第10話銀座探訪

ビールを飲み始めて、美優が板前にも勧める。

「常務が静岡によく行くのは奥さんに会う為だったのか?」

「そんなに何度も行かれていたのですか?」

「そうだね、去年から今年は数多く行ったと思うよ!毎回は会わなかっただろうが、奥さんは常務の好みに間違い無い!」

「えー、私がですか?その様な事は一度も聞いた事有りませんよ!」

「旦那様がいらっしゃるからでしょうが、独身なら確実に口説かれていますよ!」

「えー、何度も会ったのにその様な感じはしませんでしたわ、今回自宅にお邪魔して線香の一本でもと思って主人と参りましたのよ」

「もう時間が少し経過したから、家も落ち着かれていますでしょう」

「何故?私が常務さんの好みなのです?」

「桂木さん、特別美人の女性が好きな訳では無い様で、頭の良い女性が好きだった様ですね、その点奥さんは美人で頭も良さそうなので、常務さんの好みだと思ったのですよ」

しばらく飲んでいると、一平が酔っ払ってきたので美優は手短な質問に切り替えた。

「常務さん、女性はお好きだったの?」

「好きって、顔に書いて有るでしょう?お金も有るのに風俗が好きでね!ここでは時々その様な話しをされていました。この様な話しをすると常務さんのイメージが変わりました?」と板前が言う。

「常務さんが行きつけのお店他にご存じ有りませんか?それと風俗でお気に入りの店は?」

「クラブ夕月かな?和風のクラブでここにママさんがお迎えに来られていましたよ!風俗の店は少し前には品川、品川何とかと云う店の子に入れ込んでいましたが、その後は知りませんね」

美優に勧められて、四杯か五杯のビールを飲まされた板前が、自分の知っている事を総て喋ってしまった。


しばらくして店内が混んできたので、ほろ酔いの一平を連れて帰る。

クラブ夕月に行こうと思うが、高級クラブなら一見さんお断りで予算が出ないから、そのまま夜の街に出る二人。

「何も成果は無かったな!」一平が言うと「そうでも無いわ、成果はそれなりに有ったわ、クラブ夕月は刑事さん達に任せましょう」

夜の風は冷たく、もう直ぐ訪れる冬を感じさせる。

黒っぽい服装にしていたのは、お悔やみに行くと見せかける為の服装だったのかと始めて判った一平。

美優の頭の良さに感心しながら、夜の東京観光に付き合わされる一平。


翌日自宅に戻った美優はノートに今回の東京のまとめを書き始めた。

①東南物産常務桂木、性格は女好き、インテリの女性が特に好き、風俗にもよく行く。

品川の風俗に馴染みの店が在り通っていた様子。

②銀座の和風クラブ夕月の常連で、何か新しい発見が有るかも知れない。

③静岡には何度も行っていた様で、レンタカー以外の時も多かったと思われる。

④その目的は静岡の政治家に会うのが目的、相手は判らない。

⑤静岡のラブホテルで、ボイスレコーダーを忘れた。

⑥ベッドメイキングの足立伸子が、それを手に入れて強請った。

⑦強請った相手が、桂木常務なのか、別に誰か居るのか判らない。

⑧桂木常務は青酸性の毒物で殺され、同じ毒物で足立も殺されたが、先に桂木が殺されている。

⑨ボイスレコーダーの内容を知っている人間がもう一人居て、足立の知り合いの可能性。

⑩内容は静岡の政治家と桂木の会話の様だ。

美優は書き終わると再び首を捻ると「何かが変なのよね」と独り言を言った。


翌日再び事件が発生、御前崎の海岸で釣り人が男性の死体が浮いているのを発見して、溺死体で所持品も無く身元不明だった。

佐山が「この男の写真を持って、足立伸子の知り合いを聞き込みして来い!」といきなり言った。

唐突な佐山の言葉に戸惑いを感じながら、翌日から刑事達は足立伸子の周辺の聞き込みに入った。

佐山はこの溺死体が、政治家を強請ったと直感で思った。

先日の東邦日報から何も無く日にちが経過していたが、必ず男は政治家か東南物産を強請ると考えていたのだ。

殺された場所から判断すると、この男が足立の知り合いなら、確実に政治家を強請ったと思われたからだ。


地元の国会議員と大手商社の秘密の話しとは、一体何が有るのだろう?

再三静岡に来ているなら、何か材料が存在する筈だと美優は毎日パソコンと睨めっこをしていた。

熱海市出身、猿橋誠、五十五歳、参議院議員、当選三回のホームページを開いていた。

(公認ギャンブルと温泉を楽しむ!推進委員!)のキャッチフレーズが目に飛込む。

中を見て見るとカジノの誘致を初島にと書かれている。

初島とは?

静岡県熱海市初島 - 面積 0.437km2周囲 約4km最高地点 51m

熱海市本土から南東に約10kmの位置人口 215人

1925年(大正14年)には国鉄が熱海まで開通し、さらに1934年(昭和9年)に丹那トンネルが開通すると熱海は一大観光地となり、初島への遊覧も増加していった。

戦後は1964年(昭和39年)には東海道新幹線の開通とともに初島バケーションランドが開設され、漁業・農業・観光の島となった。

その後、バブル景気のリゾート開発の失敗などがあったが、現在も首都圏から日帰りができる距離にありながら素朴な雰囲気を残した離島として貴重な存在となっている。


美優はこれかも知れないと思い始めて、一平に初島にカジノの話しって出ているの?と尋ねた。

地元の国会議員が一人で、何か運動をしているとは聞いたけれど、地味な感じだなと答えた。

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