宴
「ガハハハハハ!! そんでね! 私の矢がズバーーーーー!! っと射抜いた訳よ!!! おいこら! 聞いてんのか~~!!」
『はい!! メアリーさん!!』
卓上にズラッと並ぶ空のジョッキと皿、そしてこの豪快な彼女を取り巻き沸き立てる村人に圧倒され、アルバートは端のテーブルで小さくなっていた。
…………
イコルの森を脱した三人は一日をかけ、シムを換金した村に再び訪れた。村に入った頃には日が沈みかけていたが寝床に心配はなく、迷う事なく辿り着いたのは数日前にお預けしたあの一軒。中に入るとあの時と同じように娘とその母親が座っていてレオン達を見るなり「あら先日の旅の方」と快く向け入れられたのだ。食事と酒も用意されると酒の力によってドンドンと愉快になっていったメアリーが居合わせた村人を巻き込んで現在に至る。
「料理は旨いし酒も旨い!! よっしゃいくぞ! お前達!!」
『うおおお!! 凄い飲みっぷりだ!!』
「っぷは! ガハハハハッ!」
「こんなにもてなしがいがあるお客さんは久しぶり。料理もお酒もまだまだ沢山ありますからね~」
「やだ~、お姉さん本当に優しいわ~。ほら、お前達もちゃんとお礼言いなさい!」
『ありがとうございます!』
厨房を切り盛りする宿主の娘は突然の強敵に腕を鳴らし四方八方を軽やかに動き回っている。対して酒が入ったメアリーは”じゃじゃ馬”の通り名に遜色ない…………いや、もはや”暴れ馬”と言って過言ではないくらいに暴れまわっていた。その暴れっぷりに対して「もう村人に後は任せておこう」と言ったレオンはアルバートと共に別席にて大人しく暴れ馬を見守っていており既に二人には手に負えず諦めているのが伺える。
「彼女いつもこうなの?」
「こんなには酷くはなかったんだが。あの森のせいかもしれんな」
「気の毒に………」
「ちょっと〜アンタ達なんでそんなに静かなのよ〜。ヒック、今日はメアリーさん調査任務お疲れパーティーでしょ〜。私は主役なんだから崇め奉れ〜」
葬式のように静かな二人の所へジョッキ片手にメアリーは近づく。何とか呂律の回るその口調に対して「はいはい」と慣れた様子でレオンが話を受け流すとふてくされたのか彼女は標的をアルバートに替えて赤くなった顔をズイっと近付ける。まるで獲物を仕留めるように鋭い紫の瞳にドキッとしたアルバートは顔をそむけた。
「おい、ヒョロヒョロ金髪、お前、な〜んだっけ? アーキテクツだったけか?」
「………アルバートです。それより、あの、近い、近いから、ちょっと離れて。」
「あ〜!? なんだ〜!? このメアリーさんに反抗しちゃうってか〜!?」
「く、臭い、酒臭いよ。それに体が当たってるから、お願いだからちょっと離れて」
「うるせー! いいから飲め〜! オラー!」
彼女は持っていたジョッキの中身を強引にアルバートの喉に流し込んでくる。その様子を横目で見ていたレオンは頬杖をつきながら溜息をついた。
それからも、アルバートはメアリーに煽りを受け、無理矢理に飲まされ続けると彼の頭がグルグルと回り、今にも吐きそうで時々来る波に口元を度々押さえる。そんな状況に痺れを切らしたのかレオンは真剣な顔つきでメアリーに話しかけた。
「メアリー、あの森にはどの位の間潜っていたんだ?」
その問いに対して傍若無人の様子から一転、メアリーも真剣な表情になった。
「おおよそ、ひと月て所ね」
「ひ、ひと月も!?」
意識が遠のきそうなアルバートも流石にそれを聞くと驚愕せずにはいられなかった。命がいくつあっても足らないであろうあの森に一日、いや一分ともいたくもないだろう。それにも関わらずひと月もあの森に留まるなど自殺の他ならないと人は考えるのが当たり前だ。
「昼間も話したように、あのイコルの森では何が起こったのか全く掴めなかったわ」
「僕達が遭遇してきた、あの巨大な猿や蜘蛛は一体………」
「それを調査するように私はババ様から仰せつかったのよ。もともとイコルの森は加護を授かった汚れない森。その通り今まで美しい場所だったのに………」
「緊急の帰還命令から察するに何か分かったかもしれないな」
「………そうね」
会話が途切れ、一瞬、空気が重くなる。しかし暗雲を晴らすかの如く暴れ馬メアリーは突風を吹かせる。
「ま! 今考えても仕方ないか! それより今夜は楽しまなきゃ! とことん飲むぞよー! オラオラ! 金髪モヤシ! こっち来い!」
「ぼ、僕はもう遠慮するよ…………待って、来ないで! お願いだから!」
「オラオラ! 死ねやーー!!」
「ううううううう!!!!??」
……………
……うぅ………朝?…………」
翌朝、アルバートはベッドの上で酷い頭痛と強烈な胸焼けに顔を歪めた。昨夜の宴は止む事を知らずメアリーに煽られ一人、また一人バタバタと意識を失い倒れていく中、アルバートもその一人であった。見覚えのない一室、久しぶりの屋根とベッドであると言うのに最悪の気分に項垂れていた。もう一つあるベッドはもぬけの殻になっている。レオンが休んでいたんだろうがどこへ行ったのだろうか。
起き上がる事も億劫で毛布をずっぽりと被ろうとした矢先、勢いよく扉が開き暴れ馬が入ってくる。
「いつまで寝てるの!? 起きなさい!」
そこに昨晩のご機嫌な姿は無く、湖での様な尖ったメアリーがそこにいた。
「………最悪の気分なんだ、回復するまで少し待ってほしい」
「はぁ~? ほんっとなっさけないわね~。早くしなさい、もうレオンは支度を終えて外で待っているんだから」
「一体、誰のせいだと思っているんだ………まさか昨日の夜は覚えていないのかい?」
「何? 私が何かしたって言うの?」
「………君って人は」
「?」
全く身に覚えのないメアリーは首を傾げるだけだった。
それからアルバート何とか重い体と闘いながら支度を済ませて外に出るとレオンとメアリーが待っていた。
「ははは、ボロボロじゃないか。まぁ昨日は大変だったからな」
「レオンはどうしてそんなにピンピンしていられるんだ?」
「俺は星空に呼ばれてな、あの空間にいられないのは名残惜しかったが仕方なく一人で見に行ってたんだよ」
「何バカ言ってんのよ」
「まぁ話はここらにしてそろそろ行くぞ」
「"森の民の地"にだね?」
それを聞いメアリーは下を向き「はぁ」と一つ溜息をついた後、顔を上げ何とも面倒くさそうな表情で言った。
「違うわ。今から向かうのは"キャリバンの渓谷"よ」
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