第28話晴之の衝撃

夕方に成って一平が「小山って女性がかつみかは判らないが、渋谷のスナックで働いていた様だ」

「そうなの?」

「去年東北の人と結婚して、子供が産まれたらしい」

「風俗で働いた経験は?」

「それはまだ判らない!この女性かな?」

「学校は何処?」

「横浜の私立らしいが、噂だから確証は無い!どうする?」

「その人は違うと思う、もし桂木常務と関係が有るなら、お腹の大きい時に初島って事に成るわ」

「美優は一連のかつみが同一人物だと思っているのだな!」

「その可能性が高いわ!横須賀の堂本さんの方に行って」美優の決断は早かった。

もし堂本聡子が該当しなければ、自分の推理が間違っていた事に成る。

そう成ったら、この事件は何処から手掛かりを捜せば良いのだろう?不安が脳裏を過ぎった。


去年の十月に戻って

大阪の東南物産本社の総務部に無言電話が度々有り、完全にノイローゼ気味の籠谷次長のマンションに植野が現れて呼び出した。

会うと同時に怯えて「私は何も。。。。指示をされたから仕方無く、詳しい話を聞くなら瀬戸頼子に聞いて下さい」

「それは誰だ!」

「東京の病院の看護師よ!その女も強請ってきたのよ!もしかしたら彼女に話したかも知れないわ」

意味不明の話に晴之は「叔母さん!何を喋っているのだ?誰かが病気に成ったのか?」

「病気じゃないわ、妊娠でしょう?だから私は命令されただけよ!気の毒だとは思うけれど私も命令されたから仕方無く連れて行ったのよ!」

「妊娠って?誰が妊娠したのだ!」

「えっ、誰って?彼女でしょう?」

晴之は東南物産の誰の指示で、自分の上海での仕事が長引くのか?もう一年も何故延ばされたのかを尋ねたのに、妊娠の話に成ったので全く意味が判らなかったが、彼女と言われて「聡子?堂本聡子が関係しているのか?何故だ!僕の転勤に関係しているのか?」

胸ぐらを捕まえて詰め寄る恐い晴之に「桂木常務と男女の関係。。。。。」掴んだ胸ぐらの手の力が抜けて放心状態に成る晴之。

しばらく考えて「その看護師の女って、何処の病院だ!」

「池袋の釜江婦人科だけど、もう辞めているわ!これが連絡先よ!詳しい事が聞きたければこの瀬戸頼子に聞いて!私は常務の命令で病院に連れて行っただけよ!」

「だが、お前も同罪だ!近日中に結論を出す!それまで念仏でも唱えて待っておけ」

晴之はこの時、桂木常務が聡子を強姦して妊娠させてしまって、その処理を籠谷次長にさせたと理解した。

桂木常務を殺したい気分に成っていたが、取り敢えず瀬戸頼子に連絡をして、事情を聞きたいと思った。

大手の商社の重役のスキャンダルが金に成るのか?それとも他に強請る材料が有るのか?翌日晴之は東京に戻って、秘書の聡子に手を出した桂木常務を殺したい気分に成っていた。

強姦して妊娠させて、その子供を始末させるなんて許せない。

そうは思うが、自分の上海転勤期間を延ばす事には直接関係が無い様に思えた。


晴之は聡子に連絡をしてホテルで会うが、身体を求める事は無く「何か僕に隠している事は無いか?上海の支店にもう一年延長に成った!東南物産の桂木常務の指示らしい!」

恐い顔の晴之に「。。。。。。。。。。」何も答えられない聡子。

「もう一つ知った事が有る!大阪の籠谷次長に総てを聞いた!詳しい話をこの人に聞けとメモを貰った」と差し出す晴之の手が震えている。

その言葉に身体が震え始める聡子は、もう泣き崩れるしか術が無かった。

「説明して欲しい」の言葉にしばらく泣きながら考えて「何故?この瀬戸さんの連絡先が?」

「強請に来た様だ」

「強請?」それだけ呟くと考え込んで「一日待って!総てを話すから、私も何故?この看護師さんが次長の処に強請に行ったのかが、気に成るの!でも信じて晴之さんの子供が育って居なかったの?常務の子供じゃ無いのよ!信じて!」必死に訴えるが晴之は「僕の子供を何故?」

「診察に行って母子手帳を貰おうと思っていたの、もし貰えたら晴之さんに報告する予定にしていたのに、育って居ないと診察で言われて堕したの!ごめんなさい」

二人はその後沈黙で、時間だけが過ぎていった。


翌日意を決して、晴之は瀬戸頼子に籠谷次長の弟だと話し、自分が姉の代わりに条件を聞きに行きたいと話した。

頼子は東南物産の常務に直接面識が無いので、籠谷次長の名前と顔を知っていたので話に行ったと話し、常務から口止め料五十万を貰って欲しいと晴之に言った。

「大会社の常務が社員を妊ませた事で、口止め料は獲れませんよ」晴之は鼻で笑って言った。

「そうなの?でも自分の子供では無いのに、堕してしまうのは犯罪ですよ」

「育って居なかったので、仕方が無かったのでしょう?」

「弟さんって言ったけれど、随分離れているわね」全く違う事を言って晴之の顔を見る。

「姉は父の連れ子ですから、私の母は後添えです」

「そうなの?何も聞いていないのね!お姉さん話さなかった?」

「僕は詳しい話は聞いて居ません、瀬戸さんの条件を聞いて来る様にとだけ、勿論交渉もですが!」

「子供が育って居ない?それは嘘の話よ!常務はあの子が気に要ったから、妊娠すると困るから始末をさせたのよ!私は先生との話を聞いたのよ!」

「えっ、子供は育って居た?」

「そうよ、元気で育って居たと思うわ!あの娘さん母子手帳が貰えると思って病院に来たのに、子供を中絶手術されて、二度と子供が産めない身体にされてしまったのよ」

突然の話に「。。。。。。。。。。。。。」放心状態の晴之。

「どうしたの?顔色悪いわよ!卵管を切られてしまったから、もう子供が産めないわよね!可哀想よ!あの子知らないのよ。。。。。。。。。」頼子の言葉が遠くに聞える晴之。

大きなショックは、明日どの様な顔で聡子に会えば良いのか?考える事も出来ない状態だった。


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