第10話 敵陣視察

家に帰って来ると星座が先に帰っていた様で自由帳を使いながら絵を一生懸命に集中してひたすら描いていた。

俺はその姿を見ながら少しだけ笑みを浮かべて柔和になりつつ麦茶を冷蔵庫から取り出してコップに移し飲んだ。

今話し掛けるのはあれだろうな。

それなりに集中を乱す事になると思う。


「.....」


こんな.....俺の周りに居てくれる皆んな。

そしてうちの母親が七島さんに会わなければ出会う事の無かった星座。

俺は.....本当に幸せなのかも知れない。

昔より.....親父を失った頃より遥かに、だ。


親父を失って.....俺は衝撃で幸せを感じれなくなったのだ。

家族が失われた。

そのショックが強過ぎて、だ。


だけど.....今。

皆んながそんな空いた心を代わりの心で埋めて。

俺を支えてくれているのだ。


その事にはマジに感謝しか無いと思う。

だから俺は笑えるのだ。

皆んなが居なかったら.....俺は自殺していただろう。

と思っていると.....背後から声がした。

絵を描いていた筈の星座だ。


「どうしたの?.....お兄ちゃん」


「何でも無いよ。お前が居て幸せって事さ」


「え?.....え?」


「.....そういう事だ」


俺より身長が低い星座の頭をそのまま撫でる。

そして笑みを浮かべながら、俺も頑張るか、と言葉を発してから.....外を見る。

星座は、そうだね、と頷く。

私は今の絵を頑張る、と言葉を発した。

そうなると、だ。


「.....俺は小説を頑張るよ」


「.....でもそれは良いけど.....忘れちゃ駄目な事も有るよね。あはは」


苦笑しながら俺を見てくる、星座。

いや.....そうだけど。

思い出したくない事を思い出させやがって。


確かに忘れちゃいけないけど.....。

それは簡単に言うと勉強。

それからそれをする理由はまあテストだが.....。

本当に思い出したく無いな。

面倒臭くて.....。


「.....テスト.....面倒だな」


「頑張って。.....とは言え.....私もテストが有るからね.....」


うん?そうなのか?

小学校の事はよくは知らないが。

それなら互いに困ったもんだな、と苦笑いする俺。


でも私は.....勉強をそこそこにしているから良いけどね。

と自慢げに胸を張った、星座。

俺は、お前頭良いもんな、と苦笑気味に口角を上げた。

でもそれで片して良い訳が無い。


「.....あのな。気を緩ませたら終わりだぞ」


「.....そうだね.....うん.....」


「.....俺も頑張るからお前も頑張れよ」


「だね。お兄ちゃん」


それを頑張った後の目標は.....取り敢えずは土曜日だな、と定めた。

そうだね、飯島先生に負けたく無いから、と.....星座は俺に和かに笑む。

俺もその事に微笑み返すと直後、インターフォンが鳴った。


?を浮かべてから俺は宅急便か?

と思いつつインターフォンを覗い.....たのだが。

居た人物に愕然とした。


「.....!!!!?」


「.....え?どうしたの?お兄ちゃん」


「.....い.....飯島先生!?」


「え.....?」


これはどういう事だ?

ちょっと待ってくれ.....飯島先生ご本人!?

マジに何がどうなっている。

一体.....何をしに来たのだ!?


