1-28.悪魔の意図。
「ゲジ眉君にやられたことをやり返す、彼女を最下層まで叩きつけるための仕込みをしたのさ」
「――
言われて、何故、その名前が浮かんだのだろうかと疑問に思う。
「望に私が束縛されているのではないかと、そうメールでよく心配してくれたけど――何か彼女がしたの?」
「……そうかメールか、完全に失念していた。
美怜がメールを交換するという可能性を最初に投げ捨てたのがミスか!
美怜からの相談を受けるという形でアドレスを渡せば、信頼も得て、メールのやり取りまでいける」
望の顔が疑問が解けたと晴れやかな表情になり、次には珍しく自己嫌悪を露わにする。
「私も他人のを知る機会が無いと思ってたから。
今もそれに鳳凰寺さんのが追加されてるだけで、あまり変わらないよ?」
「美怜のメールチェックを怠った僕のミスか?
いや、それとも朝の登校からベッタリ張り付いているべきだったのか?」
「家族だからってプライバシーは必要だよ?」
「僕の部屋でのプライバシーを侵食しまくっている君が言うかね、それ……ともかく自分のミスだね? 上手を行かれたのか……」
望の手元で何かが折れる音がした。
「――望、箸」
見れば、力こぶしが握られており、使えなくなった箸が握られていた。
「あぁ、すまない。どうも駄目だね、僕は」
「駄目なんかじゃないよ。
望の言うとおり、素直な感情の発露は正しいことだよ」
望が眼を見開き、新しい箸を渡すこちらを見てくる。
「驚いた。あぁ、驚いたとも。
君のその理解の速さ、いや知識を自分の知恵にする行動にまだ二日しか経ってない」
「もう二日だよ?
望との喧嘩で、私の何かが変わった。吹っ切れたともいうのかな?」
後、もう一つ言っておく事がある。今の会話で気づいたことだ。
「私に行われた虐め、その裏で糸を引いていたのは鳳凰寺さんってことかな?
そして望は意図的に鳳凰寺さんを挑発して虐めを誘発させた。焚き付けたってこれだよね?」
論拠は望が鳳凰寺さんを計画のうちに組み込んでいたことだ。
驚きの顔で見てきたので、やっぱりと思う。
私と相対する望は突然の事態において感情の動き、特に驚きを隠すのが下手すぎる。正直とも言う。
「でも、鳳凰寺さんのことを怨むような真似も駄目だよ。反省するようなら許してあげなきゃ。そうでなきゃ、焚き付けた望も許せないし」
「いや、君を初めて恐ろしいと思った。
恨むどころかそれを飲み込むとはね」
「そうかなー? でも、ありがとう。
私のことを思ってやってくれたんだろうし」
正直、嬉しい。
歪んでいるという自覚はあるが、望が何かしらの理由で私のことを思ってやってくれたことだ、嬉しくない訳が無い。
「では改めて、今日のサバトを説明して?」
「これのことだね?」
望は一枚の紙をズボンのポケットから出してくる。霞さんに頼んでいたアンケートだ。
単純な二択問題が数十問、そして名前と日にちを書く欄。
一見、何の変哲も無い。
「――簡単な説明をするためにトランプを使う」
彼はトランプを戸棚から取ってくると私の側に座ってくる。
そして裏側をしたカードを適当に床へとばらまいた。
「君は適当に指でトランプの郡を貫通するように線を引いてくれ、その線に沿って片側をゲームから取り除く。君がどんな線を引いても最後にハートの一を残す」
真ん中に切る。すると左のカードの郡が取り除かれる。更にその真ん中を切る。
するとまた左のカードが残される。次は右だ。五十二枚、二十六枚、十三枚、六枚、三枚と減っていく。
最後の線を引くと二枚が取り除かれ、一枚が残った。
「裏返してごらん?」
それはハートのエースだった。
「今度は私がやるね?」
望がこちらを面白そうにこちらを笑む。
五十二、五十、四十八、十五、七、そして六枚を取り除いて最後の一枚になる。
それはもちろんハートのエースだ。
「――良く判ったね? 偶然と言うわけではないんだろう?」
望が興味深そうな眼差しを向けてきた。だから、私は表にしたカードを適当に置く。
「これ卑怯だよ。
カードを捨てる選択権がハートのエースを残す側にあるんだもん。
線を引くのが私でも、その二択のどっちを捨てるかは望が決めれる。
最初にハートのエースの場所を何かしらの方法で知っていたらハートのエースを含めない方を取り除く――だよね?」
話しながら適当に線を引き、ハートのエースをある側を残し、無い方を取り除いていく。
当然、最後に残るのはハートのエースだ。それを望に手渡す。
「霞さんを使って男子全員に配って貰ったアンケートはそれの応用だと言いたいのかな?
