第12話 魔王様、驚きのあまり言葉をなくされる
夜は宴席で我の僧侶になったお祝いが成された。
本来は宴席で報告するまでも無いが、親族と言う重圧がどうやら掛かったようだ。
東家には男児が少ない、特に本家である我が家には色々な思惑を胸に親戚が集まるのだ。
「この度、僧侶となりました。清く勤めていきますので宜しくお願いします」
「祐一郎もついに僧侶か~!」
「七歳で僧侶になるとはな、爺さんもそれ位の年齢だったか?」
「何にしても目出度いなぁ!」
「この
言いたい放題盛り上がっているようだな。
我は隣に座る母からオレンジジュースを注いで貰い、隣に座る勇者と乾杯した。
今日は母屋の奥から余り出てこない曾婆様も宴席に来て下さっている。
勇者は曾婆様の部屋でよく昼寝をしているようだが、我が家では曾婆様はお爺様よりも大事にされるのだ。
宴席には刺身から寿司から、兎に角目出度い日に出される料理が並んだ。
父の妹である叔母からは鯛の尾頭付きが届いたと祖母が言っていたのを思い出す。
父には妹が一人だけいるが、訳あって今回は参加していないらしい。
本来なら叔母とその夫、そして勇者と同じ年の双子と共に来たかったらしいが……。
「叔母様に会えなかったのは残念です。小雪も同じ年の従姉妹とは会いたいでしょうし」
鯛の尾頭付きを見た時、つい口にしてしまったが、今まで賑わっていた宴席が静まり返った。
何か言ってはならない事を口にしたかと思ったが、特に問題は無い。
「なんだ、祐坊は知らんのか」
「ちょっと、止めなさいよ!」
親戚の一人が口にすると、隣に座っていた女性の親戚が叱咤する。
すると――。
「お前の叔母はヤクザの二代目組長と結婚したんだぞ。しかも駆け落ちだ」
「ほう」
「だからサッサと良い所の坊ちゃんと結婚させれば良かったんだ。政代さんが光子を甘やかすからアイツは碌でもない家に行っちまったんだぞ?」
その言葉に母は顔を俯かせた。
どうやら母は叔母の恋を影ながら応援していたらしい。
「でも、好いた男性と一緒になりたい気持ちは解りますし……」
「だとしても相手がヤクザなど、我が家に泥を塗るようなもんだ!」
酒が入って叫び散らす親戚に祖父は大きく咳払いして睨み付けた。
「祐一郎の祝いの席で揉め事か?」
「う……」
「光子が好いた男の元へ嫁ぎ子を成したのだ、我が家に塗られた泥など何も無い。それに、祐一郎も素晴らしい恋をしているようでな。あの子は是非、我が家に迎え入れたい所だ」
「お爺様もそう思われますか?」
今までも祖父が心寿の事を褒めることが無かった為、心の隅では反対しているのではと思っていたが、どうやら違ったようだ。
「心根が素直で優しい、何より祐一郎が生まれて間もない頃からお前の世話をしてきた。それに……お前がどれだけあの子を想っているのかもワシらは知っておる」
「お爺様……」
ちゃんと我を見ていてくださったのか。
何時も
「と、とは言っても!! 祐一郎の周りにはこれだけ年の近い娘達がいるじゃないか!」
「そうよ! 他の家から嫁を貰うよりは安心できるわ!」
「うちの子とだって年が近いんだからチャンスはある筈よ!」
ギャンギャンと喚き散らす親戚達。
そして我に興味津々の娘達の視線……吐き気がしてくる。
「魔王、大丈夫か?」
「ああ……少し気持ちが悪いだけだ」
騒ぎ立てる親族に胃痛がしてくる。
母は我が生まれるまでこの責め苦を抱えてきたのか……。
――子が生まれぬと。
――男が生まれなかった場合は離婚しろと。
この連中から言われ続けたのかと思ったその時――我が家で最も
「祐一郎?」
「はい」
「お前は土足でこの中から嫁を選びたいのかい? それとも、
芯の通った声だった。
その言葉に騒ぎ立てていた親族がギョッとした表情で曾婆様を見つめている。
祖母は曾婆様の背中に手を回し、ゆっくりと姿勢を正すと我を優しい瞳で我を見つめてきた。
「将来の結婚相手を決めるのはお前さんだ。周りの声など羽虫と思って無視すれば良い」
「曾婆様……」
「それに、私は光子の結婚相手がヤクザだろうと気にしちゃいないよぅ。あの子は二人も腹に子を宿してちゃんと産み育ててる。寧ろ血の繋がりの薄い親族と言う害がある所為で、あと二人のひ孫とも会うことができない。ここに集まった奴等はなんて罰当たりだろうねぇ」
曾婆様の言葉に親族は言葉を無くしたが、それでも言葉を続ける。
「好きならちゃんと大事にせぇ? 好きならちゃんと抱きしめてやれ? 言葉足らずと言うのなら態度で気持ちを示しなせぇ? 大丈夫、アタシも曾爺さんとは恋愛結婚だ。当時は珍しかったが、曾爺さんはお前によく似ていて、一度嫁にすると誓ったらアタシを両親から奪い去って行ったもんだよぅ」
そう言って笑う曾婆様は懐かしむように……そして今も曾爺様を想うように微笑んだ。
「
「はい!」
「何でしょう?」
「あんた達がうちに嫁にきてくれて、こんなに嬉しいことは無いよぉ? 寺の嫁としてしゃんと胸を張って夫の手助けを出来る嫁はそう多くない……あんた達は良い嫁だよぉ?」
その言葉に、母と祖母は瞳に涙を溜めた。
それほどまでに、曾婆様の言葉とは重いのだ。
「小雪?」
「はい」
「お前は人一倍苦労するだろう、でも必ず兄が守ってくれる。だから兄と仲良くせぇ?」
「はい!」
「ふぇっふぇっふぇ!」
豪快に笑う曾婆様はビールを一気飲みした。
余程気分が良いらしい。
「祐一郎?」
「はい」
「嫁は、聖女に限るなぁ?」
その言葉に、我は目を見開き勇者は持っていた空になったコップを落とした。
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