第6話恋人

「一平ちゃん、その名刺の束終わったら持って来て、私も調べて見たいわ」

「えー、あの箱を持って帰るの?」

「何かが判るかも知れないでしょう?過去にも私が見つけて解決した事件が沢山有ったでしょう?」

「はい、はい、迷探偵美優様には何度も助けて頂いて居ます」笑いながら土下座をする仕草の一平。


一方の足立伸子を調べていた佐山にも翌日動きが有った。

携帯の中に有った電話番号の主を調べていると、山中志津と云う伸子の昔の同級生が「志津久しぶりに旅行に行こう」と電話をしてきたと言う。

それで「何処に行くのよ!」と尋ねると「九州に行こう別府から湯布院二泊三日は?」

「結構お金が必用ね!」と言うと「お金は私が出して上げるわ」

「どうしたの?お金出して貰えるのは嬉しいけれど、貴女もベットメイキングで細やかな収入でしょう?悪いわ」と言うと「面白い物を拾ったのよ!持ち主に渡すと大金が貰えるのよ!だから九州位おごるわよ!」と言ったと話した。

「何故その様な大事な事を警察に言わなかったの?」

「面倒くさいわ、態々聞かれていないのに話しに行く程暇じゃ無いのよ」志津は佐山が来たから仕方無く喋ったと言った。

この証言で、仕事でラブホに行った時に何かを拾い、お金を貰った事は間違い無いと裏付けられた。

だが相手が桂木常務だとの証言は無いので、依然二人の接点は殺し方の一致だけだった。


一平達の桂木常務が持っていた名刺のチェックは三日間で漸く終了、明日から今も存在する店を中心に聞き込みを始める予定だが、海外と地方の店は取り敢えず対象外にして、静岡県内と東京都区内の店に聞き込みに行く予定に成った。

夜に成って一平が段ボール箱を持ち帰ると、待ちかねた様に美優が調べ始める。

「凄い量だわね、これが今も存在する店ね、四分の一以下だわ」

「それだけ過酷なのだろう?風俗の名刺はもっと少ない」

「この常務風俗も好きだったのかな?」

「接待で使ったのかも知れないな!昔はその様な接待が横行していたからな」

「でも本人も好き者かも知れないわよ」

「それを明日から聞き込みする」

「そんな手間かけなくても、この名刺の人が今も健在の店だけにすれば半分以下に成るわよ!だって名刺の人が既に居ないのは、名刺が古いから今回の殺しとは関係が無いと思うわ!」

「あっ、そうか店が存在しても、本人が居なければもう名刺が古いって事だな」


翌日一平が出掛けると、美優は名刺を分類仕始める。

地域、業種、現存するかで分類して、机一杯に広げて調べる美優。

しばらくして「この人女性が好きなのが現れているわね」独り言を言った。

海外の名刺もその様な関係が多いのだろうと、少し調べて見ると予想通りで、中国では十五年程前のカラオケの名刺が多く接待か、自分の遊びか判らない程の名刺の束だった。

美優は仕分けをしながら、最近の名刺が極端に少ない事に気が付く。

これだけ遊んでいる人が、この二、三年風俗の名刺が全く無いと言っても過言では無い。

美優が名刺で女の子の名前を捜すが、該当する女性が殆ど在籍していない事に不思議さを感じた。

一平達は店の存在を確認して、今も存在している店に焦点を絞って聞き込みに行くと話していたが、美優は店の存在よりも在籍の女性に違和感を持った。

考えられる事は、最近は使う事が無く成ったか、最近の名刺を処分したか?

これだけ遊んでいる人が急に辞めるだろうか?の疑問が頭の片隅に残った。


翌日一平達が手分けをして聞き込みに行くと、美優の調べた通りで、何処の店でも「随分昔の女性の名刺ですね、数年前に辞めていますよ」

「その女性は今居たらもう四十歳を越えていますよ」と応対した店員が笑う様な店が殆どだった。

「沢山の名刺を分析したが無駄に成った様だな」

署に戻った一平達は、疲れが倍増した気分に成っていた。

「殺される動機が全く見当たらないな」

「足立伸子は殺されたのは脅迫だから、動機が有るけれど桂木常務が殺された理由が全く判らない」

「本当に桂木常務を足立伸子が脅迫していたのかな?」

「桂木常務が足立伸子を殺害していたのなら、図式は明快なのだけれど、逆で尚更二日前に死んでいるからな」

深夜の県警で語り合う一平達は事件の真実が益々判らなく成っていた。


過去の話しに戻って

植野晴之の進言で、聡子は柳井工業への就職活動は自粛して、晴之との交際を本気で考えていた。

父治の大腸癌は進行が止って大きく成らなく成って仕事に復帰、排泄の時の不便さが付きまとうが、それ以外は健常者と全く同じ生活が出来る様に戻った。

戻った前田機械の職場も気を使い治に身体の負担が少ない部署への配属を決めてくれて、病院に行く時間も優遇される様に成っていた。

「病気に成って、会社の対応が大きく変わって、嬉しいよ!会社の態度が変わったよ」自宅で食事の時に嬉しそうに話す治。

母の昭子も普通の生活に戻り、呑気な孝一も四月から中小企業だが就職が決まって働き始めている。

癌保険の支給で家計も潤い、昭子も平穏な日々で娘聡子が風俗で働いて家計を助けてくれた事なぞ全く知らずに明るく成っていた。

当の聡子も四回生に成って、本格的に就職活動を行ない毎日の様に企業説明会、企業訪問を行っている。

勿論その合間には柳井工業の晴之とのデートも含まれているので明るい。


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