住所も教えてない筈なのだが。

俺は直ぐにインターフォンに映った少女を迎えに行く。

そして玄関を開けると.....そこには飯島先生が立っていた。

俺を柔和に見てニコッとする。

それから律儀に頭を下げた。


「こんにちは。山田先生」


「.....は、はい.....。ど、どうしたんですか?.....飯島先生」


「.....敵陣視察って感じです。あはは。.....それに.....この前、お会い出来なかった星座さんに会ってみたくて」


言葉に後ろに居る星座が.....俺を見た。

そして目を丸くする。

それから飯島先生に向き、初めまして、と言いながら再び驚きながら俺を見る。


「.....飯島先生って本当に中学生なんだね」


と言いながら目を丸くする、星座。

ああ.....そうだな、と俺は頷く。

それを聞くなり星座は顎に手を添えて、俺の前に一歩出る。

それから.....飯島先生を真っ直ぐに見た。


いや。

もしかしたら。

(静かにライバルとして見た)の方が正しいかも知れないが。

飯島先生もニコッとしながら星座を見る。

まだ敵意無しで、だ。


「初めましてですね。.....私.....飯島と申します」


「.....私は山田星座です。.....その、お兄ちゃんの本の.....挿絵を担当するイラストレーターの人ですよね?」


「はい。.....まさにその通りです。.....イラストレーターです」


「.....」


凄い気品の有る人だ、と気圧される様に思っている様だ。

そしてこんなにデカイ壁に打ち当たっているのか、とも思った様だ。

俺は.....その姿を見ながら飯島先生に向いた。

それから.....家の中に招き入れるつもりで向いたのだ。


「飯島先生。ここでの話も何ですし.....もし宜しければ家の中でゆっくりと話しませんか?」


「え?.....あ、お構いなくですが.....」


俺にそう笑みを浮かべて言う飯島先生。

だけどな、このまま.....この場所でずっと立ったまま話すのも如何なものかと思う。

と星座を見る。


「.....星座。どうだ」


「.....うん。私は構わない。色々と.....お話を聞いてみたいからね」


飯島先生をライバル視しながら話す、星座。

俺は頷き、じゃあ飯島先生、と俺は案内した。

飯島先生は、じゃあすいません。お言葉に甘えて.....、と。

そのまま飯島先生と共に家の中に入った。


「.....本当に綺麗なお家ですね」


「.....ですかね」


「.....えっと。それと山田先生。.....私に敬語使わなくて良いですよ。前にも言いましたけど私は年下なんですから。ね?」


「.....あ、ああ。すいません.....」


と少しだけ美少女にドギマギしながら話していると背後から小さく蹴られた。

俺は背後を見ると.....ムッとしている頬を膨らませている星座が居て目を丸くする。

え?何だ.....?


(かなり嫉妬している)という感じだが.....。

俺は目をパチクリする。

星座はニコッとして#を浮かべる。


「.....お兄ちゃん。.....鼻の下伸ばさないでね。あまり」


「.....あ、はい.....」


何だ今日の.....星座は.....?.....か、かなり恐妻ですね.....。

俺は顔を引き攣らせながら星座を見る.....ってかこんなに怖かったか?星座って。

それなりに俺は慌てる。

すると.....飯島先生がそんな光景を見ながら俺達にクスクス笑った。


「.....本当に仲が良いんですね」


「.....そうっすね.....うん、まぁ.....うん」


「..........」


星座の目がかなりキツイ。

何でこんな目を向けているのか分からないが.....その。

今って仲が良いって言えるのか?


思いながら.....フンッと横を見た星座に溜息を吐いた。

これ.....そのマジに何か駄目な気がする。

と思いつつ.....額に手を添えた。



「でも敵陣視察と言っても.....今日はそれだけじゃ無いです」


「.....え?それはつまり?」


俺はお茶を持って来てそしてお茶菓子を持って来た。

そして飯島先生の言葉に?を浮かべながら.....見つめる。

星座も?を浮かべながら飯島先生を見ていた。

そしてお茶を貰い、飲む星座。

その様子を見ながら.....飯島先生はタイミングを見計らって言葉を発した。


「.....私、星座さんに教えに来たんです。私の絵の技術などを」


それは.....かなり衝撃的発言だった。

俺は驚愕して目を丸くする。

敵陣を視察だけじゃ無いとは言った。


でもそれは完全な予想外だ。

思いながら.....飯島先生を見る。

同じ様に目を見開いている星座は言葉を発した。


「ちょっと待って下さい。.....それってマイナスじゃ無いですか?私に.....絵とか技術を教えるなんて」


「はっきり言ってそんな事をすればマイナスですよ」


「.....じゃあ何で.....」


飯島先生は星座に向いて真剣な顔をしていたが.....直ぐに柔和になる。

そして外を見てから星座を見た。

胸に手を添える。


「星座さん。私と勝負をしてほしいのは山々です。でも.....相手があまり完璧な状態じゃ無いまま戦うのは嫌なのです。星座さん。貴方の絵はまだ完璧じゃ無いんです。私の目から見ても.....です」


と少しだけ苦笑いした、飯島先生。

そもそもの目的はこれですから、とも話す。

星座は、どうしよう。お兄ちゃん、と困惑していた。

でもこれってチャンスじゃないか?

相手は.....全く悪気の無い事を言っている。


「.....教えてもらったら良いぞ星座。これは.....チャンスかも知れない。お前の絵が更に伸びるかも知れない。限界を超えるかも知れない」


「.....良いの?お兄ちゃん。もしかしたら策略って事も.....」


「.....いや、大丈夫だ。飯島先生の人柄なら信頼出来る」


「.....分かった」


それから、私に.....絵を教えて下さい。

と頭を下げた、星座。

その事に、でもその。一つだけお願いが有ります。支払いなんですが。

と飯島先生は言う。

俺達は顔を見合わせて青ざめる。


「.....え?お金無いですよ?」


「.....あはは。欲しいのはお金じゃ無いです。このお茶菓子をもう一個下さい。それで妥協します」


「.....え?あ、はい?」


俺達は顔をもう一度、見合わせてそして飯島先生を見た。

それからクスクスと笑い合う。

飯島先生は、うーん。笑わないで下さい.....、と少しだけ恥ずかしそうだった。

予想外の事に.....笑みしか出ない。


「.....飯島先生。面白いですね」


「.....もー。私は面白い事をしている訳ではないですよ」


「あはは」


そして.....星座は。

飯島先生から直々に絵を教えてもらう事になった。

これは恐らくかなり貴重な経験になると思う。


何故かと言えば.....世界的の絵のアーティストによる直々の教えだから、だ。

にしても、何で俺の小説を好いていて。

それからわざわざ教えに来てくれたのだろうか.....。

そこだけは気になる。

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