第3話 希望の道を書く(編集済)

この世界は異常なまでに暗闇に堕ちていると思っていた。

俺の親父を奪った世界が何とも言えない感情でもう爆発しそうで。

だからそんな世界を忘れてそんな世界から逃れる様に.....小説を毎日1000文字コツコツと書いていた。


そしてその貯まりに貯まった小説を.....カクヨムというサイトで公開していると出版社から、本を出しませんか、と言われ本を出したのだ。

今までの全てのシリーズで約50万部売れた。

そうして.....今に至る。


受賞してから.....5年ぐらい経ったがここ最近は1年近く本を出してない。

というか出せないのだ。

何故出せないかと言うと.....親父の5周忌もあったここ最近から、だ。

ただ.....キーボードが打てなかった。


すると.....俺は母親の再婚相手が来て1日後。

突然に涙を流してしまって再婚相手の連れ子の小学生の女の子、星座ちゃんに頭を撫でられて慰められた。

情けないと思ったけど.....彼女は、母親は優しく言ってくれた。


『大丈夫、大丈夫だから』


と、だ。

小さな掌だった。

だけど俺にとってはその掌がどれだけの救いになったか。

思いながら.....俺は夜、その動かない筈の手を動かし。

キーボードを勢い良く叩いた。


小説のタイトルは、希望の道、だ。

これはどういう意味なのか。

そして本として出すのか。

答えはイエス。

タイトルは俺を救ってくれた星座ちゃんをモチーフにした。


俺と星座ちゃんの.....仲の関係を表したエッセイに近い。

動かない指を。

書くのを.....恐れている指を必死に動かしそして書き記していく。

書けないと思っていたのだが。

でも.....案外書けて.....結構な時間が経った。



「お兄ちゃん。朝だよ」


「.....はっ.....」


背後から声を掛けられた。

俺のバッと見た行為に目を丸くする星座ちゃん。

いや、ちょっと待てなんてこった。


今日は日曜日だが.....土曜日の昨日からぶっ通しで書いてしまった様だ。

俺は目を擦りながら目の前のスリープに入っているパソコンを開く。

そこにはちゃんと文章が刻まれていた。


文章の数は.....40000文字だ。

我ながらよく書いたな.....これ。

馬鹿みたいだと思いながらも.....良かった書けて、とも思った。

そうしていると困惑しながら星座ちゃんが覗き込んでくる。


「.....もしかしてずっと小説書いてたの」


「.....ああ。.....お前との絆を書いたものだが」


「え?」


「.....お前との仲のエッセイ」


星座ちゃんは目を更に丸くする。

そして.....何で私の.....?という感じの表情をした。

でも正確に言えば主人公は星座ちゃんだけじゃ無い。

主人公は皆んな、だ。

だけどその中の代表で俺と.....星座ちゃんなんだ。

俺は口角を上げる。


「.....俺は.....お前に救われたんだよ。.....だから.....書けたんだお前のお陰で、だ」


「.....お兄ちゃん.....」


「.....会ってからまだ1日しか経ってないのにな。ハハハ」


私で.....本当に良いの?と不安そうな顔をする星座ちゃん。

その言葉に当たり前だろ、と柔和になる。

星座ちゃん以外に無いからな。

俺は.....パソコンを閉じた。


「ご飯食べるか」


「.....だね」


そうして歩き出すと。

背後から声がした。

お兄ちゃん、と、だ。


?を浮かべて背後を見ると。

笑みを浮かべた.....星座ちゃんが居た。

そしてこう言葉を発する。


「.....私の名前、星座って呼んで」


「.....え?」


「.....私は.....そう呼ばれたい。私だけ.....お兄ちゃんはおかしいから」


星座ちゃんが笑みを浮かべたまま俺を見据える。

俺は.....良いのか?と言う。

星座ちゃんは頷きながら.....俺を再び見た。

しどろもどろしながら.....俺はじゃあ、星座。

と話した。


「.....うん。お兄ちゃん」


「.....」


星座の母親。

そして俺の父親。

もしかしたらその二人が.....全てを繋げてくれたのかも知れない。

何故かって言われたら.....そんな気がしたから、だ。

カルテットの伴奏者が揃った様な感覚だ。


「.....星座。有難う」


「.....私は何もしてないよ?」


「.....お前が居たから俺は俺で居れたんだ。だから、な」


そして俺達は階段を降りた。

それから.....リビングに向かう。

その足は何だか軽やかな感じがして。

何時もの感じでは無かった。

何故だろうな。



「随分と仲が良くなったわね」


「.....ですね。和子さん」


俺達は顔を上げて見合わせる。

朝食の鮭を食べながら.....家族で食卓を囲む。

そんな中で星座が返事をした。

俺は柔和にその姿を見る。


「お兄ちゃんのお陰だと思う」


「.....俺は何もしてないぞ」


「.....お兄ちゃんのお陰だから。絶対に」


ね?と星座の笑顔。

出会った頃とは.....全然違う。

ポッキーで.....初めが繋がった絆って感じだ。

俺は.....それを思いながら味噌汁を飲む。

七島さんは笑みを俺に対して浮かべた。


「.....しかしやっぱり君なら安心して任せられる」


「.....俺は.....そんなに良人じゃ無いですよ。.....それは褒め過ぎです」


「.....良いや。君は本当に.....僕が知っている限り良い人だ。家族になれた事を光栄に思っている。僕は。幸せだよ」


だってその証拠に.....星座が君にを見せているからね。

と七島さんはニコッとする。

俺は、そうなのだろうか、と思う。


かつての俺は嫌味が有ったからな.....とも。

あの時には戻りたくは無いと思う。

そう少しだけ複雑な顔で居ると星座が身を乗り出した。


「パパ。幸せだと思う。私も」


「.....そういう声が聞けて良かった」


あくまで赤の他人だった七島さん一家。

だけど.....俺と母親は運命的に七島さん一家と家族になった。

親父のお陰なのだろうか。

思いながら.....俺は少しだけ笑みを浮かべた。

七島さんが星座に聞く。


「それはそうと.....明後日から小学校が始まるけど.....準備とか大丈夫かい?星座」


「うん。大丈夫。お友達が出来るの楽しみかな」


「.....そうか。.....耕作くんと和子さんのお陰だね」


「.....そうかも」


笑みを浮かべる、七島さん。

俺は.....その光景を見ながら鮭を食べる。

何故かその鮭は.....マイルドな味が.....する。

果たして何故だろうか。

でも何となく分かる気がした。

多分.....幸せなのだ、俺は。

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