第11話 後輩がウザがらみしてくるのだが

「ふはぁ……」


 大きくあくびが出る。 

 昨日は逆に寝すぎたので眠い。ほんと、人の体とは不便にできているなと思う。ちょうどいいが一番難しいっていうのに。

 と、どこにもぶつけられないような不満を抱えながら、学校に向かう。


 道にだんだん同じ制服を着た人たちが多くなってきたところで、コンビニの前できょよきょろしている美少女が一人。

 

 そして俺を見たところで「あっ!」と声を出して嬉しそうな顔で俺のもとに駆け寄ってきた。


「先輩遅いですよー! 女の子を待たせるなんて、先輩は乙女心ってものを知らないんですか?」


「ストップオーケー一旦ららワールドは心の中にしまおうか?」


「……先輩何言ってるかわかんないんですけど」


「それはこっちのセリフだ!!」


 俺のツッコミに、「それですそれ」みたいな顔をして嬉しそうにほほ笑む。

 ほんと、朝から疲れちゃうんですけど。

 あと、乙女心を知らないってやつは割とグサッてきました。


「で、なんで俺がららと待ち合わせしてることになってんだよ?」


 コンビニの前で長話もあれなので、学校へ足を進める。

 ららはひょいっと俺の隣に並んだ。


「私昨日の夜くらいに先輩に伝えましたよね? それもちゃんと響くようにお風呂で」


「それ響いてるのららの家の風呂場だけだから! あと、もしそれで遠い俺に響いてきたら、そんな世界ノイジーすぎんだろうが!」


 朝からツッコミをハイペースで入れているので思わず息が切れる。

 そんな様子を見たららが俺の懐にぐっと入り込んで、上目遣いで言った。





「あれれー? 息切れてますけど先輩もしかして……今えっちなこと想像しました?」





 にまぁという効果音が似合いそうなにやり顔をしてくるらら。

 あのーあなたただでさえ美少女で人目を惹くんだからそういう大胆な行為は控えようね! 俺が色々と大変になっちゃうからね!


「そんなわけないだろ? ハードワークなツッコミに疲れてたんだよ」


 軽くあしらって、ららを隣に戻させる。

 すると頬をぷくーっと膨らませてすね始めた。

 

「男子が、女子から『お風呂』って単語聞いたらえっちな想像するのはお決まりじゃないですか!」


「そ、そんなことはねぇよ!」


 そ、そんなことあるかもしれないけど……ね?


「もぉー先輩はいじりがいがなくてつまんないです」


「つまんなくてどうもすみませんね」


「ぶぅー」


 ほんと、ららと話していると妹と話しているような気分になる。

 俺に妹はいないから、あくまでも想像でしかないんだけど。


「で、話は戻して。これからは八時にあのコンビニに来てくださいね。一人寂しい先輩を私がかまってあげます」


「妙に上からだなおい。それはららが寂しいからじゃないのか?」


「なわけないじゃないですか。私は先輩をいたわるただのいい後輩ですよ」


「それ自分で言う?」


「私、客観的に自分の評価をちゃーんと見れるので」


「そうかいそうかい」


「私の扱いが適当ですよー! ぶぅー」


 最後の「ぶぅー」はもはや語尾のような登場頻度だな。

 もし本当に語尾ならおかしさ極まれり、だけどな。


 まぁでも、この後輩は悪い奴じゃない。それは間違いないのだ。

 まぁ扱いには困るけどね?


「で、先輩毎朝ちゃんと来てくださいよ?」


「……わかったよ」


 後輩からの優しさを先輩である俺が受け取らないはずがなく、優しさありがたく頂戴いたす。

 実際、まだたったの二回だがららと登校するのは楽しいなと思ったしな。


 俺の返事に「当然ですね」と言わんばかりのどや顔をして、また小悪魔的な笑みを浮かべた。



「これから朝が楽しみですね?」



「そうだな」


「もぉー素っ気ないですよ先輩ー」


「細かいなこら!!」


 そんなまるで漫才のような会話を繰り広げる。

 

「そう言えば先輩! 今度傷心デート行きましょうよ」


「傷心デート?! なんだそりゃ」


「傷心旅行の下位互換です。ふんす!」


「下位なんだ!」


「まぁ相手が私なので、実際は最高位です」


 この後輩自分大好きなんだなぁ。

 ここまで自分大好きな人を俺は他に知らない。まぁ、俺は自分が好きかと言われれば普通だなと思う。

 まぁ常日頃から、「俺自分のこと好きかなぁ?」と思うほどぽわぽわしていない。


 まぁ結論を言うと、考えてないんだけどね。

 

「で、行きましょうね!」


「お、おう」


 断る理由も特にないのでオーケーと返事しておく。

 実際、デートという言葉にドキマキしていることに間違いはなく、それに関して興味はあった。

 だって僕、男の子なんだもん。


 しかし、今まで恋愛対象と見てこなかった後輩のことを……というかそもそも、ららは高嶺の花か。まあ加恋も高嶺の花なんですけどね。そこはスルーしよう。

 見たくないもんは見ない。考えたくないことは考えない。これこそ人間。


 でも、こんなにも積極的に関わってくれると少しは勘違いしちゃうわけで、こんな身近に……それも大きな出会いが転がっているわけもなくて、目覚めろ俺! と自分に言い聞かせる。


 俺とららは後輩先輩の関係。


 きっとそれ以下でも以上でもないんだろうなと思う。


「何さっきから黙ってるんですか? もしかして、私のこと考えてたり……?」


「違うわ! 全然違うわ!」


 あったりー! と『リトル律~ピュアな少年バージョン~』が脳内でコール。むろん遮断。


「えっちなやつですか? そうなんですか!?」


「なぜそれを推すんだ! 全然違うから! もう一旦落ち着けー!!」


 そうだ。

 こんなからかってるやつが、俺のことを好きなわけあるか。

 たぶん、よくツッコんでくれるおもちゃくらいの存在なんだろう。あれなんか涙が……。


 そんなこんなで、俺のちょっとした勘違いは一瞬にして消え去ったのであった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る