第26話金沢にて

結局県警は決め手が見つかるまで、柏崎由希子を泳がす作戦にして、常に四人の刑事が交代で行動を見張る事に成った。

木南殺害に関与した人物に、二人の関係者が居ないのかも引き続き捜査がされる事に成った。


話しは九月に戻って

月が変わっても中国から戻った植野晴之は、再三に渡って桂木常務の携帯に連絡をして来る。

桂木常務は聡子の事で何かを感づかれたと勘違いをして、電話口に出ると「私は何も知らないが、もしかしたら元秘書の籠谷課長が何か知っているかも知れない、今は大阪本社の総務部次長だ!」と答えてしまった。

植野晴之は自分を中国に止める様に指示をしたのが誰なのかは知らなかったが、日頃、聡子から聞いているのは桂木常務だけだったので真相を聞こうとしたのに、全く予期していない人物の名前を聞かされて動揺する。

自分が戻っている事を絶対に聡子に言わないで欲しいと頼み込む晴之。

まさか聡子が桂木常務の女だとは考えもしていない晴之。

自分の人事、仕事の事で聡子には迷惑を掛けたく無いと思っていたが、来年には日本に戻って聡子と結婚したい晴之は、秘書課長が人事を指示した人を知っていると勘違いした。

桂木常務は電話が終わると籠谷次長に「植野が何か感づいた様だ!中国から戻って来て君を捜している」と話した。

この電話は籠谷次長を震え上がらせる結果に成ってしまう。

電話を受けた籠谷次長は、もしかして堂本聡子が体調の異常を感じて、病院に行って自分の手術の事を知って植野に相談したのか?自分は殺されるのでは?と半ばノイローゼの様に成っていた。

自分の近くに知らない男性が近づくと、極端に恐怖を感じてしまう様に成る。

籠谷次長自体は植野晴之の顔を全く知らないから、一層恐怖は毎日襲ってくる。

その様な時、植野が籠谷次長に電話をするとパニック状態に成る籠谷次長。


話しが戻って

数日後、美優は伊藤純也の妻久美と東京から北陸新幹線で金沢に向かう。

夕方には金沢の旅館に到着、荷物を置くと早速大村茂樹の年賀状の住所を尋ねて向かった。

タクシーの運転手がナビで捜してくれて到着して、近所を捜すと大村と書いた表札を見つける二人。

「取り敢えずここだと思うので入ってみよう」

もうしばらくすると暗く成って来る時間、北陸の冬は日暮れが静岡に比べて早い気がする美優。

年配の女性が出て来て、美人の二人を見ると、化粧品の販売と間違えて追い返そうとした。

美優が慌てて昔、学生の時に家庭教師をされていた時の事を聞きたいのですと説明した。

何故今頃昔の家庭教師の事を聞くのか?怪訝な顔をされたので、仕方無く説明をする。

「えー、茂樹が働いていたお宅の住所を犯人が書いていたのですか?でも茂樹は関係無いですよね!刑事さん!」二人を刑事と間違えて話す。

「何故?家庭教師なのですか?」

「犯人は家庭教師をしていた女性なのです、それで同じ仲間の人にその様な方が居なかったか?そのマンションで会わなかったのかを聞きに来たのです」

「そんな話しでしたら、本人に聞いて下さい、息子は今では嫁を貰って小松空港に勤めています」

「パイロットでしょうか?」

「いいえ、地上勤務ですよ!明日は休みの日ですから、居ると思います!連絡して置きます」

住所を書いたメモを貰って大村の自宅を後にする二人。


翌日小松空港の近くの粟津温泉駅から、タクシーで十分の場所に新築の住宅が建ち並んだ一角に大村茂樹の自宅が在った。

「ここね」久美がタクシーを降りてから、表札を捜し歩いていち早く見つける。

美優が追いついて「ここ。。。。。。。」と表札を見て身体が固まってしまった。

「どうしたの?美優さん」美優の驚く視線の先には、大村茂樹の名前の横に少し小さく瑠衣と書いて有った。

「この名前よ!品川のデリヘルで女性が名前を書いているの、その名前なのよ!」

「奥様の名前よね」

「もし名字が須藤なら、確実よ!」

気合いを入れてチャイムを鳴らすと、二十代の女性が返事をして招き入れた。

「警察の方ですか?」

「はい、奥様ですか?旧姓須藤さんですか?」

いきなり旧姓を言われて驚き顔に成って「何故ご存じなのですか?」恐る恐る尋ねた。

そこに奥から茂樹が「何か有ったのか?」と出て来た。

「この刑事さんが私の旧姓をご存じだったので驚いたのです」

玄関先で話すのも困るので応接に上がって貰う茂樹。

ソファーに座ると、美優は須藤瑠衣の名前が品川の風俗嬢が使って、住所が茂樹の働いていた(メゾンむらさき308号)だと説明をした。

驚き顔の二人は冷静さを取り戻し「私が宮本さんの家庭教師をしていた事を知っている人ですよね」と尋ねた。

「多分そうだと思うのですが、心当たりは御座いませんか?」

「私が家庭教師で宮本さんのマンションに行っていた事は、ゼミの人なら知っていると思います」

「それでは須藤瑠衣さんをご存じの方は?」

「同じくゼミ関係の人なら全員知っていますよ」

「ではもうひとつ、宮本さんのマンションの前に小さなハイツ茜と云うマンションが在ったと思うのですが、そこに住んでいた学生はご存じ無いでしょうか?」

「ああ、知っていますよ!初めて会ったのは大学の一年生の時だったかな、でもお父さんが癌に成ったので二年生の時、マンションを引き払いましたよ!看病とかだと聞きました」

「その女性の名前は覚えていらっしゃいませんか?」

「名前ですか?数回会っただけですから、思い出せませんね」

「そうでしたか、近所の方が親しそうだったと言われたので、お聞きしました」

「奥様の事はその女性はご存じでしょうか?」

「知らないでしょう!知っている筈有りません」と強い調子で言う。

瑠衣がお茶を持ってその後部屋に入って来ると、冷静さを装う茂樹だった。

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