあいつの『幼馴染』として、聞いておきたい。
「白幡さんって……もしかして負けず嫌い?」
「はいもちろんです」
なるほど。これが諸悪の根源か……。
まさか学校随一の美少女がとにかく純粋な負けず嫌いだとは……思ってもいなかった。
ほんと、これは類も見ない純粋すぎる負けず嫌いだな……恐ろしいぞ。
その純粋がから回ってとんでもないことになっているけどな。
まぁそこは、なんだか俺と同じ部分を感じる。
「それで……加恋のことを結構ライバル視してる……とか」
「そうですね。私、どうしても紅葉さんに負け続けてることが嫌で……負けたことを思い出すだけで私の理性が崩壊して頭のねじが何本が飛んで行ってしまいそうです」
大丈夫もうすでに常人には考えられないほどに、ねじが飛んでるか曲がってるかしてるから。
しかし、このツッコミは心の中にしまっておく。
「そのさ、すごい失礼で上からなこと言っちゃうんだけどさ……もしほんとに負けたくないなら自分でどうにかできることをしたらいいんじゃないかな?」
「…………そうですよね…」
「俺が言うのもなんだけどさ、俺と付き合って出し抜こうだなんて……間違ってると思う。ほんと、加恋に一万回告白してる、間違いだらけの俺が言うことじゃないんだけどさ」
ほんとにそうだ。
俺の方が間違いだらけだ。だけど、今はそれに気づけてる。ほんと、気づくのが鬼遅いけどな。
ほんとそんな俺が言えたことじゃないなと自分では理解しているが、俺と同じで曲がっている恋愛観を持っている白幡さんを見て、言わずにはいられなかった。
「そう…ですね。ほんと、ごめんなさい」
「大丈夫大丈夫。まぁ気にすることじゃないよ」
実際は気にしてほしいけどね?
でも、こんなにも早く理解することができた白幡さんなら、曲がった恋愛観も、負けず嫌いすぎるところも、ちょうどよくなれると思う。ただ、それを今まで指摘してくれる人がいなかっただけで。
ほんと、今日の俺はなんだか上からで、我ながらムカつくなと思う。
結局自分を傷つけているのは自分だった……敵は身内に! ってか自分!
「はい……これからは、私が努力して紅葉さんに勝とうと思います」
「そうか。俺、陰ながら応援してるよ」
「はい! ありがとうございます! ほんと、いろいろと助言、ありがとうございました!」
……なんかいい話になってる。
というか白幡さんの理解が早すぎなんだよな。それほどに純粋なんだろうなと思う。
そしてこの行動も又、そんな純粋から生まれてしまったもの。別に俺が責めることでもない。
……なんか俺いい奴みたいになってるなぁ。
……それ自分で言っちゃう当たりだめだお前は好感度低い系主人公だって?
これ以上俺をいじめるのはやめてくれぇ!!
俺を労わろうキャンペーン開催中。
「じゃあ俺はそろそろ行くよ」
俺はそう言って立つ。
出会いはそう簡単に転がってるもんじゃないよな普通。
まぁ焦らずに見つけていくか。
そう決心したところで、足を前に出した瞬間、制服の袖をつかまれ、引き留められた。
「その……ぶしつけがましいお願いだとは思うのですが……その……」
白幡さんの方を振り返ると、白幡さんは珍しく頬を赤く染め、明らかに照れていた。
俺はそんな姿を、またおや可愛いと思ったのはもちろんのことであり、とんでもないことをぶちかました後のヒロインとは思えないほどだった。
白幡さんは、力強く言った。
「私に、恋愛を教えてくれませんか!!!」
変な出会いが、俺の足元に転がってきてしまったようだ……
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