第35話決心
去年の十月に話が戻って
どうしても足立伸子の殺害に踏み切れない堂本聡子は、晴之に貰った瀬戸頼子の携帯番号に電話を掛けて本当に桂木常務の命令で、晴之との子供が殺されたのか?どうしてもそこまで悪い桂木常務だとは考えたく無かったのだ。
「貴女が釜江婦人科にいらっしゃった看護師さんの、瀬戸さんですか?」
「貴女は何方?私もう釜江婦人科は辞めたので、あの病院での事は私には関係有りませんが?」
「桂木常務の指示で電話をしている者ですが、籠谷次長からお金を強請り獲れませんよ」
「それなら、東南物産の桂木常務の指示で若い女の堕胎を暴露してしまいますよ」
「貴女がどれ程の事をご存じか知りませんが、詳しい話は釜江院長と籠谷でしたので、貴女に判る筈は無いと思うのですがね」聡子は聞き出す為に敢えてその様に話した。
それはこの瀬戸がどの様な事を知っているのか?何か作り話をしていないのか?を確かめたかった聡子。
「桂木常務って悪い奴だね、籠谷次長から連絡が入って、秘書課の新しい課長に確認させるのか?偉い人は違うね!もう十分したらもう一度電話を掛けてくれば、録音を聞かせてあげるわ!それを買って貰いたいのよ」
「えー、録音?その様な物があるのですか?」
「証拠品も無いのに、お金を要求出来ないでしょう?先生との会話が残っているのよ」
電話口で青ざめる聡子。
自分の手術の実況中継を聞かされるの?そう思ったが、事ここに至っては真実を知りたい聡子。
十分後電話をする聡子は、声が若干震えていた。
聡子自身も手術の時を思いだしていた。
手術室では手術着に着替えて、手術台に上がる様に看護師に言われて、元気なく手術台に横たわる聡子。
「これが手術室での会話と、その後の話よ!途中は編集しているけれどね!一時間も有るので必要の無い部分は聞かなくても良いでしょう」
「はい、聞かせて貰うわ。。。。。」
「全身麻酔をしますので、目が覚めたら総てが終わっていますよ」
腕に麻酔薬の注射が始まると、涙が頬を伝わった事を思い出す。
「数を数えて下さい」看護師が注射をしながら言う。
「一、二、三、、、四、、、、、五、、、、ろ、、、」聡子の意識が遠のくと手術台が上昇。
「始めます」釜江医師が言って、手術が始まった。
「クスコ!」の院長の声。
時々器具を指示する声が、ゾンデ、カンシの用語が聞こえる。
手術の器具の動く音が微妙に聞こえているだけで、何も話し声が聞こえないのに急に泣き声が聞こえる。
「無意識で泣いていますね」瀬戸の声が聞こえる。
「可哀想にな!子供が育って無いと言われて、騙されて堕されてしまうから泣いているのだろう」釜江医師の声が聞こえる。
しばらくして「堕胎は終わった、続けて次の手術を行う、本当はお腹を切るのだが、今日は膣式卵管結紮術を行う」聞き慣れない言葉に耳を疑う聡子。
「先生出血が少し多いですが?」
「止血剤を持って来い」
器具の音が聞こえて、しばらくして「よし、完了だ!」
「お疲れ様でした」
「点滴をして明日まで眠らせておけば大丈夫だ」
ここで音声が終わって「どうこれだけ聞けば充分でしょう。これ以外に先生が籠谷さんに御礼を貰う時の話も有るのよ!納得したらお金を払いなさい」
「また連絡します」で電話を終わる聡子。
パソコンで膣式卵管結紮術を調べたのは、夜自宅に帰ってからだった。
「えーーーーーーーーーーーーー」驚きの声を上げると、母の昭子が驚いて「どうしたの?」階下から声をかけた。
その後は声をかみ殺して、泣き始める聡子は食事も出来ず眠れず翌土曜日早朝より、どこへともなく出て行ってしまった。
「晴之さん!私決めたわ!桂木を殺す!その為には鬼に成って足立伸子も殺す!」
携帯に聞こえる聡子の声の変わり様に驚く晴之。
「僕に計画が有る!今日会えないかな?」
「お願いが有るのだけれど聞いて貰える!本当に私は馬鹿だったわ!」
「聡子のお願いなら何でも聞いてあげるよ!僕達もう死んだのだから。。。。」携帯の声が涙声に成っているのを聞いて晴之も携帯の通話を切って泣いていた。
晴之は聡子が何を言いたかったのか?お願いが何かを察知していた。
渡した瀬戸頼子の連絡先で、多分確かめてしまったのだろうと憶測が出来た。
先日の躊躇いが、一気に殺人に変わってしまった事、泣きながら連絡してきた事を考えると自然と結論がそこに行き着いた。
とても自分の口から伝える事が出来なかった晴之。
夜いつものホテルで会った二人は、お互いを求めて抱き合い総てを察していた。
その後、晴之の殺害計画が延々と語られ、聡子は晴之の恨みの深さと自分に対する愛情を感じていた。
話が戻って
「こんにちは!お電話致しました野平美優と申します」
「はい、どの様な話でしょうか?娘の聡子の話なら知りませんよ!勤め先の常務さんの後を追って死ぬなんて今でも信じられません」
そう言いながら、聡子の母親昭子は現れた。
「何度も警察に話されたと思いますが、私は別の事がお聞きしたくて参りました」
「静岡県警の刑事の奥様で名探偵の美優さんだから、来て頂いたのですよ!他の人ならお断りしています」
「えー、ご存じだったのですか?」
「私もワイドショーで何度か拝見しましたから、存じています!昔は平和でした!主人が癌に成って余命宣告されてから、歯車が狂い始めたのでしょうか?」
美優は自分がそこそこ有名な事も役に立つと思いながら、昭子の話に聞き耳を立てた。
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