第8話強請り
「それでは他の質問をさせて頂きます」
「桂木常務さんには秘書の方はいらっしゃいましたか?」
「勿論です!二名の秘書が常務には就いておりました」
「その方は今いらっしゃいますか?お目にかかりたいのですが?」
「宜しいですよ、呼びましょうか?確か一人は有給で居りませんが、もう一人は居ますので呼びましょう」
内線で呼び出すと、しばらくして「彼が先日まで桂木の秘書をしていました小塚です」と紹介をする。
美人の女性を想像していた二人は面食らった顔をしてお辞儀をした。
「小塚敬一です、よろしくお願いします」と名刺を差し出した。
小塚に色々尋ねるが、優等生の答えしか返って来ない。
「ひとつだけ教えて貰えないかな?」
「何でしょう?」
「桂木常務が亡くなる前まで行き着けだったスナックか、居酒屋を一軒だけ教えて下さい、常務の性格と云うか、夜の行動のヒントに成ればと思いましてね」
一平の言葉に手帳を開いて調べると、山口課長に確認して「銀座の居酒屋で(野々村)って店ではよく一人で行かれていました」と答えた。
多分支障の無い居酒屋なのだろうが、全く判らないよりは手がかりに成ると思って手帳に書き留めて、結局これ以上は捜査令状を持って再び訪れなければ、名刺を見る事は先ず不可能だと諦める二人。
自宅に戻った一平が美優に子細を話すと「ボイスレコーダーには相当大変な事が録音されていた可能性が有るわね」
「ラブホテルの会話?」
「馬鹿ね、その様な事では無いわ、汚職とか贈収賄関係の会話が、入っていたのよ!でもそれは桂木常務がボイスレコーダーの持ち主だと仮定しての話よ」
「そうか!」
「でもかなりの確率で、桂木常務のボイスレコーダーの可能性が出て来たわね」
美優の頭の中に或る仮説が出来上がりつつ有ったが、判らないのは桂木常務が殺された事が繋がらないのだ。
桂木常務のボイスレコーダーを拾った足立伸子が強請る事は判るし、殺される可能性も充分有る。
だが逆に桂木常務はボイスレコーダーを取り戻す迄は、必死に成る筈だ。
その常務が先に殺される事は辻褄が合わないのだ。
「足立伸子の後ろに誰か変な人物の姿は見えないの?」急に尋ねる美優。
「佐山さんが担当だけど、その様な話しは一度も聞かなかったな」
「ここに誰かの存在が見えればその人が犯人なのだけれど、単独行動なら益々判らない」
「明日美優の推理を佐山さんに話してみるよ」
「一人で強請るとは考え難いのだけれどね」
「近日中に(野々村)に聞き込みに行くよ!多分何も判らないと思うけれどね」
「私も一度その銀座の(野々村)って料理屋さんに連れて行ってよ」
「えー、銀座に行くのか?」
「そうよ、刑事としてでは無く客として、経費は県警持ちで」そう言って笑う美優。
翌日横溝捜査一課長に報告すると意外に「美優さんが行きたいと言うなら、脈が有るかも知れないな!刑事の聞き込みでは判らない事を探り出すかも知れない!」捜査の行き詰まりに困っていた横溝捜査一課長は美優の銀座行きを許可した。
東南物産秘書課に対する家宅捜査は、基本的に管轄外で警視庁にお伺いをしなければ成らないので、断念をする横溝捜査一課長。
美優が話した足立伸子の後ろに誰か居ないのか?には、佐山が今の処その様な人は見当たらないが、美優さんが言うなら未だこれから登場するのかも知れないと言った。
その予想は見事的中していたが、強請る本人が殺されてしまい困惑していたのだ。
足立伸子が相談した相手が木南信治で、木南はボイスレコーダーの記録をパソコンに落として持っていた。
脅した人も脅された人も殺されてしまって、警察が伸子の近辺を聞き込みで廻るので、警察に持って行こうかと思ったが、お金に成らないと思い暫く様子を見ていたのだ。
唯、誰かを脅すと自分も殺されてしまう危険が有るので、迂闊に名乗り出る事が出来ない。
マスコミの報道を見る限り、ボイスレコーダーが警察の手に渡った形跡も無い。
では誰が二人を殺したのか?それは木南には想像も出来ない事だった。
足立伸子がボイスレコーダーで東南物産の桂木を脅したのは確かだが、彼女が桂木常務を殺す筈は無い。
桂木常務を脅して、殺される事は充分考えられるが逆は考え難い。
木南は自分の持っているデータがお金に成る事は充分判っているが、誰に言えばお金が貰えて身の安全を確保出来るのかが判らなかった。
でも誰にも相談できない恐怖が、木南には絶えず付きまとっていた。
食べ物、飲み物には人一倍神経を使い危険を感じながら生活をしていた。
伸子が自分の事を少しでも犯人に喋っていたら、自分も命を狙われるからだ。
でもお金も欲しい、そのジレンマもピークに差し掛かっていた。
数日後「世間が驚く様な情報が有るのだけれど、お宅の新聞社は幾ら出す?」と毎朝新聞に電話をした木南。
「情報の内容に寄りまして買い取りますが?どの様な事ですか?」
「それはお金を貰わないと言えないな、大手の商社と政治家の裏取引だとでも言えばどうだ!」
「それだけでは買い取れません」
「それじゃ、別の新聞社にあたるよ」
木南は自分がお金を貰うのと、届ける為には東京の本社では遠いので、地元の静岡の支社に電話をしたのだ。
同じ電話を今度は東邦日報新聞社にもした。
だが、どちらも同じ返答で買い取りの意志を示さないので、苛々して電話を切った。
静岡に支社を持っているのはこの二社のみで、他には大手の新聞社は存在していなかった。
東邦日報の松永支店長は、この話を静岡県警の佐山に連絡をしてきた。
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