第5話遊びの記録
足立伸子が仕事に行ったラブホの監視カメラの画像を取り寄せて、二ヶ月前の桂木常務がレンタカーを借りた日にちを重点的に解析する県警。
五軒のラブホに入る車を根気よく調べたが、該当のレンタカーが入った形跡は無く、レンタカーとラブホ、そして足立伸子が結びつく事は無かった。
白石と一平のレンタカーを借りた店舗探しも、全く他では無く系列店舗にも桂木常務の借りた形跡は無かった。
「これ本当に同じ犯人の殺人なのかな?」自宅に疲れて戻った一平が美優に尋ねた。
「青酸性の毒物が全く同じだから、同一犯だと思うけれど動機が浮かばないのよ、桂木常務の連れが犯人だとしても、二人を殺す理由が無いでしょう?」
「我々の捜査はラブホで捜しているが、本当に桂木常務が女性と一緒に泊まって何か重要な物を落として、足立伸子が脅迫したのだろうか?」
「でも足立さんの口座にお金が百万入った形跡が有るのでしょう?」
「でも桂木常務の口座を調べたが、その時期に百万を使った形跡は無いのだ」
「じゃあ、別の人が百万を払ったのね!桂木常務以外の人の何かを拾った?でも殺されたのは同じ毒物!」
「二人に接点も面識も全く無い」そう言って溜息が出る美優と一平。
翌日の捜査会議で横溝捜査一課長は、桂木常務と足立伸子の行動をもう少し深く掘り下げて調べて見ようと発表して、佐山をリーダーにした足立伸子、一平をリーダーに桂木常務を調べる事に成った。
その後二人の携帯の記録を調べると、足立伸子の携帯に桂木常務の電話番号も無いし、逆の桂木常務の携帯にも足立の番号は存在していない事も検証済みだ。
勿論メールの記録も二人の間には存在していない。
二人を結び付けるのは、ただ一点同じ毒物で殺されている事だけだった。
県警はこの時から二人を殺す動機が有る人物を想定して、捜査を始める事に変更をした。
桂木常務の通話記録には、取引先、会社の事務員、家族、知人と多種多様で、勿論非通知の履歴も多い、流石に大企業の常務だと通話記録の検証にも時間を要した。
足立伸子の通話記録は簡素な物で、勤め先、家族、友人、非通知の着信が事件前後に何本か入っているので、これが犯人からの連絡だと思われた。
警察で調べた結果非通知の電話はレンタル携帯の番号、借りた主は外国人で既に海外に帰国している。
レンタル会社には、紛失届けが出されて保険処理されて終り、通話記録からの犯人の割り出しは無理だった。
桂木常務の非通知は、飲食店関係の電話番号で、盗難のレンタル携帯とは異なっていた。
自宅に戻った一平が美優に捜査状況を説明して、携帯の話しを始めた。
「犯人は相当頭の良い人ね、携帯電話も外国人が借りている物を使うって考えたわね」
「でも簡単に盗まれる外人も間抜けだな」一平は人事の様に言って笑う。
「桂木常務さんに成ると、電話の本数も多いでしょう?」
「それで分析に時間が相当掛って、明日本社に遺品の調査に行く予定だ」
「家族が持ち帰ったのでしょう?」
「個人的な物がロッカーに置いて在って、殆どが名刺らしい、奥さんは廃棄してくれと言ったらしいが、掃除会社の人が事件に関連する物が在るかも知れないと気転を効かせて連絡をくれたのだ」
「ロッカーの中ならもしかして、犯人の目が届かない物も入っているかも知れないわね」
「お酒も好きだと聞いていたので結構遊びの方もお盛んだと思うけれどな、金も地位も有るから、夜の街に出掛ける事も多かったと思うが、殆ど名刺等も無かったので不思議に思っていたのだ」
翌日清掃会社に行くと、ミカン箱に一杯近い名刺が一平の目の前に差し出されて「これだけ在るのですか?」一平は目を丸くした。
「でも、会社関係の物は全く在りませんよ、飲食関係の物が殆どですね」
「とにかく頂いて帰ります」白石刑事が段ボール箱を抱えて持ち帰る。
車に乗り込むと、一平が早速箱から名刺のプラスチックケースをひとつ取り出して調べ始める。
「これは総て外国の名刺だ」そう言って驚くが何が書かれているか判らない。
他のケースを捜して取り出すと「これは料理屋の?これは旅館?凄い!自分が行った場所総てか?」
そう言って驚くと、白石が「遊びの範囲がこれで判りますが、相当古い物も在るので区別が大変ですよ」
「この中に事件のヒントが在れば助かるが、それにしてもこれだけの店でお金を使ったのだろう?気が変に成る金額だな」
二人は呆れて清掃会社を後にした。
翌日から手分けして、名刺の分析を始める。
パソコンに名刺の名前とか住所を打ち込んで、調べ始めるが「この店は在りませんね」
「この店も存在しません」と小寺刑事も白石刑事も次々と口走る。
「約四十年間の名刺をよく保管していたな」一平もその量の多さに驚き、海外の名刺を別けて、国内の名刺に的を絞る。
しばらくして「このケースは風俗の女性の名刺ですよ!」白石が驚いて一平に言う。
「これもです、これも」次々と風俗の名刺が出て来て「あのおっさん好き者だったのか?」一平が呆れて言う。
早速店の名前を打ち込むが「この店無いです、これも在りません」次々と存在していない店が大半だった。
「飲食店でも存在しない店が多いから、風俗なら尚更だろうな」
一日中調べても半分程度しか調べられない。
四人は疲れ果てて、初日の調査を終わった。
自宅に戻った一平に「何か新しい物見つかった?」興味津々で尋ねる美優。
「古い物だらけで、親父さんの遊びの範囲の広さに驚いたよ」
「風俗の名刺が沢山出て来た!でも殆どの店は存在しなかった!」
「何故?判るの?美優の恐い所だよな!見てないのに判る!」
「一流の商社マンは遊びも凄いって聞いたわ、それと遊んだ記録は残しているらしいわ、後々商売に結び付く事が有るらしいわ」
美優の話を呆れて聞いている一平は、何処でその様な事を調べたのか?不思議な顔で見ていた。
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