第5話 ボッチ飯を二人のおかげで回避できた

 俺が通うこの高校は中学校の頃とは変わって七十分授業のため、一つ一つのコマが重い。

 

 おかげさまで昼休みに入ったときは危うく昇天しかける。それくらいに解放感があって、どこぞのエナジードリンクよりも高確率で羽が生えるだろう。実際、気分なんだけどね。


「翔。早く食堂いかないと席取られちゃうよ?」


「ちょっと待っててくれ。板書のまとめをしてるんだ」


「そっか。じゃあ待ってるね」


 隣のカップルはとても仲がよさそうです。

 今なんかまったくイチャついてる感じはないのだが、板書している翔を妻のように温かい目で見ている。付き合ってから一年も経っていないというのに何ともまぁすごい年季の入り方だ。


 おっと忘れていた。

 俺は今二人のことを考えていることよりも、もっと大事なことを考えるべきだった。

 いつもの昼休みなら加恋と二人で食堂に行くのだが(お水運びとして大活躍)、さすがにいけんだろ。加えて加恋はもうすでに友達と消えた。さて、ボッチ飯の時間ですかね。


「よし終わったー、お待たせ。あれ? 律は昼いかないのか?」


「今どうしようか悩んでるとこ」


「そうか……じゃあ俺たちと一緒に食堂いくか?」


「それはありがたいんだけど……悪いだろ」


 さすがにカップル水入らずの時間だ。俺が介入するのも心が痛むというもの。

 特にそういうのは彼氏側が大丈夫でも彼女側は気にするだろう。

 しかし、音羽は優しい笑みを浮かべて俺に言う。


「全然大丈夫だよ? なにせご飯は大人数で食べたほうがおいしいからね」


「……天使か!!」


「俺の彼女に惚れてくれるなよ? よく見なくても可愛いんだからさ」


「はいはい可愛いとか簡単に言わないの」


「へいへい」


 なんだこの安心感のあるカップルは……。というか何気にイチャついてましたね。でもこれも又年季が入っていて眩しくない。

 むしろ見てるこっちまで安心感と幸福感を味わえるくらいだ。



「まぁ、親友の彼女を取ったりしないよ。それに、音羽はいい友達だ」


「……親友って勝手に決めつけないでもらえる?」


「まさかの片思いかよ!!」


「片思いに好かれてんだなお前」


「タイムリーな話題をいじるな!!」


 と、こんな会話をするくらいには気持ちが楽になった。

 授業の行間でもこの二人が話しかけてくれたのが、だいぶ心にゆとりを作ってくれたのだろう。

 やっぱり、いい奴らだな。


 そんなこんなで、俺たちは食堂へと向かった。




    ***




 この高校の学食はうまいと評判であり、食通の奴はわざわざここの学食を食べるためにこの高校を受験するらしい。

 さらに高校生には優しい値段で提供してくれるため、ほんと助かる。


 そんなこともあって毎日大盛況。席の取り合いになることもしばしばあるのだ。 

 そして現在、若干出遅れたせいで席は見た限りでは埋まっていたが、ここはなんとか俺のパしられたことにより強化された機動力によって席を確保。

 加恋教官に感謝いたします! ビシッ!


「じゃあ俺待ってるから二人は先に買ってきなよ」


「うんじゃあお言葉に甘えてー」


 俺は席確保のためここに待機する。

 ちなみに、待機することもまた加恋教官の教えだ。

 この学食で仲間が助かることをすることに関しては最強。


 ぼけーっと人を眺めていたら、癖になっているのか視界に加恋を捕らえた。

 五人くらいの女子生徒に囲まれている。さすがに学校一の美少女。人望も厚い。


 そしてそんな加恋集団がだんだんとこちらに近づいてきた。

 席を探しているようだけど……どうやら見つかりそうになく、矢無負えず集団を二人と三人に分断。

 その別れたうちの三人、加恋の集団はこちらに前進してきた。


 ある程度近づいてきたところで、さっきまで「席ないね~」とか笑顔で話してたのに俺を見ると会話を止めて俺を睨んできた。その変わりようは怖いよ。マジシャンの高速着替えだよ。


 そして俺の席の前でまさかの仁王立ち。フォームチェンジして、腕を組んで上から睨んでくる様はまさにボクサーのチャンピオン。そっち系に将来進んだら? と進めるレベル。


「なに律まさかボッチ飯するのが恥ずかしいからせめて空席の椅子たちとご飯食べようとしてるの?」


「もしほんとにそうならこの行動こそが恥ずかしいだろ」


「ふーん、そうやってツッコむってことは誰かと食べに来てるんだ。ふーん」


 どうやら長話をしたいようで、両脇にいた女子生徒を先に行かせた。

 なるほど、タイマンでボコそうってことですか。サレンダー!


「ま、まぁそうだな。ありがたいことに友達がな」


「あらそう。前はあんなに水運びをよだれたらしながら嬉しそうに、さらに尻尾を振ってやってたのにね」


「加恋の目には俺がどんな姿で見えてたんだよ!!!」


「犬」


「悲しいなおい!」


 犬って……人間とも見られてなかったのかよ。

 でも犬よりは優秀だと胸を張って言える。なんだか虚しくなってきた。


「まぁいいわ。せいぜいこれからもボッチ飯にならないように気を付けることね!」


「お気遣いどうもー」


「ふんっ!」


 また加恋はぷりぷりしながら二人の女子生徒の後を追った。

 その「ふんっ!」ってやつ癖になっちゃったのかな。だとしたらとんでもない癖だな。


 それにしても、前よりも当たりが強くなってるなと思う。

 もうやめて! 律君のライフはゼロよ!


 でも、ライフがゼロになっても加恋なら攻撃してきそうだなと思ってしまう。

 ひぃ恐ろし。

 

 身震いをしていたら、翔と音羽が心配そうに俺のことを見ていた。

 まぁ、とりあえずボッチ飯を回避できたので良かった。


 ほんと、二人の神に感謝。

 

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