第41話語り始める美優

美優はこの植野晴之の消息を大至急把握する様に、一平に頼み込み持ち帰った資料を見る。

「実家に電話をしたの?」

「両親は既に他界されて、姉夫婦が実家にはいらっしゃった」

「仕事は何処?」

「柳井工業と云う会社で、本社は東京だ!」

美優は早速パソコンで柳井工業を調べ始める。

「出入国管理で調べると、今は日本に居ると、去年の九月に帰国しているらしいわ」

「柳井工業には確かめたの?」

「まだ確かめてない!この植野晴之が堂本聡子の彼氏だとは決まっていなかったので、電話が出来なかった」

「あっ、これかも?」柳井工業のホームページを見ながら、叫ぶ美優。

「明日、柳井工業に植野晴之の所在を聞いて、それから静岡県で柳井工業と取引が有る冷凍食品会社を訪ねて欲しい」

「冷凍食品会社?」聞き直す一平に「その二つ大至急お願い」そう言うとパソコンの画面に釘づけに成る。


翌日九時半に一平が「植野晴之は既に柳井工業を退社している。それと静岡の冷凍食品の会社だけれど沢山在るがどうする?」

「もう柳井工業を退社しているのね、彼はもうこの世に未練が無いかも知れないわね」

「えー、本当なの?」

「多分、堂本聡子さんの後を追って死ぬと思うわ?」

「謎が解けたのだね!」

「間違い無いと思うけれど、実証するには植野晴之さんのトリックを解かないと駄目なの!自社の技術を使った可能性が高いわ!急速凍結技術よ!」

「でも三十数社在るのだよ」

「じゃあ、リストを送って」

しばらくしてFAXで送られて来たリストを、順番に電話をする事にした美優。

「御社の冷凍設備に柳井工業の物を使われていますね、柳井工業の営業の植野さん最近連絡有りましたか?」

「柳井工業とは取引有るけれど、植野って営業は知らないな、警察が何を調べているのですか?」

「植野さんご存じ無いのなら、結構です」

この様な電話を次々とする美優、もういちいち説明をする時間も無いので、いきなり静岡県警ですと告げる美優。

三十数社に電話をしたが、植野を知っている会社は僅か五社で、その会社も最近植野とはコンタクトが無い。

美優は熱海に近い場所、神奈川県の可能性も残っていると、再び一平に連絡をする。

「美優、不味いよ!県警の名前で連絡しただろう?問い合わせが県警に来て大変だよ!もう直ぐ課長の耳に入るぞ!」

「それより柳井工業に神奈川県の取引の有る冷凍食品会社のリスト送らせて!」

「説明しなければ、課長が怒ると思うけれど?」

「判ったわ、県警に行くから待って貰って、でも急ぐのよ!」

「県警に置いて置くから、早く来てよ!怒られる前にね」

美優は自分の力では、晴之の行方が捜し出せないと思い、県警に乗り込み説明する道を選ぶ事にした。


しばらくして県警にタクシーで乗り着けた美優。

「これが神奈川の冷凍食品の会社だ!」そう言ってリストを手渡す一平。

捜査本部に入ると横溝捜査一課長が「美優さん慌ててどうしたのですか?」と姿を見つけて駆け寄ってきた。

「事件の全貌が見えましたが、大至急捜さなければ犯人が死んでしまいます」

「えーー犯人が見つかった?」

「はい、課長犯人は植野晴之と堂本聡子の共犯です!」

「最近捜していた植野って云う男が犯人ですか?」

「今までどうしても解けなかった謎が解けたのです、彼は最後に東南物産を告発して自殺すると思います。柏崎由希子が殆ど自白したので、彼の目的は達成されたと思うからです」

「何の話か理解出来ないのですが?」横溝捜査一課長が美優の話に戸惑いを見せる。

「時間が無いので、手分けして電話で柳井工業の植野と取引の有る冷凍食品会社を特定して下さい」

「判った!とにかく捜そう!私には判る様に教えて欲しい」

「判りました!」と応接に行こうとした時「課長!テレビ局から電話です」と女性が横溝捜査一課長を呼び止めた。

自分の机に戻った横溝捜査一課長が受話器を取り、しばらく話をしていると顔色が大きく変わる。

「返事を半時間待って下さい」そう言って電話を切ると美優の側に来て「テレビ局に東南物産の悪行を放送しなさいと手紙と、USBメモリーが送られて来たそうだ。もしも放送しなければ無差別に東南物産の社員を殺すと書いて有ったらしい!」

「内容は聞かなくても大体判りますが、彼はまだ青酸カリも睡眠薬も持っているのでしょう?死ぬ気ですから何でもしますよ」

「美優さん、詳しく事件を教えて下さい!早急に!」

「はい、でも放送させると彼は死にますので、早く身柄を確保する必要が有ります」

「それと冷凍食品会社にどの様な関係が有るのでしょう?」

応接に向かいながら尋ねる横溝捜査一課長。


応接に入ると美優は横溝捜査一課長に話し始めた。

「事の始まりは約五年前に成るのでしょうか?東南物産の桂木常務はやり手で、社内の営業のトップの筆頭常務の地位を確立していました。

だが元来の遊び好きと接待の為に女性関係も盛んで、風俗遊びも活発に行っていたと思われます。

一方堂本聡子は国立大学に通う有能な女性で、大学入学と同時に一人暮らしを初めて、武蔵小杉の小さなハイツ茜に住んで、大学に通いながらアルバイトの書店で働いていました。

或る日、大学の先輩大村茂樹が聡子の住んでいるマンションの筋向かいに家庭教師として、働きに来たのです。

二人は偶然の出会いに意気投合して、関係を持つ程の付き合いに成りました。

だが聡子に思いもしない事件が起りました。それは父浩に大腸癌の宣告でした」

話に頷く横溝捜査一課長。

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