第30話悪戯気分
夕方静岡の梅林公園の近くで足立伸子と会った聡子は、百万の現金を手渡し「口座に入れて、証拠を残して置くと後々役に立つから、一度入金しなさいね」と言った。
「貴女変な事を言うわね、何が狙いなの?」不思議そうに辺りを見廻す。
「心配要らないわ、私も桂木常務を毛嫌いしているのよ」
「何を話しているのか意味が判らないわ」
その時「教えてあげよう!」そう言って近づく晴之に「騙したの?」逃げ腰に成る伸子。
「違うわよ、私達恋人同士だったのに、桂木常務に引き裂かれたので、復讐を考えているのよ!貴女にもっと頑張って貰いたいのよ」聡子が伸子に言った。
「そうですよ、百万と言わずにもっと沢山奪って下さい、手伝いますよ」晴之も同じ様に言う。
変な申し出を受けてしまって逆に戸惑う伸子。
「ボイスレコーダーのコピーが有る事にして、また近い日に脅迫して下さい!これは取り敢えず貰っておきます」
「無く成ったら、コピー出来ませんし、操作の方法良く判らないわ」
「でしょう?だから必要無いのですよ、コピーが有る様に話せば充分です、私達が作って脅しの材料は準備しますから安心して下さい!五百万は頂けますよ」
「そうなの?あんたら信用して良いのね!」
「既に百万貰っているでしょう?後は私達に任せればもっと貰えますよ!携帯番号教えて下さい、連絡を密にしましょう!」
伸子は話を信用して携帯番号を交換して、百万を貰って上機嫌で帰って行った。
数日後伸子はこの話を知り合いの木南信治に喋ってしまった。
ボイスレコーダーを手に入れた二人は静岡からの帰り道、録音のコピーを作る為家電量販店に入り機材を購入。
夜遅く桂木常務が待つ料理店に、聡子は何食わぬ顔で渡すと、流石に堂本君は頼りに成ると喜んで身体を求め様とする。
「緊張したのが原因でしょうか?予定外の生理に成ってしまいました」と拒否をする聡子。
「そうだろう、そうだろう、緊張をするのがよく判るぞ!今夜はゆっくり休み給え!ご苦労だった」そう言って上機嫌でタクシーのチケットを手渡し、横須賀まで帰る様に言った。
晴之は翌日足立伸子に、ボイスレコーダーをコピーした物を渡して信頼を得ていた。
晴之と聡子の復讐はこの様にして始まった。
数日後再び柏崎由希子を脅迫する晴之。
勿論名前は足立伸子として、今度は五百万を要求して電話には柏崎本人の肉声を流して震え上がらせた。
早速柏崎由希子は桂木常務に相談をした。
その様子は直ぐに聡子から晴之に伝わる。
翌日、桂木常務は聡子を呼んで「これは昔取引先に貰った青酸カリだ!これを使って足立伸子を殺害したいので手伝って欲しい」と聡子に言った。
もう足立伸子を殺す以外に、ボイスレコーダーの秘密を消し去る事は出来ないと思った桂木。
「。。。。。。。。」
「堂本君は足立の信頼が有る様だから、必ず成功する」
「そんな恐ろしい事は出来ません」断る聡子に「これを成功したら、直ぐに彼氏を係長で本社に呼び戻してやろう、そして結婚の祝いに五百万出そう!どうだ?」その様な説得をした。
「一晩考えさせて下さい」聡子は桂木の申し出を晴之に相談しなければ、即決は出来ない。
桂木の耳に晴之が退職した事は聞えていないのか?人の人事を勝手に指示するのに、退職を知らない桂木に腹が立つが、我慢、我慢と言い聞かせて、薬の小瓶を受け取って本社を出た。
晴之に見せると目が輝いて「これで桂木を始末出来る」と喜んだ。
しかしこの様な薬を聡子に渡す桂木は余程聡子の事を信頼しているのだと、改めて驚くと同時に本当は聡子を愛している?と嫉妬を感じる晴之だった。
だが、この青酸カリを手に入れた事は、二人には格好の殺害手段を与える事に成った。
「この量は数回分、大人が数人殺せるらしいわ!失敗した時の予備だと話していたわ」
「これで足立伸子を殺そう!」
「えっ、足立さんには恨みは無いわ!殺さなくても良いでしょう?」
「桂木を殺す為には、足立を殺して安心させた時しかチャンスは無い!チャンスは一度だ」
「でも。。。。。。」
「もう僕も聡子さんも死んだのだ!」晴之は自分の決意を話す。
自分達の子供を殺された事が憎いのは判るが、晴之の並々ならぬ決意に圧倒されてしまう聡子だった。
ボイスレコーダーの中身は、柏崎由希子が神奈川のラブホテルで、錦織議員との密会総てと、カジノ構想に尽力して頂いた時の御礼の会話が録音されていた。
そのボイスレコーダーには一緒に、桂木常務と錦織議員との談合、密約の話が録音されていた。
柏崎由希子に桂木常務が聞かせて、由希子を説得して錦織議員と一夜を共にさせたのだった。
神奈川の郊外の高級ラブホテルに決めたのは、車のまま入室が出来る事が便利だった事と、錦織議員は時間的に宿泊が不可能で自宅に帰る為だった。
だが足立伸子達は、数人で組んでラブホテルでの盗聴を行っていた。
足立の知り合いの女性がボイスレコーダーを仕掛けて、足立がその器具を回収するのがその日の役割だった。
だが回収した器具がいつもの物と異なり変に思い、内容を聞いてしまった事が悪戯気分の足立伸子を不幸にしてしまった。
桂木常務は自分が渡したボイスレコーダーと異なると直ぐに気が付いて、ホテルに確かめたが足立伸子が持ち去った後だった。
柏崎由希子は初めて持ったボイスレコーダーで、自分の密会の様子を録音すると云う事に戸惑いを感じていたので、慌てて別のボイスレコーダーを持ち帰ってしまった。
晴之は看護師の瀬戸頼子から真実を聞いて、再び籠谷次長に執拗に電話とメールを送りつけ、ついには自宅に手紙と一緒に薬を送りつけた。
それは中国で知り合いの薬局で手に入れた違法な睡眠薬だった。
晴之は一行(悪いと思うなら、これで永遠に眠りなさい)と書いていた。
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