第12話全て知られている
早速お茶を入れて来なさいと籠谷課長に命じられて、桂木常務の部屋に在る小さな炊事場に入る。
常務の部屋には控えの部屋が在り、二人の秘書の中で必ず一人がその席に交代で座る事に成る。
「おはようございます」お茶を持って桂木常務に運ぶと「おはよう!お父さん喜んでいただろう?」といきなり言う。
「えっ、係長も常務の?」驚き顔で尋ねると今度は「お兄さん孝一君だったかな?」と尋ねた。
「止めて下さい!家族に干渉するのは!」怒り始める聡子。
「店で会った時は優しく笑顔一杯だったのに、そんなに怒らなくても良いだろう?お母さんはドラッグストアーに。。。。。」
「もう止めて下さい!」怒鳴る様に言うと、常務室を飛び出す聡子。
各部屋の出入りを監視のモニターで見ている籠谷課長が、直ぐに小塚を常務室に行かせる。
聡子は自分の裸を見られているより恥ずかしい思いをしていた。
苦労して就職した大企業は、自分の過去の僅かな暗闇を覗いた人物が居る場所で、今自分と家族の命運は総て桂木と云う老獪な男に握られている。
どうすれば良いのだろう?会社を辞めると同時に父は失業、母も兄もどの様に成るか判らない。
勿論自分の風俗で働いていた事実が、家族にも会社にも知れ渡るのだろう?
。。。。。。「彼氏と別れた時に例の件承諾して貰えるなら、ここは引こう!」
(聡子さんが約束を守れば、絶対に私も守ります!聡子さんが幸せならそれが一番だから、安心して下さい!彼氏と仲良く幸せに!)。。。。。。
聡子の脳裏に加山が昔電話とメールで言った言葉を思い出した。
彼氏が居るのなら、自分は手出ししないから、そうだ!これを言えば諦めて貰える。
そう考えると秘書室の席に戻った。
「今夜、常務が銀座の料理屋さんで人と会われますので同行する様に、相手の方は国会議員さんですから、充分気を付ける様にして下さい」と指示された。
夕方に成って助手席に乗り込もうとする聡子に「ここに乗りなさい、用事が有る」と指示をする。
運転手はちらっとミラーを見たが、直ぐに車を発進させる。
「自宅に遅く成ると連絡をしたのか?」
「いいえ、していません」と答えると「今から会食だ、相手は国会議員さんで、女性だから君に同席を頼んだのだ」そう言われて安心する聡子。
運転手に聞かれるから、昼間考えた事を話せない聡子は携帯のメールで自宅に遅く成ると送る。
それを見ている桂木常務は嬉しそうな表情に成っていた。
しばらくして、銀座の料亭前に到着すると桂木常務は車を帰らせて「帰りはタクシーで帰るから、今夜の迎えは良い」と言った。
その料亭に入ると思っていると、先に歩き始める桂木常務。
「常務料亭に?」と尋ねる聡子に「あのビルの中の料理屋だ」そう言って十五階建てのビルを指さした。
「極秘で会うので、運転手にも内緒なのだよ!君が会うと驚くぞ!」
そう言いながらビルの横に在るエレベーターに乗り込む。
「考えてくれたか?」二人に成ると昨日の話を早速始める。
「常務さんは彼氏が居たら諦めるとメールを頂きました。実はお付き合いをしている男性が居ますので、今は難しいと思っています」と答えた時、扉が開いて着物を着た仲居が数人で二人を出迎えた。
「加山だが、予約の部屋に通してくれ」
お忍びの時はいつも加山と云う名前を使うのか?そう思いながら付いて行く。
「柳井工業な、懇意の会社だ」前を歩きながら呟く様に言う。
後を付いて歩く聡子の足が急に止って凍り付いた。
この男は私の総てを知っているのか?もう逃げられない!怖さが身体全体を襲い動けない聡子。
「お客様、どうかされましたか?」の仲居の声に我に返る。
「は、はい」
部屋に入ると「連れが来てから料理を頼む」そう云って扉を閉めて、仲居を追出した。
「植野君だったな、彼に君の過去が知られるかもだな!中国から帰られない事も充分考えられるぞ!どうする?」
「どの様にすれば。。。。。。。。。。。」放心状態の聡子が尋ねる。
「仲良くすれば総て悪い様にはしない、彼が戻って来るまでの間、私の愛人件秘書として働いていたら両親も家族も安泰だ」そう言いながら聡子の肩を抱く。
「お客様が来られます」と逃げ腰に成る聡子。
「私は君が承諾したと信じているよ!頭の良い子だから何が徳か判っているだろう?」
そう言いながら聡子の身体を抱き寄せる桂木、もう聡子は拒絶をする気力が無く成っていた。
「そうだ、良い子だ!頭が良い」そう言うと唇を求めて来る桂木常務、それは昔のホテルの風俗嬢の時と同じだった。
「お客様がお見えに成りました」の声に急に離れる二人。
桂木常務が唇を手で拭き取り、仲居を迎え入れた。
「お待たせしました」濃いサングラスに垢抜けした服装の女性が仲居の後ろに居て挨拶をした。
秘書に気づく女性に「大丈夫です!この子は私の信頼する秘書です」と女に紹介する。
お辞儀をする聡子に「よろしくね」笑顔に成る女。
何処かで見覚えが有ると思いながら笑顔でお辞儀をする聡子。
「料理を運んでくれ、飲み物はビールで頼む」仲居に告げると仲居は心得た様に部屋を出て行った。
女がサングラスを外して「桂木常務さん、お招きありがとうございます」と改めて言う。
「あっ」聡子がその顔を見て驚きの表情に成った。
女優から国会議員に成った柏崎由希子その人だった。
「柏崎さんですね」思わず口に出してしまった聡子に「そうだよ、今は参議院議員で静岡選出の若手の人民党のホープだよ」
「常務さんお口が上手ですわ」微笑む由希子。
三人が座敷机を挟んで、座った時仲居がビールを持参してきた。
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