第9話常務の行動

「松永さん、大手商社と政治家と言ったのですか?」

「この手の話しはガセネタが多いですから、信用はしていませんがね、大手商社が気に成ったので連絡をしました」

「連絡先は聞きましたか?」

「それが電話を切ってから、大手商社を思い出したので、聞きそびれてしまいました」

「また掛るかも知れませんので、その時は取引をすると話して下さい」

そう言って電話を切った佐山が、今更ながら美優の洞察力と推理に呆れてしまい、直ぐに連絡をした。

美優は「その人危ないですね、新聞社で相手にされなければ本丸に切り込む可能性も有りますね」

「東南物産?政治家?」

「政治家の名前が判れば早いのですが、中々判らないなら商社にですよ」

「この事件変な方向に動き出したな!ラブホテルの盗聴では無かった様だな!」

もしかして、桂木常務が度々静岡に来ているのは、政治家?電話が終わってから急に思いつく美優。

桂木常務が静岡に来るのは女性なら静岡の女性だが、地位も金も有る男が態々会いに来ない。

美優は静岡選出の政治家?その為に何度か静岡にやって来たのだ。

だが桂木常務は女性も好きで、静岡近辺のラブホテルに入った時にボイスレコーダーを忘れたのか?

レンタカーを借りたのは?重い物の移動?場所を特定されない為?複数の場所に行く為?

色々考えながら、静岡選出の政治家のリストをパソコンで捜し始める。

「十五人か?現役とは限らなければ膨大な人数だわ」思わず口走る美優。

その日からパソコンで、桂木常務と関係の有りそうな国会議員を捜す日々が続くが、決め手は何も無い。

国会議員とは限らないが、地方議員より国会議員が優先だろう?と思う。


数日後一平が「銀座に行く日が決まったぞ!明後日だ」と帰るといきなり言った。

横溝捜査一課長も事件の進展に苛々が増加して、何か糸口を見つけたい気持ちが先に成っていた。

新聞社にもその後は全く電話が無く、佐山も次の一手が何処に行くのか?政治家の名前が判っていたら脅迫?だが二人も殺されているので、簡単には脅迫は出来ないだろうと思う。


「美優!ボイスレコーダーの持ち主は、桂木常務で間違い無いと思うか?」

「多分間違いないと思うわ、多分新型のボイスレコーダーで操作方法を間違えたのだと思う、ラブホで女性と遊んだ時に使って、そのままベッドの隙間に忘れてしまった。それを足立伸子が手に入れて脅迫したって感じかな?」

「以前政治家との話を録音して、消えていると思っていた!」

「多分録音された政治家はその事実を知らないと思うけれど、桂木常務が殺されてから多少は恐怖を感じていると思うわ」

「桂木常務はラブホで誰と遊んだと思う?」

「何処のラブホか判らないけれど、警察が調べた中には該当の風俗が無いのでしょう?それならプロでは無い可能性が高いわ!ひとり静岡選出の国会議員で独身女性が居るのだけれど、まさか彼と。。。。。」流石の美優も言葉が止る。

「あっ、柏崎由希子か?確かまだ三十台半ばだよな!」

「唯、彼女にそれ程の政治的な力が有るとは考えられないし、桂木常務と男女の関係に成るとは思えないわ、芸能界に居たから人気は有るけれどね」

「でも一度調べてみる価値は有りそうだな!」


「美優、その頭は?」東京に行く前日の夜帰ると、綺麗にセットされたショートボブにしているので、驚いて言った。

「だって、久しぶりの東京で、銀座に行くのよ!お。と。ま。りだしね!ほらこの服もに合うでしょう?」そう言ってハンガーに吊した新品の洋服をぶら下げて来る。

「えーー、服も買ったのか?」

「美加はお母さんが面倒をみて下さるし、羽を伸ばさないと!」上機嫌の美優。

「おいおい、事件の為に行くのだぞ!物見遊山では無いぞ!」

「貴方が肩身を狭くしないで良いでしょう?」

「どう言う意味だ!」

「美人の奥様を連れて銀座に行けるから、素敵でしょう?きっと羨ましい目で見られるわよ!」その言葉に呆れていると抱きついて来る美優。


翌日昼過ぎの新幹線で、着飾った美優が一平と東京に向かう。

着飾ると美人の美優を振り返って見る人も居る程で、一緒に歩く一平も悪い気はしていない。

「(野々村)には五時過ぎに行くのよね、デパートに買い物に付き合ってよ」

「観光に行くのでは無いのだよ!これも税金だよ!」

「馬鹿ね、私の給料出て無いのよ!少し位自由に使っても罰は当たらないわ!」

東京に着くと美優は一平と腕を組んで歩いて楽しんでいる。

ホテルに荷物を置いて、デパートに買い物に行って、夕方新橋駅から徒歩で(野々村)に向かった。

予想よりも大きい大衆向けの居酒屋で、板前が数人対面に陣取り、寿司、刺身、焼き物、煮物の注文を聞く。

「綺麗な奥さんですね!」座ると目の前の四十代の板前が笑顔で二人に話しかけた。

微笑みながら「ありがとうございます」と言うと「また、笑顔がたまらないね!こんな別嬪さんと毎日一緒に居られる御主人は幸せ者だ!飲み物は何しましょう?」

煽てられて照れ笑いの一平が「ビール下さい」と言う。

店内は時間が早いので空席が目立ち、話しを聞くには絶好の時間だった。

しばらくして美優が「ここによく来ていた東南物産の人、先日殺されましたよね!」と切り出した。

「奥さん桂木さんの知り合いなの?大変だったね」

「この店にはよく来られていましたか?」

「そうだな、東京に居る時の二割は来られていましたよ」

「私達、静岡から来たのですが。。。。」と言いかけると「常務さんの静岡での知り合いの方かね」

と勝手な想像で言われてしまった。


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