第15話初島にて

猿渡議員の自宅に九時過ぎに訪れた佐山と一平。

「朝早くから静岡県警の方がお揃いでと言ってもお二人ですが、私に何か御用でしょうか?」笑顔で応対する猿渡議員。

「実は先生が日頃から訴えていらっしゃる初島開発に付いて、お聞きしたいと思ってやって参りました」

「初島開発は私のキャチフレーズの様なものだが、それが何か?」

「(公認ギャンブルと温泉を楽しむ!推進委員!)初島開発を唱えられていますよね!実は先日御前崎で水死体にて発見された木南の自宅に、初島リゾートの折り込みチラシが在ったのです、それで先生が何かご存じでは無いのかと思いましてお尋ねに参りました」

「刑事さん、誤解されていませんか?それは今在るリゾートのチラシでしょう?私が推進しているのは、今政府で進めているギャンブル特区に初島をで、全く異なる構想です!過去にもリゾートとしては失敗をしていますから、今後の熱海観光の発展の為にカジノの設置ですよ!真逆の事で聞かれても答えられません」語気を強めて持論を展開した。

「そうですか?それでは質問を変えさせて頂きますが、その先生の構想に大手商社とお話されましたか?」

顔色が変わって「大規模な開発には総ての事に精通している商社の存在は重要でしょう?だからと言って特定の商社マンとは接触はしていませんよ!」

「最大手の東南物産の方はご存じ有りませんか?」

「それって、先日殺害された桂木常務の事を指しておられるのですよね?」

「そう考えて頂いても構いません」

「はい、確かに桂木さんとは面識がありますよ!でも私には全く関係有りませんよ!桂木さんが亡く成られた時私はヨーロッパを移動していましたよ!お調べ頂けば判るはずですよ」

「では桂木常務さんとはどの様なご関係でしょう?」

「あの方は顔が広いですからね、知り合いの紹介で一度か二度お会いした程度ですよ」

「差し支えなければお知り合いを教えて頂けませんか?」

「柏崎議員ですよ!彼女は桂木常務とは知り合いだそうですよ」

二人はそれだけ聞くと、猿橋議員の自宅を後にした。

「ちらほらと名前が出て来ましたね」車に乗ると一平が話した。

「念の為、柏崎と猿橋の殺害前後のアリバイを調べてくれ」佐山は二人のどちらかが、桂木常務を殺害した可能性も無いとは言えないと思った。

「桂木が二人のどちらかとの会話を録音していて、何かを要求した可能性も有な!」

「成る程それで殺害された!それなら考えられますね!でも足立は?」

「うーん」考え込む佐山、車は県警に向かわずに初島に向かう、何か噂でも無いのかと思い現地に行こうと考えた。

静岡県熱海市は、2002年に「熱海・カジノ誘致協議会」が設立されており、早い時期からカジノ誘致へ向けて動いている自治体。

カジノ誘致の目的は、観光地としての魅力を高め、観光振興と地域経済の活性化を目指しているが、その後は東京や千葉などのような具体的で大きな動きは視られない。

その為水面下で動きが有っても不思議では無いが、猿橋と柏木程度の力では中々実現は難しいと思われる。


二人は船に乗って初島に渡る。

「初めて来ましたが、逆から本土を見ると違いますね」一平が嬉しそうだ。

「島の半分がリゾート施設だな」

「学校も有りますし、人口は二百人程度住んでいますよ」

「民宿が多いから、適当に聞いてみるか?」

二人は数軒の民宿に聞き込みに入ったが、猿渡先生が以前からこの島を中心にカジノ誘致を言われている程度で、何も無いですよ!具体的な事は!と言うだけで目新しい話しは無かった。

「この鳴海屋さんをラストで帰りましょうか?十六時四十分発ですからね」

そう言って鳴海屋に入る二人。

初老の女が「警察の方がこの島にお見えに成るのは珍しいな!それも県警の係長さんと主任さんだ」

「はい、お尋ねしたい事が有りましてね、国会議員の猿渡先生がこの島を中心にしたリゾートカジノ誘致構想を出されているのですが、最近何か変わった事は聞かれていませんか?」

そう言うと女は名刺を何度も見て「あんたが、野平一平って云う刑事さんだよね」と一平の顔をまじまじと見る。

「奥さんに言われてお越しになったのでしょう?隠さなくても良いわ!そうだろうな!ここまで探し当てるとは大した奥さんだ!」感心した様に言った。

意味不明の話しに時計を見ながら「何を言っているのかよく判らないのですが?高速艇の時間が。。。。」

「これでも週刊誌とか、新聞はよく読むので知っているのよ!隠さなくても良いわよ!名探偵野平美優の御主人間抜けの一平さんでしょう?」そう言って笑う。

「えーーー」と驚く一平の横で大きな声で笑う佐山。

「今奥さんに言われて来たって、どう言う意味ですか?」佐山が笑い終わって真面目な顔で尋ねた。

「美優奥さんが突き止めたのでは無かったの?」

「何をですか?」

「殺された商社のお偉いさんが、ここに泊まったのを調べに来たと思ったのよ!」

「えーー、桂木常務がお宅に泊まった?いつの事ですか?」

「確か夏だったと思うわ、帳面見れば判るけれど、取って来ましょうか?」

「是非!」佐山が言うと一平が腕時計を見て「行っちゃった」と呟いた。

しばらくして「有った有った、七月の始めだわ」

「一人ですか?」

「今は寒く成ったから客は少ないけれど、七月、八月は多いからね、二人だったのよ!そこのリゾートを予約していた様だけれど、手違いで予約が入っていなかったので、飛込んで来たのよ!名前は違ったけれど顔写真がテレビに出て直ぐに判ったのよ」

「連れは女性?」

「若い女性だったわ、知的な感じの女の人だったけれど、関係は長いと思ったね」

「その女性の名前は?」

「常務さんは加山と名乗っていましたが。。。。。」そう言いながら帳面を見て「娘って書いて有りますね、かつみって書いて有りますよ!でも絶対に娘では無いと思います!愛人よ!」と言い切った。

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