3話目
部屋の半分ほどを占めている薄いクリーム色をした巨大な検査装置の中に僕は居た。
仰向けに寝かされた状態で回転する装置が僕の身体を下から上まで調べている。
普通の中学生はこんな装置には入らないんだろうな、回転する装置を見つめながらそんなことを考えていた。
僕にとっては小さな頃から今まで、もう何度も受けた検査だった。
僕は検査の終わりまで淡々と装置に身を任せていた。
次は採血だった。
「お願いします」と小さく言うと、僕はシャツの袖を捲って腕を出した。
細くて、青白くて、注射針の痕だらけの腕だった。
「先週血を採ったところがまだ腫れてるね。今日は反対の腕から血を採るね」
看護士さんに言われて反対の腕を出した。こちらの腕も同じように痕だらけだった。
「ちょっとチクっとするね」
僕は頷く。
「気分はどう?」
「大丈夫です」
僕は淡々と答えた。
その後も色々な検査を受けてから、待合室の隅の方で椅子に腰かけて、ミュージックプレーヤーでお気に入りの曲を聴いていた。
担当の看護士さんがやって来て
「俊介くん、お疲れ様。今日終わり。数値も良いね。この調子で頑張ろうね」と伝えられた。
僕はイヤホンを外して
「ありがとうございました」とお辞儀をした。
病院を出たときには12:00過ぎだった。
バスを降りた後の世界はいつもと変わらなかった。
僕は沙織さんとの会話を思い出しながら帰りのバスに乗っていた。
流れていく風景を見ながら”将来”について色々と思いを巡らせていた。
僕も大人になったら仕事をしているのだろうか。
大人の僕はどんな仕事に就いているのだろうか。
好きな人が出来るだろうか。なんとなく沙織さんの顔が浮かんできた。
その頃には元気になっているだろうか。
小さい頃、周りの子と同じように出来なくて泣いていると、
「周りの子よりちょっと回り道するかもしれないけど、大きくなった時、その回り道が俊介にとって大きな宝物になるから」と母親は言って挫けないようにしてくれたことを思い出した。
家に着いて玄関に入るなり、
「俊介、どうだった?お母さん、今日、一緒に行けなくてごめんね」
母親が心配そうに話し掛けてきた。
「変わりはないよ」
僕は素っ気なくそう答えた。
「来週は一緒だからね」と母親は言った。
「来週も一人で行くからいい」
僕は沙織さんとまた会えるかもしれないと思ってそう言った。
母親は本当に心配そうな表情をして
「心配だから」と言う。
「何も変わりないからいい。来なくていい」
そう言うと母親との会話を終わりにして僕は自分の部屋に入った。
僕は部屋に入るとゲームを始めた。
3Dビュー型のアクションゲームだった。
人型のキャラクターを操って、大勢の敵キャラクターの攻撃を避けながら、敵キャラクターたちを倒していくというゲームだった。僕の操るキャラクター以外はすべて敵というゲームだ。このキャラクターに比べたら、僕はまだ良いほうだな、とそんなことを思いながらキャラクターを操っていた。敵の攻撃をうまく避けることが出来ないですぐにゲームオーバーになった。
明日は学校に行く日だった。
「明日は学校か、、」僕はため息をついた。
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