第32話違法睡眠薬

「自殺なら、司法解剖も無いわね」

「一応行政解剖で調べたらしいが、不自然な事は全く無かったので、若い女性の突然、発作的な自殺で処理されていた」

「何か不自然な事は無いの?」

「気が付かなかったけれど、取り寄せてみるか?」

「貰って来て、読んでみたい」美優はどうしても、桂木=加山=聡子=かつみが気に成って仕方が無かった。


翌日県警では手分けをして、堂本聡子の写真を持って、初島と森繁の仕事場に向かった。

写真を見た森繁は直ぐに「この子がかつみちゃんで間違い無い」と証言した。

午後に成って同じく民宿鳴海屋の柴田も「この子だよ!間違い無い」そう言って他の従業員にも見せて確認をしていた。

リゾートホテルから飛込んで来たのと、異質のカップルだったので記憶に残ったと全員が証言した。


夜に成って緊急捜査会議で、横溝捜査一課長が自分の捜査方針とは異なる結果に陳謝して始まった。

①堂本聡子は東南物産で、桂木常務の秘書をしていた。

②短期間父の癌闘病の為に風俗で働いていた。

③かつみと云う源治名で勤めて、桂木常務と知り合い、その口利きで東南物産に就職。

④桂木常務の秘書兼愛人として、桂木常務と過したが常務が亡く成ったので、後を追って死んだと思われる。

⑤桂木常務、堂本聡子、足立伸子の順で亡く成っているが、桂木常務と足立伸子は青酸性の毒物、堂本聡子は自宅で眠る様に亡く成っている。

「以上の死体の状況から考えて、桂木常務と足立伸子は同一犯の犯行、堂本聡子は自殺で間違い無いだろう」横溝捜査一課長が発表した。

「木南信治は全く犯人が違うと云う事ですね」

「そうだ、木南は暴力団に殺された可能性が高いので、引き続き先生方の動向を注視してくれ」

「桂木常務と足立伸子を殺したのは誰なのでしょう?」

「我々の前に姿を見せていない人物が居ると云う事だな」

「もう堂本聡子は調べる必要は無いですね」

「彼女は父親の病気の為に風俗で少しの間働いて、東南物産の秘書課に勤められて、歳の差は有るが桂木常務に可愛がられたと云う事だろう?常務が殺害されて失望したのだろう、考えれば不幸な女性だな!」横溝捜査一課長はしんみりと言った。

だが、夜中に一平が帰ると堂本聡子の行政解剖の資料を見て美優が「変ね!」と呟いた。

「どうした?」

「この睡眠薬の成分何処かで見た様な気がするわ」

「昔の事件でか?」

「違う、最近よ!最近見た資料の中に有ったわ?何処だったかしら?」

一平が持ち帰った資料を捜し始める美優が、しばらくして「これと同じだわ!」

「どれだ?」資料を見ると、大阪に転勤した本社の秘書課長、籠谷次長の自殺の資料だった。

「これと同じ睡眠薬よ!」

「桂木常務が二人に渡したのかも知れないぞ!」

「でも古い成分の睡眠薬でしょう?その様な物を持っていると思う?薬の古い物を飲まないでしょう?」

「そりゃ、そうだけれど、青酸カリは古い物を持っていた」

「睡眠薬と、青酸カリは違うわよ!明日桂木常務の自宅に確かめて見て、その様な物を持っていたか?」

一平が眠っても美優は資料を見て、調べを続けていた。

①東南物産、元秘書課長、籠谷次長は大阪の自宅で睡眠薬自殺、桂木常務の亡く成る少し前。

②桂木常務の愛人兼秘書、堂本聡子は常務の亡く成った翌日、同じく睡眠薬で自殺。

③桂木常務は缶コーヒーで、青酸性の毒物を飲んで死亡。

④三日後、足立伸子も青酸性の毒物のお茶で死亡。

⑤数ヶ月後木南信治は、海に投げ込まれて死亡。

考えながら眠ってしまった美優を翌朝、イチの鳴き声が起こす。

早速一平に「一平ちゃん、この半年位で睡眠薬か、青酸性の毒物で殺された事件って他に有るの?」

「それは判らない、管轄が違えばお互い連絡はしてないから、判らないだろう?特に自殺の場合は判らない」

「同じ様な睡眠薬の自殺が無いか、調べて欲しい!籠谷次長が亡く成った時期から後よ!」

「美優は何を考えているの?」眠そうな顔で尋ねる一平。

「私はカジノ構想の贈収賄事件に絡んだ別の事件が隠れて居る様な気がしているの」

「横溝捜査一課長は、錦織議員と東南物産の間の贈収賄が引き起こした事件だと思っている」

「確かにそれが根底に有るのだけれど、それなら桂木常務は殺される事は無いと思うのよ」

「課長の考えは堂本聡子の後追い自殺だと、決めているよ!」

「確かに、風俗で知り合った大企業の重役に引き立てて貰った様には見えるけれどね」

「四年程付き合っているし、初島以外にも沢山遊びに行った様だ」

「調べたの?」

「白井達が、熱海とか伊豆の温泉場にも行った事を調べている、加山かつみで宿泊している」

「それが課長の決め手なのね!自宅に聞き込みに行ったの?」

「行ってない、行き難いからな!娘さんを失った悲しみが大きいからな」


県警に着くと一平は全国の半年以内の自殺で、睡眠薬で亡く成った人を調べて貰う様に頼み込む。

「野平さん、今睡眠薬で自殺は出来ませんよ」

「そうだよな!今の睡眠薬自殺不可能だったよな」

「でも先日二人も死んでいるから、他にも居るのかと思ってね」

「調べて見るけれど、多分居ないと思いますよ」小寺刑事が調べ始める。

昔の睡眠薬は、バルビツール酸系(Barbiturate、バルビツレート)、鎮静薬、静脈麻酔薬、抗てんかん薬などとして中枢神経系抑制作用を持つ向精神薬の一群である。

構造は、尿素と脂肪族ジカルボン酸とが結合した環状の化合物である。

それぞれの物質の薬理特性から適応用途が異なる。

バルビツール酸系は1920年代から1950年代半ばまで、鎮静剤や睡眠薬として実質的に唯一の薬であった。

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