第2話 幼馴染との決別、新しい恋へ

 朝日がカーテンからコンニチワ、と無神経に挨拶してくる


 そんな朝日を見て無慈悲に殺意が芽生えてしまったのだが、それはよくないよくないと自分に言い聞かせてベットから這い出る。


「ふぁー……」

 

 眠れなかった、一睡も。

 昨日加恋に即答されて俺は諦めるしかなかった。でも、一万回に及んで積もりに積もった愛と決別するには思いのほか体力がいるもので。最終ラスボスが二段階進化しての本当のラスボスと戦っている気分だった。ほんと、例えが分かりづらい。


 しかし、俺は新しい恋に向かって歩き出すと決めたのだ。


 リビングに降りて、市販のパンとインスタントのコーヒーでブレックファスト。

 俺は一人っ子な上に両親は海外で仕事をしている。


 そのため、ほとんど毎日隣の加恋の家にお世話になっていたのだが……もうそれはできないのかもしれない。

 というのも、ほんとだったらちゃっかり朝ご飯を加恋の家でいつもいただいているのだが、今日から自分で食べると加恋の親に伝えておいた。


 ほんと毎朝加恋が起きてくると俺が何食わぬ顔で「おはよー」って言って「なんで勝手に人の家で朝ごはん食べてんのよ!」とキレられてたんだけどな……それも今日でおしまいだ。


「さっきから未練がましいぞ俺! 歩き出すんだ俺!!」


 両手を頬をサンドウィッチ。気合いを入れるんだ。

 俺は勢いのままにパンとコーヒーを流しこみ、登校の準備をする。

 そして歯を磨いて寝癖を直して……よしいこう。


「行ってきまーす」


 いつもなら帰ってくる返事と、隣で心底うざそうに俺のことを睨んでくる幼馴染はもうない。


 やばい泣きそう……、


 まだ決別できていない気持ちを家へと置き去るように、駆け出しだ。




    ***




 自宅から歩いて二十分くらいしたところにある俺が通う高校。

 二十分なんて一瞬だなぁと思っていたのだが……今日は二週間くらいに思える。うん盛った。


 最初はあまり同じ制服を着た生徒は少なかったのだが、学校が近づくにつれてその数は増えていった。


「あっせんぱーい!!!」


 背後から威勢のいい声が俺の背中をどつく。

 そして本当に背中をどついてきやがった。


「どぅへっ!! おいらら! 危ないだろ!」


「えへへー朝の軽いスキンシップっすよー」


 そうにへら顔で言うのは小向(こむかい)らら。俺の一つ下の後輩で高校一年生。

 小柄体系でほんと小動物みたい。そしてこのウザがらみをしてくるTHE後輩。でも美少女で上級生から人気があるもんだから、世の中ほんとわかんない。


「あれ先輩、加恋ちゃんはいないんですか?」


「ギクッ……」


 ま、まぁ普通そこ聞きますよね……。

 毎朝一緒に登校していたのだ。そりゃ不自然なことに間違いはない。


「いや、まぁ……な?」


 俺が適当にはぐらかそうとすると、何やら察したようで小悪魔的な笑みを浮かべる。


「あれれぇ~??? もしかしてぇー先輩、フラれちゃいましたぁ~??」


「やめて! それもう聞かないで!!」


「やっぱりそうなんですねぇーへぇー。でも、先輩フラれるのなんていつものことじゃないですか」


「そ、そうなんだけどね?」


「いつもだったら何もなかったかのように加恋ちゃん見てニヤニヤしてるじゃないですか~」


「俺にやけてた?! めっちゃきもいじゃねぇか! 忘れろ!」


 思わぬ指摘に心をえぐられたが、心の絆創膏で応急処置。

 危ない危ない……多量出血で死ぬところだったよ。


「でもなんで今回はこんなに落ち込んでるんですか?」


「……もう諦めたんだよ」


「へっ?」


 俺の発言が思いもよらなかったようで間抜けな顔をするらら。

 それもそうだろう。なにせ不屈の男だったからな。

 俺は外堀を埋めて自分を諦めさせるためにも、ららに言おうと決めた。


「俺、昨日が一万回目だったんだ。告白したの」


「い、一万回?!」


「そうだ。そして、誠に残念なことに……フラれた回数も一万回なんだ」


「い、一万回……」


 そりゃそうなるよな。

 一万回告白するなんて常人には考えられないこと。それを成し遂げたのなら不名誉だけどたぶん称号ものだ。あまりにも不名誉だけど。


「だから、一万回目がラストチャンスだってそう決めてた。でも、ダメだったんだ」


「…………」


「でも、まぁしょうがない! 俺は新しい恋に向かおうと思う!」


 そうららにも自分にも言う。


「そ、そうですか……なら、私が先輩の恋、応援しますね?」


「おう、ありがと!」


 ららはウザがらみしてくるがなんだかんだでいい奴だ。

 周りには加恋以外にもきっといい人がいるだろう。

 今まで見てこなかった未知の部分にもこれから目を向けていこうと思う。


 ららとこうして話したおかげで、なんだか少しだけ諦めがついたような気がした。


 

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