二択と言いながらも明らかに片方は選ばれない選択肢を書いている……つまり」
アンケートの内容を指差すと望が満足そうに笑顔を向けてくれる。
「先に結論が決まってるんだよ、これ。
問題の数は問題にならないけど、二個にしたのは取っ付き易くするためかな?」
「ご名答」
望はハートのエースを床に置いた後に、取り除いておいた他のトランプを全て紙箱のケースにしまいこむ。
その仕舞われたトランプの代わりに胸ポケットに刺しておいたボールペンをハートのエースの横に置く。
「二択でも何でも、偽善を書く傾向に大抵の人はある。名前を書くのだからなおさらね?
だから、虐めは許さない、虐めを許すの選択肢では許さないの方に○をせざる得ない。
本人がどう思ってようが他人に見られるもので名前を書く欄があり特定される」
望はハートのエースだけを持つ、
「そしてこの紙に書かれた数問の問題から『高校生にもなって虐めを行っている奴はかっこ悪いと思い、許さない』という結論が浮かび上がった紙が十五枚出来上がる」
するとその裏側から同じカードが十五枚出てくる。望が手品も嗜んでいるのは初めて知った。
「どっかの世論調査もこんな感じだよ?
選択肢を見せない、限定する、選ばれない選択肢を書く、――酷い民主主義だね?
そんなわけでクラスの半分こと、男子の見せ掛けの世論は僕の描いた通りになる」
十五枚のハートのエースを置き、ボールペンを囲う。
「さて女子だが、男子の十五名分の回答を先に見せ、僕が配る前に言葉での意見の誘導もした。
女子は周りとの関係性を重視する傾向にある。
男子十五名がこういう意見だと言うこと認識したら、当然、同じ意見にしないといけないと普通の女子は思う」
ネットの世界でも、自分の周りがこう言ってた! と書き込んで、反論されているのを目の当たりにするのは良くある。
「ちなみにこのアンケート、鳳凰寺君を含む学食派の女子には取っていない。
しかし、女子十五名の中であの場に居なかったのは美怜、小牧君、ゲジ眉君を含めても七名だけだ。
しかし、クラス女子の五割以上が『高校生にもなって虐めを行っている奴はかっこ悪いと思います』と刷り込まれれば、それはもうクラス女子の世論だ」
瞬きをした瞬間、ボールペンがハートのエースのカードに摩り替わっていた。
「酷い世論操作を見た気がするよ」
「紙に書かせたのは自意識への刷り込みを狙ったモノ。
暗記を行う時に書くのが良いという話と乱暴に言ってしまえば一緒だね。
署名は書いた人物の特定用という狙いもある。
もし未来で虐めを行ったら『高校生にもなって虐めを行っている奴はかっこ悪いと思います』という意見はどこへ行ったのか責め立てる事が出来る」
望が作ったアンケートを再び見る。すると今の説明を全部聞いてからだと急に禍々しさを感じる。
それこそ悪魔の契約書。
なるほど、確かにサバトだ。召還された悪魔は望。
悪魔召還を題材にしたゲームと小牧さんから聞いた知識を元にして言えばダンタリアン辺りに被る。
「これぐらいはしないとね? よっと、もぐもぐ」
悪魔は楽しそうな表情をしながら、最後の生春巻きを箸で奪い丸呑みした。
「あ、私の分!」
「――代わりに後でアイスでも買いに行こうか?
日も沈んでるし、紫外線避けのクリームもいらないだろう。奢るさ」
これも望が私と散歩をしたいがための誘導なのだろうかと、ふとそんな考えが浮かんだ。
だから、うーんと高いアイスを奢らせることに決めた。
具体的には駅近くの商店街に新しく出来たというジェラート屋の二色盛りジャンボサイズ七百円。
食べきれないのは判っている。残りは望に食べさせればいい。
悪魔への対価は高い方がいいに決まっている。
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