第37話美優の想定
翌日大掛りな葛城山の捜索が行われて、早々に白骨遺体から二百メートル程入った場所に、今度は男性の遺体が発見されたのだ。
所持品は全く無し、一部白骨化は全く同じで、鑑識が一目見ただけで「同じ毒物による死亡ですね」と言った。
「心中ですかね」
「いや、身元を特定する物が何も無いので、他殺だろう?この男性も同じ時にここに遺棄された様だな」
「冬だったので、腐敗が少し遅いですが、夏ならもっと進行していますね!年齢は五十代から六十代ですね」鑑識が調べて報告した。
「これで四人目の青酸性の毒物の被害者だな!何故この二人はこの様な山の中に?」
「遠くから運ばれて来たのでしょうか?でも死体を二百メートルも離して遺棄するのも大変だろう?」
「殺されたのは、昨年の九月から十一月頃ですね」
鑑識の簡単な検査の結果、殺害遺棄されたのは二人共全く同じ時期だとの見解だった。
翌日静岡県警で緊急記者発表と捜査会議が行われて、横溝捜査一課長は桂木常務、足立伸子と同一犯の犯行で、連続青酸性毒物による犯行だと発表した。
身元は判らないが、男女共四十代から六十代だと答えた。
毎年八万人の行方不明者が出る日本で、身元を特定するのは相当時間が必要だと会見で答える。
足立伸子と桂木常務も殆ど接点が無かったが、ボイスレコーダーで繋がったので、この二つの遺体も何かこの二人と関連が有ると確信していますと、会見で話す横溝捜査一課長。
昨夜「この事件で何人死ぬのだろう?恐くなるな?」一平が言った。
「桂木常務の持っていた青酸性の毒物で四人、睡眠薬で三人ね!多分全員同じ犯人の可能性が高いわ、あの桂木常務が亡く成った時、多分堂本聡子さんも一緒に出張に成っているのよね」
「それは調べていないが、多分静岡だから一緒に行ったのだろう?」
「東南物産に堂本聡子さんの出勤状況を調べて、何か判る可能性が有るわ」
「美優は自分の推理を最後まで曲げないからな、時間が有れば調べる」
「それからお願いした植野って人の事は?」
「そこまでまだ手が廻らないよ、中国に行った植野さんだろう?二年前!判った!もう疲れて死にそうだよ」そのままベッドに倒れ込む一平。
翌日一平が「堂本聡子さん、桂木常務と静岡に行ってない」と調べて連絡をして来た。
「えっ、じゃあその日は本社?」
「二日前から体調を崩して休んでいたらしい」
「静岡には別の秘書が付いて行ったの?」
「一人で行った様だな、桂木常務は二日目にレンタカーで死んでいた事に成る」
「その翌日、堂本聡子は自宅で死亡だったわね!また判らない事が増えたわ」
「桂木常務が静岡に向かったのが、十月二十七日だから」独り言を言いながら書く。
① 十月二十五日から堂本聡子は休んでいる。
② 十月二十八日に桂木常務は亡く成った
③ 十月三十日に堂本聡子は死んでいたが前日には死んでいた。
④ 十月三十日の早朝足立伸子は死んでいた。
⑤ 堂本聡子の桂木常務殺しは可能だ。
⑥ 籠谷次長は十月二十日には亡く成っている。
⑦ 東南物産では堂本聡子と桂木常務の関係は把握していたので、亡くなっても休暇として警察には隠していた。
美優は取り調べの資料をもう一度読み直していた。
足立伸子が早朝新聞配達の人に目撃されていた事実の処で目が止まる。
背丈が百五十位しか特徴が無い?昨日の白骨化の女性も百五十?身元不明だがもしかして、この人が身代わり?次々飛躍の推理にのめり込む美優。
もし桂木常務より先に足立伸子さんが殺されていたら、当初の推理が成り立つが、鑑識が死亡時期を間違える?
「一平ちゃん、鑑識の人誰か紹介して貰う事は可能?」いきなりの電話する美優。
事件の推理に没頭して、思いたったら直ぐに行動する癖が出始めた。
鑑識の人は今大忙しだから無理だけど、同じマンションの大貫さんは、去年まで鑑識の人でベテランだったよ!尋ねたら教えて下さるよ!」
「あっ、大貫さんか!忘れていた!」そう叫ぶと直ぐに電話を切った。
美優が直ぐに電話をすると、大貫さんの奥さんが出て「美優さん!ご無沙汰ですねーもしかして事件に首を突っ込んでいるの?」
「はい!図星です、それで大貫さんにお尋ねしたい事が有るのですが?」
「残念ね!主人は娘の嫁ぎ先にお祝いに行って、来週まで帰らないのよ!携帯に電話して貰えたら良いかと」そう言って番号をお伝えた。
美優は直ぐに電話をして挨拶の後いきなり尋ねて「死亡推定日時を変更する事が出来るのでしょうか?」
「今の技術は進んでいるから、鑑識の判断は正しいと思うが、どの死体の事だ!」
「去年の足立伸子さんの死体の死亡推定時間です」と言うと「それは私が調べた仏様だ!」
「何か気に成る事は有りませんでしたか?」
「気に成るとはどの様な事だ!」
「死体が死亡推定時間に比べて硬直が変だったとか?」
「野平さん、それは私の見立てが間違いだとでも言うのか?」
「いいえ!そうでは有りません、細工がされていた形跡は有りませんでしたか?」
「細工?何故その様な必要が有るのだね?」
「殺害がもっと早いとかを考えてみたのです」
「そうだな、朝の二時から五時の殺害だが、少し遺体が冷たいと言うか、腰の裏辺りが特に冷たく感じたな!でもあの日は寒い日だったぞ!」
「ありがとうございました」
「もう良いのか?」
「はい!少し気温を調べてみます」
美優は色々な想定を考えて自分の推理を実証しようと考えていた。
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