第3話 俺の周り超あったけぇ
高校に到着してららと別れてから教室に向かう。
いつもなら起きるのが遅すぎてほんとに高校生かよって思うほどにひどい生活スタイルである幼馴染のせいで、登校するのが遅くなってしまうのだが今日は一人なのでいつもより早く登校できた。
しかし、どうやら俺にとっていつもより早い時間でも大多数の生徒は登校してきているようで、朝の学校は喧騒に満ちていた。うん元気だね。若者バンザイ。
そして教室に入る。
「おっはよー律ー」
教室に入って早々声をかけてきたのは俺の斜め後ろの席に座っている上瀬翔(かみせかける)。俺の高一からの友人であり、彼女持ち。
そりゃそうだ。こいつはイケメン。それもこの学校ではとびぬけて。さらに運動神経抜群で高二にしてバスケ部のエース。
普通妬まれるほどにできた人間だけど、性格の方もよろしくて……妬む人間なんてたぶん、できてない人間代表、不屈部門優勝の俺くらいしかいないだろう。やばいこの卑屈つまんねぇ。
「おはよ翔。音羽も」
「律君おはよ。ちょっと寝癖たってるよ?」
そう笑いながら指摘したのは塩浜音羽(しおはまおとは)。俺の隣の席で、翔と同様に高一からの友人。そして……何といっても翔の彼女。
しかし翔の彼女にしては花のない感じなのだが、ちゃんと見れば美少女だし、これぞ彼女! って感じでいつも翔の傍にいる。
加えて人前でイチャコラしないし、音羽も又性格がよくできた人間でもあるため、全く翔ファンから妬まれない。ほんと、出来たカップルって感じだ。
「うそマジかよ。今日はちゃんと直してきたんだけどなぁ」
「後頭部にばっちり寝癖たってるよ。いつもは抜かりなしなんだけどねぇ」
「うるせーやい!」
そう言いつつも後頭部を触ってみたら、ちょこんと寝癖立ってました。あれ、俺調子悪い?
若干恥ずかしい気持ちを抑えながら着席。
「あれ? そういえば今日登校するの早くない? というか加恋はどうしたの?」
「あれお前ら十メートル以上離れたら死ぬんじゃないの? まぁお前らとか言ったけど死ぬのは律だけだけど」
「いや勝手に人を殺すな! 別にそう言うわけじゃねぇよ」
「じゃあ昨日は珍しく十回告白してフラれたとか? もしかしてだいぶ残酷なフラれた方を……お気の毒に」
「全然違うから! いや、その……」
あまりにも俺がこの状況にあることに対して飛躍しすぎた憶測が飛び回りすぎているので、そろそろこの悲しき事実を告げねばならん。
俺、不屈王の座、降りるわ。
「実は俺……加恋のこと諦めたんだ」
俺がそう告げた瞬間、二人は肉親の死を突然告げられたかのように真っ青な顔になって固まった。
さっきまで二人とも気持ちのいいくらいにいい表情だったのに、今や恐ろしい顔だ。
この感じは、ららで経験済みだ。
ただ、ららは高二の春に出会ったばっかりでまだ二か月も経っていないし、それに比べれば一年以上も付き合いのある二人ならリアクションが大きくなるのは必然的。
俺たちの担任の鴨井(かもい)先生が「早く結婚してぇ。そんでこの仕事やめてぇ」と金曜日に呟くほどに必然的だ。またたとえわかりづらいなおい。
「そ、それは二か月ほど前のエイプリルフールを忘れられなくて勝手に今日それをやってるとかじゃないよな?」
「どんだけ俺エイプリルフール好きな設定になってんだよ。全然違うから」
意外と真剣な顔で翔が言うもんだからほんとにそう思われてるのかと思っちゃったよ。
そんな細かいキャラ設定ないけどさ普通。
「えっと……もしかして催眠術でそう言うように加恋に言われてるとかかな?」
「そうだったら俺心折れてるよ?! もう催眠術とかどうこう言う前に俺から嘆願するわマジで!」
いつしか俺がこう発言したのはなぜ? の大喜利大会が開催されているんだが。
俺至って真面目に話を切り出したつもりなんだけどな。
いつまでもこうしていたら時間がもったいないので、自分から正解を言うことにする。
「いやさ、俺昨日でフラれた回数が一万回に達したんだ」
「い、一万回か……知らぬ間にそんなに」
「そうそう。で、俺はこれを機に新しい恋へと踏み出そうと思ったわけですよ。若干未練がまし部分はありますが……おいおいということで」
「「な、なるほど……」」
俺が諦めたことにまだ信じられない様子だが、ある程度は納得しているご様子だ。
さすがに一万回を超えてくることは、俺を見てきた二人でも考えつかないらしい。
「そっか。まぁしょうがないよね。うん、私は応援するよ。律君の新しい恋」
「おう、ありがと」
マザーテレサ並みの母なるスマイルを向けてくれる音羽。ちなみにマザーテレサの笑顔を見たことはないです。想像です。イマジネーションです。
でも、やはりこういうところが翔を落としたところなんだろうなと思う。
「まぁあれだ。青春なんて失敗が醍醐味みたいなとこあるよきっと。それに、高校になんていくらでも恋は転がってるよ」
「失敗したことない人間に言われたくねぇな! まぁその……ありがと」
「どういたしまして」
なんだか心が和んでいく。
やっぱり俺の周りを改めてよく見て見れば、ぬくもりに溢れていたんだなと思う。
これは、一万回フラれた俺だからこそわかることかな……なんて。
心が温かなもので満たされた、まもなくホームルームが始まる五分前というところで、いつも通り堂々と教室に入ってくる少女の姿が目に入る。
幼馴染、入場。
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