1-35.ソラの下(した)。
望君が私を救ってくれた。
マッチポンプと言えばマッチポンプではあるのだが、それでも彼は私のために動いてくれた。
結果、私に女子は話しかけてくれるし、無視もしないでくれるようになった。
「カッコよかったですわ」
ちゃんと返してくれた。
嬉しかった。
それより、
「優しかった」
頭に手を置かれたときなんて、心臓を口から吐き出しそうになっていた。
思い出しながら、自分の手を触れられた頭へ。
言葉を囁かれた時なんて、意識が飛びそうになった。
『そういえば鳳凰寺さん、望の事、好きなんですか?』
「――好きなんですかね?」
自問自答。
心が騒めく。
「あああああああ! もううううううう!」
叫びながら制服が汚れるのも気にせず、床に転がってしまう。
やってしまいましたわねと思いつつ、周りを窺う。大丈夫そうだ。
それほど、感情が揺さぶられた。
落ち着き、仰向けで、大の字で、空に対して視線を向けた。
「何というか、私を虐めて憎いとか、私の持っているものを持っている嫉妬だとか、そういう感情もありますが――」
両頬を両手で触る。
熱い。
「うううう、どうしてしまったんでしょう、ソラは」
ドキドキする。
というよりも、感じたことのない感情の動きがコントロール出来ない。
ソラがソラでないかのような錯覚すら覚える。
魔法使いの彼を思う度に、転がってしまう。
「――落ち着きましょう、ソラ、深呼吸、深呼吸」
ふと、目線へと意識をやれば、自分の名前を同じ、空が広がっていた。
まだ、夕暮れまで時間がある。
いつも街ばかりみていったからか、新鮮に感じる。
「空は自由ですわね」
街と違い、境界線が無い。
それこそ、どこまでも自由な気がする。
そしてその在り方こそが奇麗に思えた。
小さい場所に囚われず、それこそが居場所だと。
「ソラは居場所が欲しかった、誰かに認めて欲しかった……」
家族に居場所が無かった。
だからこそ、欲しかったもの。
「美怜さんが羨ましいですわ」
ふと零れた言葉。
シンデレラ、不自由だった彼女に、望君は魔法をかけて自由にした。奇麗に変身もさせた。
ムリの無い居場所を与えた。
ズルい、羨ましい。
ソラは自分で頑張ってきたのに、不公平だ。
嫉妬を覚える。
「――私も、返して貰いましたわ」
でも、それは本当に欲しかった居場所だったのだろうかと、今は思う。
所詮は、学校という中での立場だけだ。
家に帰れば現実が待っている。
私は不自由だ。
「本当に欲しい居場所は何処にあるんでしょうか」
望君が浮かんだ。
ふと、何故、私自身が彼と隣に並んだ姿を妄想する。
白と黒、
『ピッタシだと思うんだけどね?』
美怜さんの言葉も思い返される。意図は読めないが、その通りなのだろう。
ソラ自身も彼を彼氏にしようと画策していたこともある。
彼が私に相当すると考え、似合いになるだろうからと考えていたからだ。
「――えへ」
そう成れればと考えた瞬間、笑みがこぼれた。
「望君のことが好き」
自覚するように言葉にした。
すると、世界が広がったように思え、恥ずかしさやもどかしさといった感情がクリアになり、世界が広がる感覚を覚えた。
まるで先ほど、見つけた空のように。
「好き、うん、好きですわ」
噛みしめるように繰り返す。
私はその感情が確かなモノだと、大切に、言葉にしていく。
「――でも、望君は?」
ふと、不安を覚える。
彼は私と同じく、憎しみに近い感情を覚えていた筈だ。
今もそうかもしれない。
そう思いつくと、悲しくなる。
自業自得の部分が大きいし、それがなければ、こんな感情を得ることも無かった。
だから、ソラ自身は納得するが、気持ちの部分でだかまりが残る。
『直接言わないと伝わらないこともあるかな、私と望みたいに』
浮かぶは美怜さんの言葉――確かにそうだ。
私は嫌われているかもしれない、でもこの感情は言葉にしなければ絶対に伝わらないという確証がある。
そしたら私はずっと好きな人に、嫌われたままだ。
何もせずに、遠くからみているという選択肢もある。
でも、それは恐怖で制限されて狭い考えに凝り固まるという意味だ。
ソラは眼の間に広がる空の方が、下に広がる街という制限がある不自由よりもずっと好きだ。
だったら、行動する。
確か、今日は委員長の仕事で、望君は残っていた筈だ。
早い方が良い。
私は走り出していた。
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