第7話 魔王様 改造ウォーターガンでお遊びになる

 我の手にある水鉄砲は、長谷川達の持つ安物ではない。


 祖父からの贈り物である。

 それも、父と祖父と我とで遊ぶように三つ用意してあるのである。

 三つに水を入れ込聖女の元へと駆け寄ると、勇者が聖女を守らんと盾になっているではないか。



 そんな勇者三歳の顔面目掛けて幾度と無く水攻めが行われる。

 例え勇者であっても我の血の繋がった妹。聖女を守ろうと必死に小さな身体で守る姿を見て長谷川達は心を痛むわけでもなく笑っている。



 その長谷川に向けて、我は持ってきた【アクアボンバー:サンダーボルト】と言う水鉄砲を構えて顔面に連射した。

 飛距離は約七メートル程度の、ポンプ式ウォーターガンは連続して撃つ事が出来るが威力を増す為にだ。

 途端水圧で首を痛めたのか、よろめいて水捌けの悪い地面に転がる様を見ると、長谷川の仲間達が我を見て目を見開いているではないか。



「よくも妹を虐めてくれましたね? 覚悟はいいですか?」

「祐一郎……貴様!!」

「先に手を出したのはそちらです」



 そう言いつつ連射しながら他の仲間達も同様に打ち抜くと、一つが空になった。

 続いて取り出したのは【ウォーターファイト:トルネードフェニックス】と言う父愛用の水鉄砲だ。

 シンプルなウォーターガンに見えるが、飛距離は約八メートルもあり、コチラも連射機能付きで当たれば痛い様に改造済み。である。

 三人の顔面に執拗に狙い何度も打ち込むと、三人は地面を這いながら「止めろ!」と叫んでいる。何とも良い気分だ……。


 息も出来ないほどに顔面を狙い続けると、一人はその場に頭を両手で抱えてうずくまり、尻を上げたので何発かに打ち込んだ。

 もう一人は何度か立ち上がったが打ち抜かれて地面に倒れこんでいる。

 露になっているふくらはぎを何度も集中攻撃すると泣き始めたので放置する事にしよう。


 そこまで行くと水が空になる。

 残るは長谷川のみだ。


 長谷川は力では負けないと考えたのだろう。

 雄叫びを上げながら我に駆け寄ってきたが、続いて祖父の愛用の水鉄砲【ウォーターファイト:ストームシャーク】を手にした。

 左右百八十度に可動する二本のノズルにミラー付きスコープ付きの、実に独特な水鉄砲。

 飛距離は約八メートル、コレだけの距離があれば長谷川を叩き潰すには苦労すらしないだろう。

 何故なら――。



「向かってくる勇気は認めますが……?」



 我の言葉に長谷川の足は止まった。

 丁度良く長谷川が手にしていた水鉄砲をスコープでねらい打ちすると、いとも簡単に壊れたのだ。



「女性三人をかように痛めつけた挙句、庇おうとしていた妹を苦しめた罪は重いと言えるでしょう。どうです? 体のどこを打ち抜いて欲しいですか?」

「や……止めろ」

「止めて欲しいと言った女性の言葉を無視したのに……許されるはずないじゃないですか」



 一発長谷川の右肩に当てると、長谷川は「イテェ!!」と叫んでその場に倒れこんだ。

 苦しむ様は我にとっては何よりの快感だ……。



「次は足、その次は太もも……男性の大事な逸物にも一発打ち込みましょう」

「止めてくれ! もうしないし関わらない!」

「貴方は何も分っていませんねぇ、貴方の言葉に、貴方の存在に【信用】と言うものがあるのですか? その様な言葉は【信用】を得てから言って頂きたい」



 無表情のまま口にし、先程言った場所を三箇所狙い打ちすると、長谷川は歯を食いしばり声も出ずその場に蹲った。



「次この様な真似をすれば、目を打ち抜きますから御注意くださいませ」

「ヒ……ヒギィ!!」



 痛みで涙と鼻水が溢れ出る長谷川に歩み寄り、銃口を押し付けて口にすると怯えた様子で我を見つめている。



「宜しいですね?」



 再度確認の為に口にすると、長谷川は泥だらけのまま何処かへ消え去ってしまった。

