幼馴染に一万回フラれたので諦めたら急にモテ始めた

本町かまくら

第1話 一万回目のアイ・ラブ・ユー

 ドキドキが止まらないっ!!!!


 そう胸の奥底でスタンバっているハイな俺が今にも叫びそうな、そんな気分。

 現在屋上にて、町がオレンジ色の羽衣に包まれているところをボケーっと見ていた。


 やはり屋上ということもあって普段とはまた違った、綺麗な景色が見える。それを見ていたら、なんだかイイ感じに胸の奥がじんわりと熱くなってきたので、手の中にある昔から使っていたメモ帳を見た。


『9999回目。失敗』


 そう乱雑に書かれているのを見て、俺は再び思いの強さを実感する。

 俺、やっぱり加恋のことが好きだ。

 9999回フラれたとしても、やっぱり諦めきれない。


 加恋は俺の幼馴染で、この学校で一番人気の美少女。それに比べて俺は帰宅部で何の特徴もない普通の男。でも、根気強さと行動力が売りだ。正直、誰得感は否めないけど。

 俺にとって、加恋は高嶺の花だと分かっている。分かってるけど、やっぱり俺は諦められない。

 だって俺はずっと前から加恋のことが好きだから。


 だから俺は一万回目の告白をしようとしていた。普通だったら一回よりも多く告白はしないんだが、一般論なんてくそくらえと思う。


 ただ、俺はこの一万回目の告白をラストチャンスとすることに決めた。

 加恋のことを世界一好きな自信がある。けど一万回告白して成功しなかったら、この先成功する気がしない。だったら、俺は新しい恋に向かって再出発しようと思う。


「……何弱気になってんだ俺。フラれたときのこと考えてんじゃねぇよ!」


 頬を両手でサンドウィッチし、自分に活を入れる。

 大丈夫。自分を信じよう。


 まもなく加恋が来る。


 ドキドキするのは当たり前だ。俺は一回一回に全力をかけて告白してきた。しかし、どれも軽くかわされるだけ。でも、こうして一万回目になるまで、加恋は俺の告白に耳を傾けてくれた。きっと可能性はあるはずだ。


 屋上のさび付いたドアが音を立てながら開く。


「お待たせ律。来てあげたわよ」


「あぁ、また呼んで悪かったな」


「悪いと思うなら私を呼び出さないでよね! 全く……律は変わらないんだから」


 そんな会話をしながら、加恋が俺の目の前にやってきた。 

 

 あぁ、そろそろだ。

 俺の全部をかけた、一万回目の告白が――


 『一万回目なら何か変わるかもしれない』

 これは俺の好きな歌のワンフレーズ。俺はこれをずっと信じてきた。

 またあのメモ帳に失敗って書きたくない。


 俺はあそこに、『一万回目。成功。ひゃほーい!!!!』と書きたい!

 いや、書いて見せる!!


 一万回積もりに積もったこの愛を俺は伝える。

 長くなくていい。今までさんざん長ったらしく言ってきたんだ。こういう時こそ、短い言葉でいいんだ。


「ふぅー……」


 大きく息を吐く。

 早くなる鼓動が、もっと先へ行きたいと俺を追い越そうとする。でもそれを沈めて、今に引き戻させる。

 よし、準備は完了だ。


「あのさ、加恋」


「な、なによ」


「俺さ――」


 そう切り出した刹那、これまでの告白が走馬灯のように脳裏によぎった。

 初めて告白したときは、小学校一年生の夏。加恋に出会ってから二分。


 俺は加恋に一目ぼれをした。


 そこから毎日のように何度も告白。その時から俺はこのメモを取っていた。

 今、その思いがぎゅっと詰まったメモ帳を拳で握りしめる。


 届け、届け……この思い!


 一万回目で俺は――青春勝者となる!!!







「お前のことが好きだ!!! 付き合ってくれ!!!」







「ごめん無理」


「…………」


 そ、即答かよ……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る