第16話 勝利の杯を得る者
少しだけお茶菓子休憩してからそのまま絵のバトルが始まった。
佐藤さんが審判。
そして.....クリスも審判。
それから俺は観客になり見守る側になった。
そして.....絵の形式だが.....。
「.....私が教える前はずっと自由帳に描いていたんですよね?星座さん」
「.....はい。.....それが一体?」
「.....私も自由帳に描きます」
「.....え!?」
目を丸くする星座。
俺達も顔を見合わせて驚愕した。
どういう事だ。
それって画材を使ってきた飯島先生に相当なハンデになりそうな気がするのだが。
思いながら.....飯島先生を見る。
「.....本当にそれで良いんですか?先生」
佐藤さんが心配そうに聞く。
その言葉にも飯島先生は、はい、とニコッとした。
そして.....星座を見る。
それから.....星座の手を握った。
「.....私は.....ハンデで負けられるのは.....とても胸が苦しくて悔いが残ります。.....私がハンデと思ったものは徹底的に潰します」
「.....分かりました。それならそれでいきましょう」
「.....い、飯島先生の.....絵が.....自由帳に.....これはスクープだわ」
横の奴が、ハァハァ、と息を荒くする。
まるで.....興奮する物体を見た様に、だ。
コイツキモいんだが。
気持ちをドン引かせながら.....星座に耳打ちする。
「大丈夫か。星座」
「う、うん。私は.....」
そもそも何でここまでしてくれるの?
的な感じで?を浮かべていた。
俺は、それは飯島先生の人柄だろうな、と答える。
星座は、そうなんだ.....、と呟いた。
「.....昔から.....飯島先生は優しいからな」
「.....分かる気がする」
「.....だから安心して.....本気を出せ」
「.....うん。分かった。お兄ちゃん」
そして机に自由帳を置いてから。
向かい合う、二人。
その姿は、負けたく無い、という気持ちに満ち満ちていた。
俺達は.....背後から見守る。
「.....それでは制限時間は30分で.....良いですか?」
「はい。.....星座さんはどうですか?」
「.....私もそれで良いです」
そして制限時間は30分と定められて。
バトルが始まった。
心地の良い風の吹く.....部屋の中で、だ。
俺は自然と.....喉を鳴らす。
☆
「.....出来た」
「.....星座.....?」
21分経過。
その際に星座がそう声を挙げた。
俺は驚愕しながら.....星座を目を丸くして見る。
星座は俺に頷く。
集中する飯島先生以外の人にそれを見せてきた。
「.....お前.....これって.....」
「.....あの日だよ。お兄ちゃんが出版社に向かってから帰ってきた時の星空をイメージした」
そこには手を繋ぐ二人の背後の絵と空に顔が描かれていた。
かなり.....綺麗な絵だ。
まるで絹糸の様な鮮やかな.....演出。
そして.....綺麗な流れ星などが描かれていた。
「.....お前という奴は.....」
笑みを浮かべる、星座。
それに対して.....クリスが絵を見せて的な感じで手招きをした。
そして.....絵をじっくりと見る。
「.....すっごい綺麗ね。色とりどりに.....絵コンテと色鉛筆で表現しているわ」
「.....そうだな」
「.....これは.....かなり凄いんじゃ無いの?佐藤さん」
そしてその絵を佐藤さんに渡すクリス。
受け取ってから.....佐藤さんは目を見開く。
成長していますね、と呟く。
佐藤さんからそんな言葉を聞いたのは初めてだな。
「お兄ちゃんが居たから」
「.....流石、愛の力は偉大ですね」
ジョーク混じり?な感じで目を輝かせて言う佐藤さん。
だが.....それに対してジョークとは思えない様に.....耳まで真っ赤にした.....星座。
そして.....俯く。
愛の力、という点に反応した様だ。
「ちょ、佐藤さん!」
「.....???」
佐藤さんは目をパチクリする。
ジョークなんですけど.....的な感じで、だ。
言い忘れていたけど.....義妹義兄の関係とは言ってない。
その為に周りが?を浮かべたのだろう。
そうしていると.....飯島先生が、出来ました、と言葉を発した。
「.....これはこの辺りの景色をモチーフにしました」
「.....これ.....」
渡された自由帳の絵を見て.....。
絵画.....?的な感じに思えた。
絵が綺麗すぎて言葉にならないんだが。
これって自由帳の絵.....?
横のクリスが、ハァ.....、と言葉を失っている。
「.....何これ.....凄すぎる.....」
「.....流石は飯島先生です」
佐藤さんが後に手を添える。
この辺りの海をモチーフにした様だが。
星座の絵と見比べても完全に圧倒的な差が有った。
俺は.....駄目だ.....勝てない。
星座も.....かなり愕然としている。
マジに負けた、的な感じで、だ。
こんなに本気の絵を描かれては.....とも。
そうしていると.....飯島先生が頬を掻いて苦笑した。
「.....でも描きましたけど.....私の負けですね」
「.....え?!!?!」
ちょっと待て.....よ!?
飯島先生は.....何を言っているのだ?
思いながら俺は飯島先生を見る。
飯島先生は.....佐藤さんに向いた。
それから.....笑みを浮かべる。
「.....佐藤さん。私からの直のお願いです。今回の田中先生の件は星座さんに任せたいです。そして私が.....クリスさんの絵に回ります」
だがその言葉に直ぐにクリスが割って入った。
そして俺の背中を押しながら.....飯島先生を見る。
飯島先生の絵画の様な絵をクリスが叩きながら、だ。
「いや、えっと.....大歓迎なんですが.....何でですか!?飯島先生!この傑作が負けているって.....!?」
クリスが愕然としている。
そんなクリスに.....飯島先生は笑顔で答えた。
指摘する部分を、だ。
そして何故に敗北したかのかも答えた。
「.....クリスさん。必死になってくれて有難う御座います。でも.....分かりますか?私の絵には.....魂が宿ってないんです」
「.....!.....あ.....」
「.....代わりに星座さんの絵は暖かみが有る。そして.....魂が籠もっています。私の.....デビューしたての頃を思い出す様な.....そんな暖かみです。その絵を手に持つと.....心が暖かくなります。.....私、思い出したんです。.....そういえば最近はあまり絵に魂を込めて無いなって。量産しているだけの様な気がしました。.....それを思い出させた星座さんは凄いですね」
つまりを言うならそれが敗北の原因です。
とスッキリした様に答えた。
クリスは.....押し黙る。
俺は言葉に驚愕しながら.....星座を見る。
お、お兄ちゃん.....的な感じで嬉しそうだった。
そして.....星座は飯島先生を見る。
「.....飯島先生」
「.....はい?」
「.....有難う御座います」
「.....私は当たり前の事をしただけです。.....敗北したのなら.....敗者は身を直ぐに引き下がらないといけないです」
世の中はそういうものですよ。
と満面の笑顔の飯島先生。
となると.....後は佐藤さんの判断になるが.....。
思いながら.....佐藤さんを見る。
佐藤さんは、飯島先生が仰るなら、と笑みを浮かべた。
「.....じゃあ宜しいですか?飯島先生、星座さん」
「はい」
「.....はい」
そして.....勝者は星座となり。
後日、星座は正式に.....イラストレーターデビューし。
更に言えば.....俺と星座のタッグを組んだ小説の出版が決まった。
因みに画材の描き方は飯島先生が教える。
その為、星座は.....飯島先生の正式な弟子になった。
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