1-53.飼い主責任。
〇美怜〇
「なら正直に話そか」
「いる?」
「頂きます」
一つ、私に差し出してきたので、遠慮なく口に放り込む。
滑らかな感触と強い甘みが私の脳をクリアにしていく。
「さて、美怜ちゃん――あんたは唯莉さんにとってゆり姉の子供という所が限界なんや」
最初の手紙に会った通りの言葉だ。
「よう似とるさかいな?
どんなに家族を演出しようとしたところで、唯莉さんにはゆり姉を思い出してしまう。
つらいんや」
ガリガリと口元で氷砂糖をかみ砕く唯莉さん。
「だから、甘えて貰うことはでけへんかったんや」
「昔の私では他人扱いに薄々気付いてても言い出せませんでした。
それでも、そう言われていたら私は何をしていたかも判りません。
その話は今聞けて良かったと思います」
全くもって望のおかげだ。
だから、私はもう一つ踏み込む。
「聞きたい事があります。
お父さんのトラウマの理由です。
望も何故、お母さんの面影を見ると発作が起こるのかは知らないようでしたので」
唯莉さんは少し悩み、「まぁ、ええやろ、どうせいわなあかんことや」と呟き、追加の氷砂糖を口に入れて喋り始める。
「――美怜ちゃんが生まれる際、ゆり姉が死んでしまったのは言うたな?」
「幾度となく、聴きましたから」
「これの理由は初めて話すわな。
――ウチと同じで成長できない体やったゆり姉はお産に耐えきれんかったんや。
あ、悲しい顔せんでええで、ゆり姉は美怜ちゃんを産んだのは間違っても後悔してへんかったから」
私のせいで死んだという事実は感情を得るには十分だったらしく、唯莉さんもそう気遣ってくれる。
「で、あの人、美怜ちゃんのお義父さんは大きなプロジェクトを抱え込んでてな。
死に目にあえへんかったんや。
ゆり姉も、邪魔になったらあかんて言わへんかったしな」
それでも、と唯莉さんは続ける。
「得たモノは金と名声と地位。
けれどもそれを得るための代償にゆり姉は死んだ。
だから、自分は責められるべきやと脅迫概念をもっとるんや。
んで、ゆり姉の形見であるあんたを見ても自分自身を責め立てる――簡単な話や」
なるほど、っと納得できた。
同時に少し安心した。
お父さんが真っ当な人間だと理解できたからだ。
「少しだけお父さんを見直しました。
ただ、自分勝手な理由――私を見て倒れるのは私がお母さんに似てるから――それこそ代理品みたいに扱っているからだ。
っと、そう思い込んでいましたから」
何故ならば、
「望を代理品にしてたぐらいですしね」
唯莉さんは困ったような微笑みを浮かべる。
「望の件は事実やったけど――それはあらへん。
双子である唯莉さんの方がアルビノであることを除けばそっくりなんやから。
――自分よりも少しばかし年取れたけど、成長しないことも含めてな?
それは絶対に無いわ」
前までの私で言えば、虐めに対してのトリガーみたいなものなのだろう。
望も家族観に何かトリガーがあるし、お父さんにも存在しうるのは全然あり得る。
私のは記憶を改竄するまではいかないが相当辛かったのは確かだ。
今もフラッシュバックは起きると思うが、辛いとは思わない筈だ。
――望がいるから、不安は全部託してしまえばいい。
私は手を拳にし、望の暖かい手を思い出し、勇気にする。
「まぁ、あんたにも会われへんのがほんまに辛かったみたいやしな。
唯莉さんとしては、それを後押ししてあげたかったわけや」
嘘は無い。
長年、唯莉さんの表情を見てきた私はそう確信めいたものがあった。
「――もし、お父さんが今、私にあったらどうなると思います?」
もう一つの動機。
ここに来れば唯莉さんがいるだろうという想定で質問を考えてきた。
「正直、記憶の具合からは他人にしか見られへんと思う。
けど、念のため、会って欲しくはないけんね?」
唯莉さんは本気で困った顔をこちらに向ける。
「これ以上、何かが彼に起きたら唯莉さん、泣いてしまうわ」
そう言う表情は今にも泣きそうだった。
唯莉さんの泣きそうな表情は今まで一度も見たことが無かった。
私には向けられなかった感情の動きだ。
「お父さんは私に会いたい、望にそう言っていたようです。
ただ、家族としての記憶は無いけれども、思い出すきっかけになればとの意図のようですが」
そのお父さんの言葉は私の興味を引いている。
だから、ここに来た。
ただ、少し工夫が必要な気がしてきた。
「――なら、唯莉さんはとめへん。
彼がそう言うなら、止めるのは不義理や」
「ただ、今会う気はありません。
また後日、望と来ます」
いきなりの手の
「そこで唯莉さん、一つ手伝って頂けますか?」
私は思いつきを提案した。
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