第12話 もう一人の学校一の美少女が俺に話だと?!
「おはよー律」
「おはよう律君」
「おはよ、二人とも」
教室に入るとすぐに仲睦まじいカップルの姿が目に入った。
ほんと二人はいつもセットで見る。それに加えてそんな二人を見ているとこっちまで幸せな気分になってくるもんだから、もうこれはまさにハッピーセット……ごめんなさい。
「そういえば律。課題の英語レポートはやったか?」
「……なんだそれ……」
「英語の授業で気になったニュースについてまとめるレポートの課題今日までだったでしょ?」
「あ、あぁ……」
言われてみれば、そんな気がしてきた。
でも昨晩はすぐに寝ちゃったし、俺はもとより計画的にやるタイプではなく大体一夜漬け。テスト前日とかとりあえず神社いく。
そんな俺は昨晩すぐ寝ているのでもちろんレポートは白紙。
でも、白紙ってなんにでもなれるんだぜ?
……いくら俺のポジティブシンキングでもフォローしきれないよ俺……。
「でもレポート提出は五限目だからまだ時間あるぞ? あと、俺たちもできる限りのことはしてやる」
「えっ天使?」
「それは音羽だけだ」
「ちょっと翔。そういうのは堂々と言うもんじゃないよ? 私だって恥ずかしいんだからね?」
あの……天使かと思ってたんですけど目の前でいちゃつくのやめてもらっていいですかね。たとえ神のようなカップルでも、彼女いない俺の目の前で美男美女カップルがいちゃついてたらイラつくもんなんですよ? 戦争か? 戦争なのか?
「まぁとりあえず今からでもやるから、なんかニュースくれ」
俺がそう言うと、翔は少し考えた後、あっと思いついた様子で話し始めた。
「……メンタル最強高校生と呼び声の高い、高校二年、神之木律さんがフラれた回数ギネス世界記録に挑戦。一万回を達成し、見事ギネス更新です!! いやぁすごいですねぇ解説の音羽さん?」
「そうですね。凄まじい愛を感じました」
「おいこらぁぁ!!! まだいじるにはタイムリーすぎるぞこらぁ!! あとカップルで、しかもその清々しい穢れのない目で言うのやめろ? 俺が悪役みたいになってるからな? おかしいの俺じゃないよな!」
「これは一大ニュースだぞ。しかも一番詳しいんだから、もうこれは筆が進む進む」
「いやもうやめろや!!」
と今日イチのツッコミをかます。
仲良しカップルのコンボプレーに単体の俺は圧倒された。もうこの連携はずるいぞ……数的不利だし。
そんな、ふざけている俺たちを見ている少女が一人、ふと俺の視界に入った。
今日は昨日と違って目つきは鋭くないものの、相変わらずって感じな俺の幼馴染。
現在俺たち三人の前で停止中。
「おはよ加恋」
「おはよー音羽」
さり気なくかわされる挨拶。
こういう切り替えは一流なんですよね。ほんと、常にその外面でいてくれるとサンドバッグ最有力候補の幼馴染としてはありがたいなぁ。
そんな願いははるか彼方へと飛んでいき、加恋は俺の方を向いた。
でもあれ? なんか睨まれて……ない……?
それどころか恥ずかしそうに視線を下に向けている。
どうしたんだろうか。
「あのさ……律」
「……お、おう……」
なんだこの付き合いたてのカップルが初めて名前呼んでるみたいなむずがゆさは。
だったらまだキラーモードの方がいつも通りで安心できる。
「あのさ……私――」
加恋が何か言おうとした瞬間、教室におっとりとした声が響いた。
「すみませーん。神之木律さんはいますか?」
その声を聞いた人は一様に俺の方を見た。
俺は加恋の言葉に耳を傾けていたため、加恋の方とその声の方に意識が二つに分かれ、よくわからんといった感じで若干混乱。
さらに、その声の主は俺も……いや、誰もが知っている人だったので、さらに頭は混乱した。
「え……え? お、俺?」
「……おい律お前何したんだよ」
「なんで俺が悪いことした前提で話進めようとしてんだよ」
しかし本能的に翔へのツッコミはできた。
俺、漫才師にでもなれるんじゃないのか。
しばらくきょろきょろクラスを見た後、俺と視線がばっちり合う。「あっ」と声を漏らし、にっコリとした笑顔を浮かべて、周囲の視線なんてお構いなしにずんずん進んできた。
そしてあっけらかんとしている俺と加恋の目の前に来て、口を開いた。
「神之木律さんですよね?」
「……は、はい」
あまりのオーラに圧倒される。
長い金髪におしとやかな雰囲気。夏の青空を彷彿させるほどに透き通った青い目。
モデルだと言われても余裕で納得できる整った顔立ち。
「私、白幡新奈(しらはたにいな)って言います」
白幡新奈――
加恋と同じく学校一の美少女と呼び声の高い人物で、加恋と人気を二分している人物だ。
そんな人が、なぜか俺のところにわざわざ来ている。
俺……ほんと何かしたのかなと思うくらいにイレギュラーな状況が生まれている。
白幡さんはなぜか加恋のことをチラッと見た後、天使のような微笑みで俺にこう言った。
「あの……今日の放課後、話があるので屋上まで来てくれませんか?」
……へ?
あまりにイレギュラーが重なって俺の頭は混乱に混乱を極めた。
周囲の人間もまたそんな感じで、まるで白幡さんの世界だけ時間が動いているんじゃないかと思うくらいに静止している。
「あの……神之木さん。それで……いいですか?」
「……は、はい……」
知らぬ間に勝手に口が動いて、俺はそう返事をしていた。
俺の返事に、白幡さんは天使のような笑顔を浮かべた。
「ありがとうございます! では……待ってますね?」
白幡さんはそう言って、満足げな表情を浮かべて教室を出ていった。
嵐と表現するにはどこか美しさが足りない。しかし、白幡さんの登場により、喧騒に満たされていた教室が静まり返っていた。
何か言おうとしていた加恋も、口が開いたまま止まっている。
なんだあのオーラは――
俺はとんでもない美少女に、呼び出しを食らってしまったらしい。
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