第24話美優の推理

「県警では、錦織議員と栢崎議員の不倫が原因での事件として、調べているのだよ!桂木常務と栢崎議員に接点が有れば解決だ」

「私は違うと思う!逆だと思うわ!」

「逆?どう言う意味なの?」

「錦織議員を栢崎由希子が誘惑したと思うな!」

「えー誘惑?」

「そうよ!多分警察はもう直ぐ柏崎由希子と桂木常務の接点を見つけると思うわ、でもそれは桂木常務が仕掛けた罠で、由希子が錦織議員を引き込む材料に成ったのよ」

「えー、意味がよく判らない」

「初島カジノ構想を実現する為に、大物議員の力が必要に成って錦織議員に的を絞ったの、以前から柏崎由希子のファンだった錦織議員は誘いに乗った。そこで証拠のボイスレコーダーが登場するのよ」

「でもその様な大事なボイスレコーダーを忘れるか?」

「だから私が、以前お願いしたでしょう?誰か連絡をしてきた人は居なかったか調べてって言ったでしょう?」

「あっ、忘れていた」

「でしょう?私が調べたわ!男の人が電話をしてきたって!」

「男?」

「多分桂木常務だと思うわ」

「もしもボイスレコーダーが二台有ったら、どう成ると思う?」

「えーーボイスレコーダーが二台?」

「ニシジマの職員が仕掛けて居たとしたら、間違えて違う物を柏崎由希子が持ち帰り、驚いて桂木常務が問い合わせた!」

放心状態で聞いている一平。

先日の捜査会議とは全く異なる美優の推理だが、辻褄は合うと思う。

美優が「これはまだ言ったら駄目よ!今言うと課長の権威が落ちるからね、まだ判らない事が多いのよ!だから発表は出来ない」

「例えば?」

「私の推理では、足立伸子さんを殺してでも、ボイスレコーダーを取り戻したいのは、桂木常務だと思うのよ!でも足立伸子さんよりも先に桂木常務が殺された事が理解出来ないのよ!この部分が解決出来たら総てが繋がるのよ!二人の殺され方が同じだから同一人物だと思うのだけれど、犯人が見当たらないのよ!だから秘密を知っている可能性が有るかつみを捜しているのよ!初島まで一緒に行く仲だから、相当詳しく知っていると思うのよ」

「それが渡辺操(島根県)工藤香奈(秋田県)大木志保(北海道)の三人か?」

「でも国立の子が風俗で働くかな?その三人の学校は判らないのよ!それも調べて!多分国立だと思うので、抜粋したのよ!風俗の名前と一緒にしたのかも知れない!でもとても桂木常務はかつみさんの事を気に要っていた」

一平は話しを聞いて一層判らなく成っていた。


話しは少し前に戻って去年の八月

「堂本君!いよいよ仕掛ける時期が近づいたぞ!初島を中心にした熱海、初島一大カジノプロジェクトが動き出すぞ」

「与党の大物代議士さんとの交渉が進むのですか?」

「その通りだ!忙しくなるぞ!」

「私も常務さんとの最後のお仕事に成るかも知れませんね」何気なく言った言葉が桂木常務の神経を逆撫でした事を聡子は知らなかった。

数日後桂木常務は、柳井工業の上海支店に直接電話をして、植野晴之が当分帰国出来ない様に取り計らって欲しいと頼み込む。

柳井工業は、空調冷熱設備、クリーンルーム、医療ガス、ガス溶接事業を中心にした会社、中堅企業で上場もしているのだが、東南物産の力は強く、特に筆頭常務桂木の要望にはご無理、ごもっとも状態なのだ。

しかし、支店長室の隣の事務員がこの話しを偶然聞いてしまった。

この事務員は現地採用の中国人だが、少なからず植野に好意を持っていた為、晴之に東南物産の指示だと伝えてしまったのだ。

数日後晴之に支店長が本社と相談して、仕事が良く出来るので係長に昇進させて、もう一年上海で頑張って欲しいと説得する予定で呼ぶと、晴之は辞表を叩き付けて退職を申し出てしまった。

呆然とする支店長を尻目に、晴之は翌日帰国してしまった。

帰国の翌日晴之が、桂木常務に連絡をして会ってどうしても話したい事が有ると告げたのは、言うまでも無かったが、中々面会には成らなかった。


話しが戻って

柏崎由希子の自宅近辺の聞き込みで、横溝捜査一課長が待ちに待った情報がもたらせた。

桂木の借りたレンタカーを目撃していた学生が居た。

その学生は栢崎由希子のファンで、暇が有れば自宅の近くを散歩の様にして柏崎が出て来て偶然会えないかと思っていたらしい。

その為、携帯のカメラで来客の車、時には来訪者も撮影するらしく、写真にはレンタカーの番号が克明に写されていた。

「これで柏崎由希子を引っ張れる」

「もう一度事情を聞きに行くのは駄目ですか?参議院議員で元女優ですから、話題が大きすぎて、錦織議員の方が対策を講じると面倒ですよ」佐山が横溝捜査一課長に進言した。

「よし、野平と伊藤でもう一度聞き取りに行ってくれ」

二人は柏崎由希子に会いたい事を伝えると、渋るので「警察に来て頂く事に成りますが、それでも宜しいのでしょうか?」と話すと、渋々夜六時自宅に来てくれる様に言った。


美優に頼まれていた渡辺操(島根県)工藤香奈(秋田県)大木志保(北海道)の三人の身元と現状を調査したが、各県警の調べでは地元の県庁に勤めている人、大手企業に勤めている人で、東京の風俗で働いたのかは判らないが、少なくとも静岡近辺に桂木常務と来た形跡は皆無だとの調査結果が届いた。

美優に伝えると予想が外れた事を悔しがったが、それが美優が範囲を広げて調べる事に繋がっていった。

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