第14話初島の謎

話しが戻って

御前崎の水死体の身元を調べる為に、足立伸子の周辺の聞き込みを続けた結果、一度伸子さんと一緒にカラオケ喫茶に来ていた男に似ているが、もう少し痩せていたとの証言を伊藤刑事が聞いて来た。

「確かに水死体で顔が少し肥えて見えるから、可能性が有るな!カラオケ喫茶を徹底的に聞き込んで、身元を早く掴め」佐山刑事が檄を飛ばす。


美優は今回の殺人は二人とは犯人が明らかに異なると思っていた。

犯人が同じなら似た手口で殺害するが、青酸性の毒物を使っていない点、少し手荒い殺し方で暴力団とかそれに準ずる人達の犯行だと考えていた。

捜査の状況から考えて、足立伸子の知り合いでボイスレコーダーのコピーで誰かを強請った?と考えられるが元々の持ち主は桂木常務なのか?と疑問が湧いていたのだ。

もう殺害されて日数が経過しているのに、桂木常務が持っていたボイスレコーダーに何が録音されていて、誰を強請るのだろう?桂木常務がボイスレコーダーで誰かを強請って殺された?足立伸子が共有していた?それは明らかに変な話しだ。

足立伸子が桂木常務を強請る事は考えられるが、逆は絶対に無いからだ。


翌日静岡市内のカラオケ店で、足立伸子の行く店で水死体の男と似た男が来ていた事実を掴んだ。

だが回数は二、三回で、名前までは知らないとカラオケ店の店長は答えた。

今度は、このカラオケ店の常連客の聞き込みを始める指示を出す佐山。

翌日この男はしんちゃんと呼ばれて、定職は持たずにパチンコ店に出入りをしている事が多いとの証言を聞き込む。

市内のパチンコ店の聞き込みを初めて、漸くしんちゃんの正体が見えて来る。

最近しんちゃんは大金が入ると知り合いに話しをしていた事実を掴む。

一週間が経過して、漸くしんちゃんが木南信治だと判明して、小さなマンションに刑事達が家宅捜査に向かった。

しかし、既にワンルームマンションは荒らされて、ゴミの山状態に成っていた。

「これは複数の人間が何かを探しに来た証拠ですね」

「目的のボイスレコーダーのコピーが見つかったのか?」

現場を隈無く捜す一平達、佐山が机の上に広告チラシを見つけて「これは何だろう?」と口走る。

「一平が新聞の折り込みチラシでしょう?」

「だがな、この木南が新聞を取っている男に見えるか?」

「でも佐山さんどう見ても新聞チラシにしか見えませんがね」

「初島リゾートのチラシだな」

「待って下さい、少し前に美優が僕に初島の事を尋ねましたが、それと関係が有るのでしょうか?」

「えっ、美優さんが一平に初島の事を尋ねたのか?」

「はい、初島にカジノの話しが有るのか?と尋ねられましたが、地元の国会議員が一人で細々と運動をしていると答えました」

「カジノ?」

「はい、確かにカジノって聞きましたよ」

「その国会議員って誰なのだ?」

「誰だったかな?猿が何とかって言った様な気がします」

「ああ、猿渡議員か?」

「それです、猿渡議員です間違い有りません」

「カジノ?木南がチラシを持っている?美優さんがカジノの事を調べている?これは繋がりが有るのか?」

「でも初島って小さな島で、ホテルとリゾート施設が在るだけですよ!カジノを作って沢山の客が遊べる島では無いと思いますが?」

「よし、明日その猿渡とか云う議員に会ってみよう」

佐山は木南が持っていたチラシ、そして美優がカジノの事を調べていたので気に成っていた。

結局捜索の結果、ボイスレコーダーの録音コピーが有る様な感じも無く、近所の聞き込みでは数日前に人相の悪い男がこの辺りに居た事実だけが判った。


一平は自宅に戻ると、初島のチラシが在った事と、明日猿渡国会議員に面会すると話した。

美優は「今回の事件、その線が強く成って来た様だわ、でもまだ私の中では繋がらないのよ!何かが変なのよ」

「何が変なのだ?」

「例えば、カジノを初島に作る為に、その猿渡が動いたとして、その開発に東南物産が絡んでいても、肝心の常務が殺される原因には成らないと思うのよ」

「成る程、美優は殺される必要の無い桂木常務の死が謎で、繋がらない訳か?」

「だって、もしも猿渡がこの事業をしても、賄賂を出すのは桂木常務でしょう?肝心の金ずるを殺してしまったら何も入らないでしょう?」

「そうだね」

「猿渡さんは奥さんと子供が二人で、熱海に住んでいるでしょう?人民党ではそれ程目立つ存在では無いのよ!だから力が大きいとは思えないわ」

「そうか、もっと大物が必要って事か」

「猿渡さんも事件に絡んでいる事は確かだと思うけれど、何かが違うのよね」

①足立伸子を殺した人物として当てはまるのは、桂木常務が一番で、二番目が国会議員。

②桂木常務を殺す人物は居ないが、敢えて言えば国会議員。

③木南信治を殺したのは国会議員。

「それなら、国会議員が総ての犯行を企んだのだな」

「でも殺害方法が異なるので、違うと思うわ」

「それではまだ我々の知らない犯人が何処かに居るって事だな」

「そうだと思うわ、桂木常務の周辺に怪しい人物は見当たらないの?」

「多すぎて絞れないと云うか、全く居ないと答えた方が良いのか?」

曖昧な答えに考え込む美優、明日佐山達の猿渡議員への聞き込みが新たな真実を示す事を期待している二人だった。

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