 軽く脅しただけだというのに、情けない奴だ。

 魔王城に無謀に戦いを挑む自称勇者のほうがまだ根性があったものだがな。



「三人とも大丈夫ですか?」

「うん、祐ちゃんありがとう」

「は――鬼畜だねぇ……粋だねぇ……燃料だわぁ……萌えるわ~」

「ふふ、褒め言葉として受け取っておきましょう。小雪、小さな身体でよく二人を守りましたね」



 満面の笑みで褒めたのに、勇者は我を見つめてガタガタ震えている。

 どうやら怯えさせてしまったようだ。

 そんな勇者を抱き上げると、下着まで濡れてしまっている様子……もしや寒いのかもしれないと判断した我は小雪の額に手を当てる。



「寒いのですか? 熱は無さそうですね……申し訳ありませんが、小雪を着替えさせねばなりませんので、お二人も一度帰宅して着替えてきて下さい」

「そうするわ」

「小雪ちゃん大丈夫?」

「だ、だいじょうぶ!」

「では後ほど」



 そう言うと我は勇者を連れて家に入り、勇者の着替えを持って風呂場へ向かい温かいシャワーで身体を流す。

 やはり寒くて震えていたようだ。

 多少温かくなりホッとした勇者を風呂から出し、頭を拭いてやると何を思ったのか勇者は顔を上げた。



「魔王よ、幾らなんでも先程の攻撃は執拗しつよう過ぎるぞ!」

「何のことです」

「あのウォーターガンとか言う奴は、お爺様と父、そしてお前が改良に改良を重ねたモノだろう!? 以前試し打ちで空き缶どころか空き瓶すらも割っていたではないか!」

「それが何か?」

「アレは人に向けるように改良されていないのだろう!?」



 あぁ、たかがその様なことで熱くなっているのか。馬鹿馬鹿しい。



「ええ、そうですよ。アレは私と祖父と父がどこまで威力を強くすることができるか、毎晩改良に改良を重ねた武器です。まさかココで役に立つとは思っていませんでしたねぇ」

「魔王!」

「ですが、信用無き者は他者の人権を踏み躙る傾向にあると聞いております。それを教える事は悪いことではありませんよ」

「だがしかし!」

「あのままでは何時しか幼い貴方にも危害を加えられる可能性があるのです。その芽を潰して置くのも兄の責任です。良いではありませんか、妹思いのお兄ちゃんで良かったですね」



 そう言って髪を乾かし終えると勇者に服を手渡し脱衣所を出た。

 我も濡れた作務衣から新しい作務衣に着替えて住居になっている二階から降りてくると、大人達が集まってなにやら話しているようだ。


 先程の一件が既に大人たちに広がったらしい。

 しかも何故か私が全ての元凶であるように。

 おのれ長谷川とお供の二人め……そう思い無言のまま叱咤を受けていると、その様子を見つめていた勇者が母の元へ駆け寄り、我の濡れ衣を晴らそうとしている。



「おにいちゃんはわるくないよ! わたしずっと、かおに水かけられておぼれかけたもん! それをおにいちゃんが守ってくれたのに、なんでおにいちゃんがわるい子になってるの!? わるいのはハセガワとかいうひとたちじゃない!!」

「小雪ちゃん……」

「心寿おねえちゃんとミユおねえちゃんに聞けばわかるもん!! わるいのはハセガワだもん!!」



 小雪の必死さを感じ取った大人たちは、聖女とミユを呼び寄せ起きた状況を理解し、長谷川の親とお供二人の親は我たちに謝罪した。

 そして午後からの天体観測は、三人は自宅謹慎を言い渡すそうで帰って行ったが、まさか勇者に助けられるとは思わなかったな。



「よもや、勇者に庇われるとはな」

「……借りは返したぞ」



 そう言って去って言った勇者にフッと笑い、勇者はそのままお昼寝へ。

 我は午後の七夕祭りの続きを楽しむべく聖女の元へと向かったのだった。

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