第13話 俺達の現実

クリス・ファーレンの小説は滅茶苦茶に面白いと思う。

独特な世界観だが最後までマンネリ化せずにしっかり描き切るその世界観はおそらくこの世界で表現するならピアノを演奏する様な天才だと思える。

そして俺はこの世の中は天才と運を持った者だけが生き残る世界だと思っている。


クリスの小説は.....世界でも300万部売れる程になっている。

日本では丁度700万部近く。

外国でたったの300万部と思うかも知れない。

そして日本でもたったの700万部と思うかも知れない。


しかし(300万部も売れる)というのは非常に大変な事なのだ。

漫画もそうだが.....多分、万冊売るのはこの世界でも5本指に入るか入らないかレベルになる。

2000万部売れたベック先生もそうだが。

どれだけ書いても.....売れない奴も居るのだ。


俺の様な奴が、だ。

手抜きをせずに頑張っても俺は50万部しか売れない。

つまり.....どれだけ凄いかが分かる。


そして.....1000万部。

簡単に言うなら先程も言ったが(運)も必要だと思う。

そこまで売れるのは、だ。

才能だけでは生き残れない世界なのだ。

それが.....現実だ。


例えば部下が高齢で上司が若いとかいうサラリーマンも居る。

そんな運で、才能で成り上がって行く人も居る様に。

俺達の業界もそれなりに下級、中級、上級が居る。

それが.....この世界で有り。

そして俺達の生きている現実だ。


俺は.....それなりに面白く終わらせたから良いけど.....俺の周りで打ち切りなど、売れない奴もいて去った人も沢山居る。

だから.....生き残るのは本当に厳しい。

それで食っていくなど持っての他、難しい。


だらだらと語ってしまったけど。

知って欲しいのだ俺達の現実を、だ。

だから.....クリスが飯島先生を欲しがるのも無理は無い。

俺の様な下級から、だ。

だって飯島先生の肩書だけで.....世界で二倍近く本が売れるのだから。



「で、何で私は貴方に付いて行っているのかしら」


「.....仕方が無いだろ。時間が無いんだから」


「.....うーむ。それは言えるわね」


コイツさっきと性格が全然違う。

何だかクリスのせいで打ち解けてしまった。

俺が年上なのも有るし、同業者なのも有るし、だ。


敬語を使うのを止めてクリスに有りのままに接する。

星座は分かれ道で別れたから俺に付いて来る、クリス。

俺はクリスを眉を顰めて見た。


「.....お前だってテスト有るんじゃ無いのか。大丈夫なのか?」


「.....私はテストは大丈夫。才色兼備のお嬢様だから」


「.....ああそう.....」


クリスがこんな性格だとは.....。

面倒な奴に絡まれた。

思いながら.....俺は渋る顔で歩く。

そうしているとクリスが俺の前に立った。


「.....何だ?」


「飯島先生を渡す気になったかしら」


「.....なって無いな。すまないけど」


「.....何でかしら?」


何でと言われても。

クリスの様な人に渡したく無いと思ったから、だと伝えると。

そのクリスは、ハァ!?、と俺に唖然とした。

そして文句を言ってくる。


「.....貴方.....私を何だと思っているの」


「.....うざい存在だな。さっきとは違って」


「.....ハァ!?貴方.....!」


クリスが地団駄を踏む。

俺は.....その姿を見ながら.....歩き出す。

すると俺の目の前をクリスが遮った。

そしてとんでもない事を言う。


「.....じゃあ分かった。今から私と付き合いなさい。貴方。私がどれだけ良い人か分らせてあげる」


「.....何でそうなるのか.....全く意味が分からない」


「.....付き合って私のキャパシティを見なさいって言っているの。全く」


「.....キャパシティってお前.....」


キャパシティという言葉を使うとはね。

思いながら.....立っていると背後から挨拶の声がした。

ヤッホーと言いながら.....丹山が、だ。

そして俺の肩に手を添える。

ニヤニヤしながら、だ。


「ナンパかな?」


「お前は.....。俺のイマイチな顔でこんな美少女をナンパ出来る訳無いだろ。しかも犯罪だろ」


「.....じゃあ誰?この美少女?」


「.....七色だ。ラノベ作家の。.....コイツは」


七色.....と数秒考えて。

そして、ハァ?!、と声を上げる。

こんな美少女が!?とも、だ。

目の前のクリスはニコニコしながら満更でも無い顔をしている。

俺は.....盛大に溜息を吐いた。


「クリス・ファーレン!?.....だ、だ、だ、大ファンですけど!?」


「あら、私のファンですか。宜しくです。クリスです」


「ま、マジですか!握手して下さい!」


「.....何だコイツ.....変わり身早.....」


ひでぇと思いながら俺はまたも盛大に溜息を吐いた。

そして.....クリスを見る。

コイツさっきまで俺を半分、脅していたよな?

思いながら.....腕時計を見る。

ヤバイ。


「.....お前ら。遅刻すっぞ」


「.....あら?そうですね。それでは丹山さん。ご機嫌よう」


「ご、ご機嫌ようです。.....上品な方だなぁ.....クリスさん」


それは上っ面だけだと思う。

何と言うか化けの皮とも言うんじゃないか?

思いながら.....顔を引き攣らせてクリスを見ていると。

そんなクリスは眉を一瞬だけ顰めて、覚えてなさい、的な感じで丹山に笑顔で挨拶して別の方向に歩いて行った。


「流石は小説家だね。耕作くん。知り合いいっぱいだね。あはは」


「.....あんな表裏の奴とはあまり知り合いになりたく無いが.....」


「え?」


丹山が?を浮かべる。

そして目をパチクリした。

クリスは.....あまり会いたく無い奴だったな。

思いながら.....俺は丹山に行くか、と声を掛けて。


そして歩き出した.....が。

放課後、また俺の家にクリスが来た。

何なんだコイツ的な感じで俺達は迎えたが.....。

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