第33話USBメモリーの謎
美優は古い睡眠薬=違法睡眠薬の可能性も充分考えられると思い始めた。
桂木常務の自宅で尋ねた結果、その様な薬は持って居なかったと報告を受けたからだ。
それなら違法な薬を桂木常務が最近手に入れたのだろうか?
少なくとも堂本聡子も、籠谷次長も側に居た人間だ。
桂木常務の人脈なら、違法な薬を手に入れる事は簡単かも知れないが、青酸カリを持っているのに睡眠薬で殺すだろうか?
夕方に成って一平の元に、山戸元と云う五十代の男が同じ睡眠薬で昨年十一月に亡く成っているとの連絡が入った。
住まいは上板橋、職業は医師、新宿の雑居ビルの中で、小さな婦人科の診療所を開いていた。
「この人ヤマトレディースクリニックの先生ですね」小寺刑事が説明をする。
「自宅で?」
「いいえ、都内のホテルで死んでいた様です。遺書が残っていたので自殺と成った様です」
「理由は何だ?」
「違法な中絶手術を行っていた様ですね、歓楽街の中ですから病気か手術が多かったのでしょう?」
「それなら、儲かっただろう?」
「失敗をしたのでは?暴力団に追われていた様な事も調書には書いて有りました」
「この一人だけだったのか?」
「はい、他には有りませんでした」
夜、美優に話すと「これで睡眠薬にて亡く成った人が三人だわ、何か有る!」と断言した。
だが翌日県警の捜査とは関係無く、毎朝新聞が大きくカジノ構想で贈収賄!元人民党幹事長錦織議員と、東南物産の間で熱海、初島カジノリゾート構想!の見出しが躍って大ニュースに成り、捜査二課が動き始める。
警視庁の二課の管轄に成って、益々静岡県警捜査一課の出番が無く成る。
昨日毎朝新聞にUSBメモリーが送られて、桂木常務と錦織議員の会話が録音されていた。
地元の猿橋議員の名前も話の中には登場しているので、二課が早速警視庁の指示で猿橋議員の事務所に向かった。
錦織議員が熱海の廃業した旅館の跡地を安価で譲り受ける話も有り、相手の桂木常務が殺されている事も重なって、報道は政界のスキャンダルと、殺人事件を大きく取り上げた。
だがそれだけでは収まらなかったのは、翌日今度はスクープ週刊誌に柏崎由希子と錦織議員の不倫盗聴USBが送り届けられて、報道に拍車が掛ってしまった。
当然柏崎由希子の事務所にも二課の捜査が及んで混乱に輪をかけた。
テレビは元女優の不倫騒動と大騒ぎに成ってしまった。
自宅で一平と美優は事件の事に付いて話し合っていた。
「遂にボイスレコーダーを持っていた人間が行動を起こしたわね!少なくとも錦織議員には渡っていなかったのね」美優が益々混迷を深める事件に驚く。
「足立伸子のボイスレコーダーを誰が手に入れたのだろう?」
「少なくともお金に執着心の無い人物ね!これだけのスキャンダル、人民党に持って行けば相当な金に成るわよ!」
「目的は何?」
「恨み!少なくとも錦織議員達に、相当な恨みを持っているか、東南物産に恨みを持っている人だわ、この事件で東南物産は政府の入札から除外されるわね」
「あらゆる事業に首を突っ込み、帳合いで儲けるのが商社だから、相当手痛い事に成るな!」
「木南も錦織議員を強請って、お金を取ろうとした事は確かだから、元のボイスレコーダーは誰が持っているかだけれど、中々しゃれた事をして毎朝新聞と云う大きな新聞社と、スクープ専門の週刊誌に送りつける何て、犯人は若い人なのではと思っているのよ!」
「錦織議員も、柏崎由希子も終りだな」
「人民党のカジノ構想も頓挫する可能性が有るわ」
「それからあの睡眠薬だけれど、あれから色々調べて、中国で違法で数年前作られた物に成分が酷似している事が判ったよ」
「桂木常務なら手に入れる事は可能だわね、山戸さんと桂木常務の接点は無いの?」
「明日、元ヤマトレディースクリニックで働いていた看護師が見つかったので、聞き込みに行く予定だ」
「管轄が違うのに大丈夫なの?」
「その看護師は病院が閉院に成って、地元の焼津に戻って町医者に就職していたのだよ」
「それはラッキーだわね、何か掴めたら良いのにね!でも一課は栢崎由希子も錦織議員も取り調べは難しく成ったわね」
「二課の捜査が終わるまで、お手上げ状態だ!一課長が明日、警視庁に取り調べで木南信治殺害も尋問して貰える様に頼むと話していた」
「総ての罪を錦織議員に尋ねたら、ひとつなら認めるかも知れないわ!三人も殺せば間違い無く死刑だからね」
「それは面白いかも、明日課長に進言してみよう」
翌日横溝捜査一課長は美優の進言通り警視庁の二課に申し入れた。
管轄違いで邪魔くさそうに言われたが、交換条件に東南物産の桂木常務の情報を流すと言うと、簡単に条件を飲む事に成った。
桂木常務の情報を掴むにも、二課にはもうその相手は半年近くも前に死んで居るので調べる術が無いのだ。
その日の夕方今度は静岡県警にUSBメモリーが送られて来て、騒然と成った。
それは桂木常務が女性に話すカジノ構想の全容だった。
「これは?誰に話しているのだろう?」横溝捜査一課長が聞き耳を立てて聞く。
「常務って呼んでいますが、相手は?柏崎由希子?」
「女性が二人居る様ですね、声が違いますね」佐山刑事が三人の会話だと言う。
「この女性もしかして、堂本聡子では有りませんか?」
「この録音は誰がした?桂木常務か?」
「この様な危ない話を残さないでしょう?」
「堂本聡子は常務の女だろう?残さないだろう?もう一人誰か居るのか?」
結局この会話が何処で録音された物か?詳しく調べる事にして、コピーを捜査本部に残した。
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