第16話妊娠

最終の高速艇で二人は「新発見だったな!桂木常務は愛人と偽名で泊まっていた」

「すると先程聞いたかつみって女性を捜せば何か判るかも知れませんね」

「どの様に捜す?桂木常務が風俗の女性が好きだった事は聞いたが、この様な場所まで風俗の子を連れて来るとは考えられない、若い愛人だろうか?」

「この前妻と行った時に聞いた事を調べる必要がありそうですね」

二人は鳴海屋の柴田貴枝の証言で、意外な収獲で帰って行った。


話しが戻って

桂木常務は籠谷秘書課長を呼んで、聡子の妊娠の事実を告げて、自分の子供の可能性が有るので始末する様に頼み込む。

「上手く始末してくれたら君もここで彼女と顔を合わせるのは辛いだろう?大阪本社の総務次長の席を準備するから、そちらに転勤して欲しい」

「えっ、総務部の次長の席が頂けるのですか?」

「君の能力は男性社員以上だ、五十代に成ったら確実に部長職だ」と煽てる桂木常務。

「始末したら堂本は配属を変えるのですね」

「いや、そのまま私の秘書に置く予定だ!彼氏が居てまた子供が出来ると産休だと言い始めるので、医者に頼んで妊娠出来ない様にして貰えないか?」

平然と恐い事を言い始める桂木常務だが、籠谷課長は動揺もしていない。

「常務がお好きな事は知っていますが、そこまでするにはお金が少し多く掛かりますが?」

「多少の出費は構わん、あの子は気に要っているのだ」

「確かに仕事は良く出来るし、頭も良い子ですね」

続けて「道具も良いのでしょう?」そう言って笑う籠谷課長。

過去にも何人か秘書の妊娠を始末した事が有る様な口ぶりだ。


その日の夕方籠谷課長に呼ばれて、留守に成った桂木常務の部屋に行く二人。

「常務に聞いたのだけれど、彼氏の子供が出来た様ね、常務が堂本さんを心配されて、病院に連れて行って確実に妊娠しているなら、早めの産休も準備してあげなさいと言われたのよ!堂本さんの心当たりの病院は有るの?」

「いいえ、私が休みの時は近所の病院は休みですし、まだ結婚してないので誰かに見られたら困りますし、唯近い日に何処かに行って診て貰わなければと考えています」

「そうなのそれなら良かったわ、私もこの様な仕事していると課員に相談される事も有るので、知っている病院が有るのよ!そこに連れて行ってあげるわ」

「本当ですか?課長済みません、気を使って頂いて申し訳有りません」

「妊娠しても発育が悪いとか、子宮外妊娠も有るから病院で確実に診て貰わないと安心出来ないでしょう?彼氏には話したの?」

「いいえ、まだ話していません、病院で確実だと判ってから話そうと思っています」

「それが良いわ、じゃあ近日中に病院に聞いてみるわ」

「よろしくお願いします」深々とお辞儀して、課長さんの仕事って大変だわ!社員の健康管理まで気を使うのねと思った。

話しが終わると直ぐに桂木常務に電話をして、上手く話せた様だなと喜ばれる。


新宿の雑居ビルの中に有る婦人科のみの病院、ヤマトレディースクリニックが籠谷課長の利用する病院だ。

過去にも何人かをこの病院で手術させたので慣れているのだが、今回は別の手術もするので相談にやって来た。

「私の病院では無理ですね、入院施設が無いので他を捜して下さい」

「先生のお知り合いで、秘密を守って頂いて手術をして頂ける病院は御座いませんか?」

「そうですね、少しお金が必要ですが、大丈夫ですか?」

お金を要求する院長は池袋の釜江産婦人科を紹介して、籠谷課長は翌日釜江産婦人科を訪問して、内容を話すと既に聞いているのか快諾した。

卵管結紮術とは、卵巣から排卵された卵子を子宮に届けるための通り道「卵管」を縛る、あるいは切断する避妊手術の一種です。

これによって卵子は子宮までたどり着く事がなく、精子と出会うこともないのでほぼ100%の確率で避妊ができます。

卵子が子宮に送られるのを防ぐだけなので、手術後も排卵は続き、生理もこれまで通りに起こります。

ただし、排卵された卵子は行き場がなくなるので卵管の途中で体内に吸収されてしまいます。

「この手術をするともう子供は出来ませんが宜しいのですか?」

「はい、今回も本妻に知られると大変な事に成りますので、今後も愛人として妊娠すると混乱が起るので、御主人はその様にして欲しいと言われています。本人は財産目当てで今回の様に妊娠してしまうのです」

「悪い女ですね!今回は子供が全く育っていないと言って、堕胎手術を行なって卵管切除手術も行ないましょう。もう安心ですよ!」そう言って微笑む。


数日後釜江産婦人科に籠谷課長に連れられて診察に向かう聡子。

診察の途中で「初めての妊娠ですか?」釜江医師が尋ねると、カーテンの向こうで小さな声で「はい」と答える。

「そうでしょうね、妊娠はした様ですが残念ながら成長していませんね」

「えっ、成長していないとは?」

「このまま成長しても未熟児で、障害が残る可能性が有ります、残念ですが始末する事をお勧めします」

聡子には天国から地獄に叩き落とされた心境に成った。

「今から準備をして、明日手術を行ない一日入院して、術後の状態が良ければ直ぐに退院出来ます、どうされますか?」

「未熟児では可哀想ですね、仕方が無いです、お願いします」と元気なく答える聡子。

涙が一筋流れて落胆の表情に変わった聡子の身体に、堕胎手術の準備が施されて、明日は食事を食べずに入院の準備をして来院する様に指示を受けた。

籠谷課長に話すと「明日休めば、月曜日に会社に来れば良いから、ゆっくり休みなさい。明日は有給の手続きをして置きます」

「はい、よろしくお願いします」と元気なく会釈をした。

病院を出て別れると、籠谷課長は直ぐに桂木常務に連絡をして「明日、総てが終ります」と報告した。

「ご苦労だった」と労った。

「明日も付いて行きましょうか?」

「医者の様子は大丈夫か?それが心配だから確認をしてくれ!」確認を忘れない。

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