第4話捜査会議

数週間後、ラブホテル等のベットメイキングを請け負う会社、ニシジマから二ヶ月前迄登録していた女性に特徴が似ていると同僚からの申し出で、静岡県警に問い合わせが来た。

ニシジマは静岡県から神奈川県のラブホテルを中心に、数多くのベッドメイキングと清掃の契約をしている。

女性の名前は、足立伸子五十六歳だと連絡が有り、履歴書の写真をメールで送って貰い確認すると、多分同一人物だと会社の人事の人と同僚、松原綾子に県警に出頭して貰う事に成った。

二ヶ月前に突然辞めたが、住まいは会社の寮での一人暮し、元の住所は兵庫県朝来市に成っていた。

綾子の話では、三カ月ほど前に仕事先で面白い物を拾ったと話していたが、それが何かを聞いても教えて貰えなかったと証言した。

ラブホテルで何かを手に入れて、強請を始めたので殺されたと捜査本部の意見は一致した。

横溝捜査一課長は、早速桂木が誰かに強請られていた事実が無かったかを調べる事に成った。

「それは変よ!強請られていた人が桂木さんなら、先に殺されて強請の本人が後からは殺されないでしょう?」

美優が帰宅して捜査本部の話をすると、暫く考えて言った。

「そうだよな!じゃあもう一人の同伴の人間が一緒に強請られていた」

「それも変よ!もし桂木さんと誰かが一緒に強請られていたら、二人で力を合わせて伸子さんを殺す事はあっても、強請の本人と一緒に桂木さんを殺さないわ!」

「三角関係?」一平が言うと「あのおばさんを桂木さんが???」そう言って大笑いをした美優。

ラブホテルで客が何かを忘れた物を拾った伸子が、強請ったのは間違い無いと二人の意見は一致した。

その後も、では何を拾った?ラブホテルで客が一番困るのは?身分の判る事と一緒に行った相手に何か問題が有る時だ。

伸子が桂木さんの身分を知り脅したら、相手が有名な女性の場合は成り立つ!美優は一平が寝て高鼾の間も様々な事を考えていた。

缶コーヒーとアイスの自販機専用のお茶で青酸性の毒物を飲んで亡くなった。

青酸性の毒物は桂木さんが若い時に手に入れて持っていた物で、間違い無いのだろうか?


その後レンタカー会社を調べていた白石刑事達が、桂木さんが他の会社でも二度この数ヶ月の間に借りている事実を突き止めた。

だがどの場合も一人で、借りているので同乗者の姿は確認出来ない。

土曜日の昼から借りて日曜日の午後には返却している。

走行距離は五時間から六時間で、高速を走るともう少し広範囲に成る。

「他の場所でも借りている可能性も有るから、他県でも調べてくれ」佐山は神奈川県、山梨県とか東京から一泊旅行に行く場所に足跡が残ると考えた。

会社からの仕事では無さそうで、総てプライベートの行動に成っていたが、自宅では仕事だと妻には伝えていた。

妻俊子の話では、過去にも会社の内密の商談、接待と結構闇の部分の仕事を休日に行なっていたので、どの日が仕事なのか?プライベートか判らないと証言した。

最近では殆どお互いが会話も無くて、妻は韓国の俳優にのめり込み、家庭の事は家政婦に任せている状況だ。

捜査本部の報告で、桂木常務の私生活を紹介すると、仕事関係でも敵が多かった可能性も有ると横溝捜査一課長がもう少し広範囲に捜査する様に指示をした。

足立伸子と桂木常務の接点は全く無く、可能性が有るのは桂木常務がラブホテルを利用した時、何か大事な物を忘れて伸子の手に渡り脅迫された。

しかし、それが何処のホテルで日時は?伸子が担当した二ヶ月から三ヶ月前のリストを会社から貰い調べ始めたと報告した。

七月から八月には確かに桂木常務はレンタカーを借りて、静岡駅を出ている。

その日は松原綾子と一緒で、静岡市内のラブホを中心に五軒に行ったが、変わった事は全く無かったと証言した。

同日の桂木のレンタカーの走行距離は、伊豆半島に行く程の距離を走っていると記録に残り静岡市内で何かをラブホテルで忘れたとは思えなかった。

捜査会議で佐山が「もしも足立伸子が桂木常務の何かを掴んで、強請ったとして強請った女性が殺されるのは考えられるが、強請られた常務が先に殺されて、二日後に強請った女性が殺されるのは考えられません」

「殺された当日梅林公園の近くで、女性の姿を見た新聞配達員が居ましたので、間違い無いと思われます」伊藤刑事が裏付けで報告した。

「それは三時半頃で、販売店に向かう時に見たそうです」と付け加えた。

伊藤刑事は住田、近藤、女性刑事の小寺沙紀と四人で、殺害現場の梅林公園周辺の聞き込みを担当していた。

一平は白石刑事と桂木のレンタカーの調査に、他の会社、他の駅を捜していた。

その一平が「今のところ、静岡駅の新幹線側のレンタカー以外桂木さんが借りた車は見つかって居ません」と報告した。

だが、範囲を広げると膨大な件数に成るので、引き続き調査をする事に成った。

横溝捜査一課長が「この事件は、同じ青酸性の毒物が使われ、昭和三十年代にはメッキ工場で頻繁に使われていた物で、現在では入手困難だから桂木常務が昔手に入れた物だろうと思われるが、決めつける事は良くない。もう少し目撃情報を聞き込んで欲しい」と締めくくり会議が終わった。


自宅に帰ると待ちかねた様に美優が「足立伸子さんって小柄な女性よね!」いきなり尋ねる。

「そうだ百五十センチで細身、小さい女性だけれど?」

「それなら女性でも殺せるわね!」美優は一日中色々な事を想定して考えていた。

「今日目撃情報が発表されて、新聞配達員が会社に向かう前に梅林公園で彼女を見たそうだよ!三時半頃だって」

「その時間の後に殺されたのね!でも真っ暗でしょう?その時間!」

「足立さんが殺された場所は街灯が無かったけれど、少し場所を移動すれば街灯の明かりが在るからな」

「死亡推定時刻が二時から五時だから当てはまるわね、逆なら直ぐに解決だけれどね、脅迫された桂木さんが先に殺されているから、本当に桂木さんと足立さん関係有るのかな?」

流石の美優も疑いの目で見てしまう動機が判らない事件に成っていた。


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