第40話目星

翌日捜査本部が沸き立った。

漸く二課の捜査から一課の手に廻って来た柏崎由希子が、佐山達の尋問に簡単に自供を始めて、佐山達を驚かせた。

供述によると、猿橋議員から熱海、初島カジノ構想を聞かされて興味を持ったが、所詮地元の議員の戯言だと思っていたが、或る日、東南物産の桂木常務を紹介され現実味が出て来た。

自分に何故話が来たのか?と不思議に思っていたら、カジノ誘致に大物代議士の力が必要と言われて、錦織議員の名前が浮上して、錦織議員の首を縦に振るには貴女の力が必要だと桂木常務に説得された。

それは錦織議員が昔から、柏崎由希子の熱烈なファンで後援会の会長もしていた事実。

一度ベッドを共にして貰えれば首を縦に振って貰えると説得された。

最初は二の足を踏んでいたが、次期選挙で東南物産が総力を挙げて応援すると言われて納得した。

桂木常務は錦織議員との密約が現実の事だと、証拠のボイスレコーダーを聞かせてくれて、この後に自分と錦織議員の密会の様子を録音して欲しいと頼まれた。

自分はその様な恥ずかしい事を録音する事を躊躇ったが、それが無ければ錦織議員に最終的に逃げられたら意味が無く成ると説得され渋々承諾をした。

しかし、ホテルのベッドの隙間に設置したボイスレコーダーが落ちてしまい、慌てて拾いバッグに入れた機器が異なる物だった。

桂木常務の待つホテルに持参すると、驚いてラブホテルに連絡をしたが、既に何者かに持ち去られた後でした。

しばらくして、足立伸子と云う女性からボイスレコーダーを買い取る様に連絡が有り、桂木常務に総てを託して私はこの件から外れました。

数日後桂木常務から、ボイスレコーダーは取り戻したと連絡が有り安心したのです。

でも事実は私の知らない処で、異なる展開に成りました。

それは桂木常務が何者かに再び脅されて金を要求されていた事実でした。

常務は私に「足立伸子は始末してでも、事実は隠蔽するから安心して欲しい」と電話を頂いたのが、十月二十七日の夜でした。

実際は桂木常務が翌日殺害されて、二日後足立伸子が殺害されたので、意味が判らなく成って恐くて自分も狙われるのではと怯えていたと供述した。

「話の内容を知っている人は他に居ますか?」の質問に「秘書の堂本聡子さんは殆ど知っていたと思いますが?」

「堂本聡子さんも事件では無いので、ニュースには成っていませんが、常務が亡く成った二日後自殺されています」

「えーー、知らなかったわ、常務との関係を疑われるのを避ける為、その後は東南物産関係には顔を出さなかったので。。。。。。。」驚いた様子の柏崎由希子。

柏崎由希子は既に錦織議員との不倫は報道されているが、自分は一連の殺人事件には全く関与していない事を強調したくて、全面自供をしたと佐山刑事は考えて、事実に間違い無いだろうと思った。

錦織議員がその後強請ってきた足立伸子の友人、木南信治の殺害に関与していた事を自供した事も柏崎由希子の供述を後押しした様だ。


その後の捜査会議で横溝捜査一課長は「柏崎由希子の自供で、東南物産が熱海、初島カジノ構想を巡り人民党の大物代議士、錦織議員に働きかけた事は実証された。だが一連の話から考えると、桂木常務が亡く成って彼等は大きな損失を被った事に成った。この観点から、ライバル、敵対する団体の関与も考えて捜査をする必要が出て来た」と発表した。

「葛城山の事件は、この事件との関連は無いのでしょうか?同じ青酸性の毒物が使われていますが?」白石刑事が質問した。

「関連を考えたが、殺された釜江医師と看護師の瀬戸頼子がカジノ構想とは結び付かないので、全く別の事件では無いだろうか?」横溝捜査一課長が言った。

「違法睡眠薬で亡く成った堂本聡子、婦人科医の山戸医師、東南物産の籠谷次長はどうでしょう?」今度は伊藤刑事が発言した。

「この三人は全員自殺で処理されているので、全く偶然ではないのか?」

「でもこの睡眠薬を手に入れるのは、三人共難しいと思いますが?」

「私は桂木常務が持っていた物を、籠谷次長も堂本聡子も手に入れていたと考えている」

「山戸医師は?」

「山戸医師は何度も籠谷次長と会っていたので、譲り受けたのではないかと思われる、それぞれ自殺の動機は有る様だ。山戸医師は新宿の裏社会と関係が有り、手術の失敗等でトラブルが絶えなかった。籠谷次長は若い男が自宅マンション付近で会っている情報から、失恋のショック、堂本聡子は桂木常務と四年以上に渡る愛人関係が終わったショックによる自殺だ!三人共他殺の証拠は無い」

横溝捜査一課長が事件は全く別の物として、解決しようと考えている事が明らかに成って、一平は美優の推理をこの席で話す事が出来ない状況に成った。

美優は全ての事件は、堂本聡子の復讐だと思っているが、今は実証されていない。

昨夜美優が「この殺された胎児が植野さんの子供だったら?」と言った時、一平も涙が溢れてきたのを思い出していた。

「野平主任!その後奥様の推理はどの様な感じだ!」

いつも気に成るのか?必ず一平に確かめる横溝捜査一課長。

「は、はい」と立ち上がった顔を見て「野平刑事も花粉症か?」横溝捜査一課長が涙目を見て言った。

「美優は未だに判らない!を繰り返しています」

「流石の名探偵も、事件を別けなければ目星が付かないだろう?その辺りを教えてあげて必要なら手伝ってあげなさい」横溝捜査一課長は自分の考えに酔っていた。


翌日一平は美優に頼まれていた植野と云う名前の三人の身元を調べていた。

パスポートは出身地だが、実際は別の場所で仕事をしているので中々特定が難しい。

北海道の植野春樹は農業の研究の為に、山東省に一年の研究に行っているので比較的簡単に判った。

兵庫県の男性と山梨県の植野は二人共、東京に住んでいる事実は掴んだがそれ以上は判らない。

本籍地を調べて連絡したが、兵庫県の植野政明は二年前に中国に行って帰っていない。

山梨県の植野晴之は、何度か帰っているが現在の住まいは不明だ。

美優が「この晴之さんが本命ね!」と簡単に一平の報告で結論付けた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る