第27話辿り着く

「知っているわね、凄く動揺していたから、何か心辺りが有るのよ」

「でも言いませんでしたね!何故でしょう?」

「でも顔が喋ったから、一応は来た甲斐は有りましたよ!」

「えー、美優さんはそれで良いの?」

「はい、充分よ!電話では絶対に顔色は判らないから、これで良いのよ」

久美にはさっぱり判らない事だが、美優にはあのハイツ茜に住んでいて、茂樹と同じ時期に二年程で退居した学生は、二人しか存在していなかったので目星が付いたのだ。

目星が付いてもその女性が本当に(品川ゴールド)に勤めていたのか?そこまでは結び付かない。

かつみちゃんが、初島に桂木常務と一緒に行った同一人物だとは限らない。

未だ未だ謎の多い事件だが、一歩前に進んだ事は確かで美優は多少気分的に楽に成っていた。

土産物を買って帰る二人の姿は、道行く人が振り返る程の美人。

兼六園だけ見学して、一泊旅行を楽しんだ二人は夜遅く自宅に戻った。


美優は早速パソコンのデータを取り出して、該当の学生の名前を二人画面に出した。

小山淳子が千葉県の銚子で、もう一人が横須賀の堂本聡子の名前と住所を見ながら、もし犯人なら問い合わせをしたら逃亡、証拠隠滅の恐れが有る。

美優の脳裏に迂闊にこの二人に警察の手を廻すと危険では?と思い始めた。

①二人のどちらかは、国立大学に通いながら風俗に勤めた。

②名前を須藤瑠衣と偽って、風俗で登録をした。

③少なからず大村茂樹と関係が有り、妻の瑠衣を知っている人物。

④桂木常務がかつみに惚れていて、その後もかつみを女性同伴の時に使って居たら、この話は終わって意味が無い。

⑤もう一つはその後も、同じかつみと付き合っていた場合は余りにも長いのだ。

考えていると午前零時を過ぎて、一平が戻って来て紙に書いた美優のメモを見て「小山淳子、堂本聡子!初めて見る名前だが、金沢で何か見つかったか?」と尋ねた。

「この二人が大村茂樹、そして須藤瑠衣を知っている可能性が高いのよ」

「須藤瑠衣が見つかったのか?」

「驚いたら駄目よ!大村茂樹の奥さんだったのよ」

「えーー繋がったのか?この二人が大村夫婦と関係が有るって事だな、明日早速聞いてみよう」

「待って、もしかつみさんなら、犯人の可能性も有るから警察が動くと証拠隠滅、逃亡の恐れが有るのよ、極秘に調べて二人のどちらかが風俗に勤めていた事実を掴めないかな?」

「課長にお願いして、俺が調べて見るか!」

「大丈夫なの?課長の捜査方針に逆らう事に成らないの?」

「実は課長の方針が行き詰まっているのだよ!どうやら議員から圧力が掛かった様で、錦織議員の周辺を調べる事が出来ない様な雲いきだから、新たな証拠を準備する必要がある」

「流石は人民党の大物議員だわ、一筋縄では難しいわね」

「大村茂樹は認めなかったのか?」

「多分、奥さんが居たからか、この女性と関係が有ったのでは?だから言えないのでしょう?」

「認めると夫婦の危機に成るか?」

「そうね、今奥さん多分妊娠していたと思うから、今刺激する事を避けたのでしょう?」


翌日一平は早速佐山に相談して、横溝捜査一課長に一平の単独行動許可を申し出た。

「確かに、ここでかつみと云う女が現れると、桂木常務の行動の総てが判らなくても大部分は掴めるな」

そう言って抵抗無く許可をする横溝捜査一課長、何か大きな進展に結び付く事が欲しいのは事実だった。

自分の捜査方針が揺らいでいるから、何とか足がかりが欲しいのだ。


早速、横須賀と千葉に向かう一平「一泊二日で何が見つかるか判らないが、とにかく許可を貰った」自宅に帰って着替えを準備して向かう。

「写真が手に入れば、森繁さんに見て貰えるわ」車で静岡駅まで送って行った美優が言う。

美優は何故この二人のどの様にして捜し出したのだろうか?新幹線に乗り込むと急に気に成り始める。

まさか小さなマンション(ハイツ茜)の住居人のリストを総て調べたのか?初めは遠方の人渡辺操(島根県)工藤香奈(秋田県)大木志保(北海道)だったが、違ったので近辺の女性に絞ったのか?一平は考えているといつの間にか居眠りをして東京駅に着いてしまい、千葉から調査する事に必然的に成ってしまった。


美優は大村茂樹とかつみを名乗った女性は付き合いが有ったが、須藤瑠衣の方に茂樹が行ってしまい自分は振られた。

その事が絶えず頭に残っていたので、自分が風俗に身を落としたが、腹いせに住所を使い彼女の名前も使ったと考えていた。

ハイツ茜に住んで、家庭教師に来ていた大村茂樹と親しくなったが、須藤瑠衣に大村茂樹は?もしかして、茂樹が話していた父親の癌の為に看病ではなくて、仕方無く風俗に働きに行った?

美優は大村茂樹の自宅では無く勤め先に電話をして、確かめる事にした。

自宅では瑠衣さんの手前喋らない事も、喋るかも知れないと思ったからだ。

迷惑そうに電話に出た茂樹は「まだ何か御用でしょうか?」と言う。

「癌のお父さんの看病に実家に戻った女性の事ですが?」

「名前は忘れたと言ったでしょう?」

「名前も住所も教えて頂かなくても結構ですが、一つ教えて欲しいの!」

「何でしょうか?」

「彼女もしかして、風俗のバイトを始めたのでは?」

「違いますよ!風俗なんてしていませんでした!渋谷のスナックに。。。。。」と言ってしまったと途中で話を止めてしまった。

「ありがとう!」美優は聞きたい事を聞いたので、直ぐに電話を終わって一平に、渋谷のスナックに勤めていた事実を確かめて欲しいと連絡をした。

大村茂樹の元彼女がかつみだと確証は無いし、初島に行ったかつみが同一人物だとは限らないが、少なくとも見つければ桂木常務との接点は判明すると思う美優だ。

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