第29話知った事実

翌日聡子と会った晴之は、顔を見るのが辛くて本当は会いたくなかったが、聡子も覚悟を決めて総てを話したいと会う事を強要した。

ホテルで顔を見ると、聡子は既に目を真っ赤に腫らして「ごめんなさい!」と謝った。

晴之も何も言えずに行きなり抱きしめると、既に涙が溢れていた。

「もう何も言わなくても良いよ!」と言う晴之の言葉を遮って「私晴之さんの事は大好きなの、でもこの様な事に成ってしまったので、今日でお別れします。今まで騙してすみませんでした!」泣きながら謝る聡子。

泣き声で話し始めると「お父さんが癌に成ってお金が必要に成って、風俗で少しの間働いたの、その時のお客が桂木常務だったの、就職して東南物産の秘書室に入るまで知らなかったの、加山って名前を使って風俗で遊んでいたの!就職して初めて判ったのだけれど、お父さんの仕事も、お兄ちゃんの仕事も、晴之さんの仕事も桂木常務にコントロールされていたの、肉体関係を強要されたわ、風俗の時には本番行為はしていなかったのだけれど、秘書に成って強要された。拒否すると全員の仕事が無く成る程の事を言われて、仕方無く従ったの!でも二年待てば晴之さんが帰って来る。それまでの我慢だと思っていたの、妊娠を知って嬉しかったわ、来年には三人で暮らせると思っていたのに、育っていなかっ。。。。。。。」流石に気丈に話した聡子も限界で泣き崩れてしまった。

晴之は「もういいよ!判った!もう話さなくても良いよ!でも桂木常務は許せない!」恐い顔に成った晴之。

「私、もう会社も辞めて、晴之さんともお別れするわ」

「そんな事を言わないで、一緒に桂木常務に復讐をしよう!世の中の敵だ!生かしてはおけない!」

晴之の気迫に圧倒されそうに成る聡子。

そう言うと、絶対求めないだろうと思っていた身体を、晴之が求めて来て「俺が聡子の仇を討ってやる!」そう言って唇を再び求めた。

晴之の意外な態度に、戸惑いながら身体を許してしまうと、もう止らない二人。

久々の関係の後、晴之は「僕、柳井工業を首に成った」とポツリと言った。

「えーそれって常務の差し金?」驚きの表情で尋ねる聡子。

「僕を日本に帰さないと。。。。。」

「そんな、約束が違う!私抗議します」

「そんな言葉が通じる男では無い、鬼だ!人間の屑!生きる価値無い!」

強い言葉で罵る晴之に怖さを感じてしまう聡子。

自分の彼女を寝取られた悔しさなのか?恐い口調の晴之。

「私直ぐにでも会社を辞めるわ、私も我慢出来ない!」

「辞めないで欲しい」晴之は意外な言葉を口にした。

「えっ、もう私は耐えられない!晴之さんへの仕打ちを聞いてもう我慢が出来ないわ」

「僕は桂木常務への復讐の為に、もう少しの間我慢して勤めて欲しいのだよ」

「えっ、本当に復讐をするの?」

「勿論だよ!この様な卑劣な事をする男を許しておけない!」

「そこまでしなくても、彼の目が届かない場所に行けばいいじゃない?」

「僕、僕達の子供を殺されたのだぞーーーーーそれでも許せるのか!」急に大きな声で泣きながら言い放った言葉は、聡子の耳に木霊の様に聞えた。

「知っているか?病院に連れて行った功績で籠谷は大阪本社の次長に成っているのだ!」

「。。。。。。。。。。」放心状態の聡子。

流石に手術の話は出来ない晴之。

「それって、子供が殺されたって事!」怖々尋ねる聡子に、頷く晴之。

急に大声で泣き始める聡子は、もう泣き止む事が無い状態で、晴之が抱きかかえて泣き疲れて眠るまで続いた。

翌朝「殺しても許せない!」鬼の形相に変わった聡子は、晴之の計画通りしばらく様子を見る事に同意したが、普通に桂木常務に接する事が出来るか自信は無いと言った。


聡子の危惧は翌日の桂木常務の慌て様で消え去った。

「大変だ!静岡のラブホテルでボイスレコーダーを忘れてしまったらしい」

「えっ、例の柏崎由希子さんがですか?」

「ラブホの清掃員が、盗聴していたらしい!あの女優自分が置いた盗聴器と違う方を持ち帰ったらしい、そちらのボイスレコーダーには、他の話も入っているが、彼女の持ち帰ったボイスレコーダーには、ラブホの盗聴だけだ!困った!早速百万要求された!私が出て行く訳には行かないので、堂本君済まないが今日夕方静岡で百万を渡して、取り返して来て欲しい!」慌てた桂木常務の顔を見てほくそ笑む聡子。

早速復讐の機会が訪れたと、晴之に事の成り行きを連絡する聡子。

晴之には何が起って慌てているのか判らないので、静岡までレンタカーで送るので説明して欲しいと言われる。

適当な事を桂木常務に話して、早い時間から本社を出ても何も言わない常務。

ボイスレコーダーの中には錦織議員との密約が入っているので、困り果てる桂木常務は聡子の行動には感知していなかった。

柳井工業の上海支店では、支店長は植野晴之が退社した事実を桂木常務には連絡していなかった。

人事に口出しされて面白く無かったので、晴之が退社した事でもう言われる事は無いと喜んでいたのだ。


レンタカーで迎えに来た晴之は聡子が乗り込むと同時に「運が向いて来たな!早速面白く成ってきたな!

ラブホで何が有ったのだ?」早速尋ねる晴之。

「人民党の錦織議員と柏崎由希子の不倫よ!」

「えーあの元女優の参議院議員だよな!もう一人は幹事長だったな?」

「元ね、でも大物議員よ!桂木常務が進めるカジノ構想に口利きをして貰う為に、柏崎由希子に昔からご執心の錦織議員に人身御供で差し出したのよ」

「悪い桂木の考えそうな事だな」

「交換条件に賄賂と柏崎由希子を進呈したのよ!でも密会の証拠をボイスレコーダーに残す為に、桂木が由希子に持たせたのよ、でもラブホの清掃員のグループが盗聴の為同じ様に仕掛けて居たのよ」

「それで間違えて、持ち帰ったって事か?運が向い来たな」嬉しそうな晴之。

だが二人共心の中は憎悪で煮えたぎっていた。

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