第34話共通点

毎朝新聞に桂木常務と錦織議員のカジノ構想に関連する贈収賄の録音。

スクープ週刊誌に錦織議員と柏崎由希子の不倫現場の生々しい会話。

そして静岡県警に送られた柏崎由希子と思われる女性と、堂本聡子を交えた桂木常務の思惑の話。

「この大スクープを送りつけた人物は、東南物産、桂木常務、柏崎由希子、錦織議員に相当な恨みを持っている人か、ライバルだけれどこれだけの情報を手に入れられる人は限られるわね」

「誰だとおもう?」

「ライバルは無いとすれば、もう死んで居る人ね!」美優が意外な事を口にした。

「死んでいる人が恨んでいるのか?」

「そうとしか考えられない!この様な重大なスクープを新聞社とか警察に送りつける事は、生きている人なら考えないわ!億の金に成る話よ!少なくとも新聞社に売りつけても相当な金に成るでしょう?」

「死人が送りつけた?桂木常務か?」

「もう一人居るわ、堂本聡子さんよ!」

「二人は愛人関係だろう?四年も付き合っている!」

「そこが判らないのと、私の仮説には無理がひとつ有るのよ」

「何が無理なの?」

「仮説は、二人に亀裂が生じて、桂木常務を堂本さんが殺害した時、足立伸子さんを殺す人が居なく成るのよ」

「えー、美優は桂木常務が堂本聡子さんに殺されたと思っているのか?」

「色々考えたのだけれど、それが一番自然の成り行きなのよ!」

①栢崎由希子と錦織議員の密会の録音を手に入れて、足立伸子が脅す。

②脅された柏崎由希子は桂木に相談して、桂木が自分の持っていた青酸性の毒物で足立伸子を殺害する。

③足立伸子の殺害を手伝った堂本聡子が、残った青酸性の毒物で桂木常務を殺害する。

④理由は堂本聡子が桂木常務に秘密を握られていた、それは風俗で働いていた事実。

⑤足立伸子と桂木常務が安心して、お茶とかコーヒーを飲む人物は多分堂本聡子だけでしょう。

「この仮説を当てはめるには、一番に足立伸子が亡く成って、次は桂木常務、最後に堂本聡子でなければ成り立たない」

「美優の大胆な仮説も、桂木、堂本、足立の順では成り立たないのか?」

「私の推理は当たっていると思うのだけれど、何かトリックが無いのかな?」

「それは無理だろう?場所も日にちも違うから、例え共犯者が居ても無理だよ!彼女が亡く成ってから実行しているのだよ!無理だろう?」

「東京の山戸さんと、桂木常務の関係の話は?どうなったの?」

「例のUSBメモリーで、それどころでは無かったよ!外に出られる状況に成らなかった。明日行くよ」


翌日一平が焼津の病院に元看護師の南時子を訪ねた。

今回は内科医に勤めているので、開院時でも普通に聞き込みに入った一平。

五十歳位の南は事前に問い合わせの電話をしていたので、一平を見ると奥の部屋に通して「ヤマトの違法手術の事でしょう?」と尋ねた。

「今回お邪魔したのは、東南物産の桂木常務をご存じ無いかと思いまして」

「半年程前に亡くなられた方ですよね、その方は知りませんが秘書の方は何度か病院に若い女性の堕胎に付いて来られました」

「えー秘書の女性が妊娠していたのですか?」一平はこの病院に堂本も来たのだと、慌てた様に写真を見せた。

南は堂本聡子の写真を手に取り、ゆっくりと見て「この女性は来られた事は有りませんね」

「名前の判る方はご存じですか?」

「二年以上前から来られていませんが、連れて来られた方は秘書課長の籠谷さんでした。二三人の手術をしましたが、多分全員東南物産の秘書の方ではと思いました」

一平は東南物産の秘書室に呆れて、南看護師と別れて美優に連絡をした。

「繋がったのね!山戸院長と籠谷次長は同じ睡眠薬で死んだ!何か同じ臭いがするわね」

「だが、この病院に堂本聡子が来た形跡は無い」

「二年程前から、誰も来て居ないのは桂木常務が堂本聡子を秘書にしていたからよ」

「そう成ると、やはり二人の愛人関係は仲が良かった事に成る」

「でもこの二人?」

「美優は二人の関係は悪いと思っているね」

「山戸さんと籠谷次長を殺害か自殺を仕向けた人物は誰だろう?」

「二人を憎んでいる人は見当たらない様な気がするけれどね」

「大阪府警に籠谷次長の捜査状況の資料を貰って、山戸さんの物も取り寄せて!」美優はそう言うと電話を切った。


夕方静岡県警に、警視庁から連絡が入り錦織議員が暴力団銀流会に木南の処分を頼んだ事を自供した。

木南が持っていたUSBメモリーは、貰って処分したと比較的簡単に自供したと連絡が入った。

県警は直ぐに銀流会の事務所に、捜査員を派遣して木南殺害の実行犯を逮捕した。

深夜の捕り物に浜松の町は騒然と成ったが、準備されていたのか簡単に犯行を行ったチンピラを引き渡した。

「錦織先生には指示は受けていません、蠅が一匹飛んでいたので叩き落としました」と会長は平然と答えて「他の殺しは一切知りません!桂木常務が亡く成られた事が混乱の始まりですよ」と話した程だ。


深夜に自宅に戻る一平が「美優の推理通り、木南殺しは暴力団銀流会の仕事だった。錦織議員は殺しを指示した事は無いが、目障りな蠅が飛んで困ると言ったらしい」

「上手に言うわね、でもこれだけマスコミに叩かれたら、錦織議員も柏崎由希子も駄目ね」

連日ワイドショーのネタを提供している二人だ。

「益々桂木常務と足立伸子を殺した犯人が判らなく成った」

「山戸院長と籠谷次長の死に何か共通点が有る気がするわ、それに堂本聡子さんも同じでしょう?」

「微妙に共通点が有るけれど、私明日堂本さんの自宅に行こうかな?」

「えー、乗り込むの?県警では後追い自殺に成っているのに、行くと困らない?」

「どうしても謎が解けないのよ!」そう言って行くと言い切る美優。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る