第7話 幼馴染の心ゴースト化現象
帰宅後、制服のまま部屋にあるベッドにダイブする。
制服がくしゃくしゃになっちゃうな、なんて思うけどまぁいいやと思う。すごく意味のない脳内の会話を繰り広げている。
「はぁー……」
口からこぼれるようにため息をつく。
なぜため息をついたのかというと、これも特に理由はなく、ただただため息が出ただけ。
でも、強いて上げるとするなら加恋との関係が諦めてから悪化したことだな。
「俺ほんと、なんか悪いことしたかなぁ……」
まぁ昔からなぜか俺だけにツンデレのツン多め、みたいな感じだから普通ではあるんだけど……今日はツンの数がやけに多かったように感じる。
うーん……すごく無神経だけどあれな日だったりするんだろうか。
……無神経すぎたな。反省。
「さてと、夜ご飯にするかな」
ベッドから抜け出し、私服に着替える。私服と言っても、中学校の頃のジャージ。
ほんと中学校のジャージ汎用性高い。ただ、デザインは何とも言えないが。
ふと、もし中学校のジャージが時代の最先端になったら、というくだらない妄想が頭の中に広がる。
渋谷のスクランブル交差点。原宿。竹下通りにて。
輝かしい若者たちが中学校のジャージを着て自撮りパシャパシャ。
……くだらねぇ!!!!!
俺の考えていることのくだらなさを実感しつつ、リビングへ。
戸棚からカップ麺を取り出す。いつも加恋の家で食べさせてもらっていたから、自炊できるほどの料理の腕前がない。ちなみに、料理ゲームなら俺に勝る奴はいないだろう。はい、どうでもいい。
『ピンポーン』
電子ポットをセットしているとき、インターホンが鳴った。
宅配を頼んだ心当たりはない。一体何だろう。
「はーい」
『わたし』
最近はやりのメリーさんかなんかか? と疑っていたがそんなことはなく、インターホンには仏頂面の幼馴染が映っていた。
それも、中学校のジャージで。胸には『紅葉』と書かれている。さっきくらだらない妄想をしたせいで、それと幼馴染の姿が相まってよく分からない面白さが胸の中から沸き起こった。
俺という人間のくだらなさがこのわずかな時間で立証されてしまったこと、誠に残念。
「ど、どうした?」
『と、とりあえず開けて』
「わ、分かった」
そう返事をして玄関まで行く。
加恋が俺の家に来るというのは珍しくないのだが、今の状況から考えると少しおかしい。
いやでも、諦めたからと言っても幼馴染であることには変わりないし、今までの関係とあまり変わらないのかと思う。
まぁどちらにせよ、理由は加恋に聞くべきだと思い、ドアを開けた。
「どした?」
「い、いやさ……お母さんがこれ、もってけって……お母さんが」
「そこ倒置法で強調しなくていいわ! 分かってますから。でー……それは……」
中学校の時のジャージ姿の加恋は、何やら鍋を持っていた。
うーん……ついに毒殺を試みようと……?! って変な妄想をしてしまうが、大魔王の幼馴染でさえもそれはないだろう。
「これカレー。今日の晩御飯。お母さんが心配してるのよ。律って料理できないでしょ?」
「あー確かに」
実際カップラーメンで済まそうとしてたし。
「だから、早く家に入れて。というか重いからもって」
「お、おう」
加恋から鍋を受け取り、家に入っていく。
いつもなら何食わぬ顔でずかずかと入ってくるのだが、先ほどから視線が下ばかりにいっていて全然目が合わない。
確かに俺もぎこちない感じはあるのだが、それ以上に加恋がぎこちない。
この雰囲気に俺は耐えられなくなり、とりあえず話題を提示。
「加恋って中学のジャージ着るんだな」
「わ、悪い?」
「いや全然。ただ、今俺もジャージを着ているわけで……なんだかペアルックみたいだなと――」
そう言った瞬間、幼馴染は顔を真っ赤にして憤怒。
ついに炎の魔人になったんですか……キャラが豊富ですね……
「全然違うから! これは……事故よ!! 私が意図的にそうしたわけじゃないからね!」
「事故って……そんなに俺とペアルックが嫌か!」
「いやよ!!!」
そ、即答かよ……。
でもこれに関しては俺の話題提示がおかしかったと言わざる負えないか。
まぁ俺も、この状況に少なからず動揺しているということだ。
「というか、俺の家上がる必要あるか?」
「っ……」
鍋を渡すだけなら、玄関先でもよかったものの、加恋はリビングまで来ている。
ど、どういう風の吹きまわしなんだろうか。
ち、ちなみに金銭類はないぞ!!
「いやその……」
「ん?」
なんか加恋が、今にも恥ずかしいことをいうかのように照れている?!
これは俺の幼馴染人生の中で初めての姿であり、レア加恋が登場している。SSRだよこれ!
しかし、加恋のことは諦めると決意しているので、下心を、重りをつけて心の海に沈めておく。
すると加恋は吹っ切るように言った。
「わ、私が一緒に食べてあげるわよ!!!!」
「……は?」
今日の幼馴染、真意が全く分かりません。
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