第39話真実

県警から資料の分析を依頼された医師が、カルテを見て「名前の無い患者さんが数人居た様ですね!殆どが堕胎で避妊手術も行っていますね」と答えた。・

佐山刑事が医師に「堕胎は中絶ですよね!避妊?不妊とは違いますよね」と尋ねた。

「一人の患者さんは堕胎と避妊手術を行った様ですね!病気かそれとも強姦?元々妊娠しては困る女性が妊娠してしまった場合とかでしょうね」

「例えば?」

「脳に障害の有る女性が、変質者に強姦されて妊娠した場合とか?この女性の年齢が判りませんが、もう子供が必要無いので堕胎と同時に避妊手術を行った可能性も有りますね!膣式卵管結紮術で行っていますので、傷が残らない方法ですね」

結局年間で十数件の違法な手術を行った記録が、釜江婦人科のカルテで発見された。

同じくヤマトレディースクリニックの医療記録からは、月に多い時に五件の違法手術が行われていた事が判明した。


一平は植野三人の既婚を調べたが、全員独身との答えが返ってきた。

連絡すると美優は「会社は何処なの?それも調べて!」と次の要求をする。

パスポートの出国履歴で調べたので、中々三人の会社は判らないのが普通だった。

仕事で行ったか遊びで行ったのかも判らない。


夜の捜査会議の席上、横溝捜査一課長は「今回の事件は複雑で正直判らないが実情です」と前置きをして「共通点は青酸カリと違法睡眠薬を使用した共通点から、同一犯の犯行だと思われるが、動機に共通点が全く無い事が事件を不可解な物にしている。今夜は個人の意見を聞こうと思う!殺された二人の婦人科医は違法な堕胎等で儲けていた共通点が有るが、面識は無い様だ!手元の資料に色々書いて有るので、各自読みながらでも良いので意見を言ってくれ」

佐山が「犯人は違法な仕事をしている二人の医師に、制裁の様な殺し方をしたのでは無いでしょうか?」と口火を切った。

「桂木常務と足立伸子は青酸性の毒物で殺されているが、睡眠薬での殺害も多いが、明らかに自殺は堂本聡子だけだ」横溝捜査一課長が付け加えた。

「ホテルで亡く成った山戸医師も、殺された可能性が高いですね」

「野平!美優さんは今どの様な事を調べているのだ?」突然尋ねる横溝捜査一課長。

「美優は今、植野と言う男性を捜していますね」

「それは誰だ!」

「堂本聡子の元恋人らしいと聞きました」

「堂本聡子に彼氏が居たのか?初耳だな!どんな男だ」

「学生時代に恋愛をしていて、去年の今頃には結婚を口にしていたらしいですが、その後は言わなく成ったと聞きました」

「桂木常務と二股か?金持ちを選んだのか?その辺りを調べて居る訳だな!聡子を取られた恨みで殺したと考えているのかな?」

「違うと思いますが、妻が何を考えているか判らないのが実情です」の一平の言葉に笑いが漏れる。

「それで見つかったのか?」

「はい、三人の中の誰かでしょうが、未だ特定出来ていません」

「毎回、美優さんにはお世話に成っている県警だ!今回は頼らずに解決しよう!」そう言って自分に気合いを入れた横溝捜査一課長。


去年の十月に戻って

晴之は籠谷次長の自白で総ての経緯を知っていたが、聡子に敢えて総てを伝えなかった。

それは余りにも惨い出来事で、とても口には出せない晴之。

自分との間に出来た子供を殺されて、二度と子供が産めない身体にされてしまった聡子の怒りは言葉では表せない状態で、鬼に変わったと言っても過言では無かった。

お互いはもう口に出さないで、晴之の計画を黙って手伝い実行するだけに成っていた聡子。

既に聡子は計画通り、青酸カリで釜江婦人科医と、足立伸子、桂木常務を殺害していた。

逮捕されたら死刑は確実の二人、晴之にはもう一人許せない男、山戸医師の存在だ。

勿論、瀬戸頼子も用事が終われば殺すが今は捕えて有り、偽装を手伝わせる予定だった。

頼子は助ける事で、自分は命を助けて貰えると思っている。

聡子は自殺する前に晴之にもう一度詫びて、自分がもう少し強ければ桂木常務の思い通りに成らなくて。。。。と涙を流して抱き合っていた。

「晴之さん先に行きます!後はよろしくお願いします」聡子は十月二十九日晴之と最後の時間を過して自宅に帰って行った。

「僕も直ぐ後から行く!待っていて。。。。。。」涙で言葉が消えた晴之。


話が戻って

捜査会議の後深夜に帰宅した一平が美優に会議で貰った資料を見せた。

読みながら「凄い医師達ね!こんなに沢山の手術を行っていたのね!この場所は風俗も多いから繁盛したのね」

「山元医師が殺されたのは睡眠薬、籠谷次長も睡眠薬、堂本聡子も睡眠薬」独り言の様に言う一平。

次の資料を見ていた美優が突然泣き始めた。

「どうしたの?美優」驚いて側に来る一平に「もしもこの女性が堂本聡子さんならって考えていたら、思わず涙が出て来たのよ」

「佐山さんが医師から聞いた話では(脳に障害の有る女性が、変質者に強姦されて妊娠した場合とか?この女性の年齢が判りませんが、もう子供が必要無いので堕胎と同時に避妊手術を行った可能性も有りますね!膣式卵管結紮術で行っていますので、傷が残らない方法ですね)と聞いたそうだよ」

「もしもよ、この女性が堂本聡子さんで、この事実を知ったらどうする?それも本人が知らない場合は?」

「えーー、恐ろしい事を考えるね!僕がその立場なら殺すな!」

「ほら、殺すでしょう?犯人は堂本聡子さんに間違い無いわ!」

「えーーー堂本聡子さんが犯人なの?相当無理が有る様な」

「そうなのよね、葛城山の死体遺棄現場は車から投げ捨てたと思うけれど、もう一人は無理でしょう?」

「釜江院長は少し運んでから投げ捨てているから、女性一人では無理だな」

「だから共犯者が必要なのよ!恋人の植野よ!」

美優の推理に驚くが、美優が「でも違うのよ!順番が合わないのよ!」と口走った。




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